一日に一枚ずつ聴く

アジカンは自分にとって近いようでそんなに近くない存在である。もちろん知らないはずがないし、カラオケに行くと大抵は賑やかしで歌う。フェスで見たときはうれしかったし楽しかった。

でもじゃあ彼らの音楽をちゃんと聴いたことがあるかというと、疑わしい。というかない。私のipodに入っているアジカンはベストアルバム一枚だ。それで今まで事足りてきたから。でも今、やっぱりとりあえず一回聴いてみるべきだよなとふと思った。

オリジナルアルバムを一日に一枚ずつ。題して「一日一アーティスト」。今回はアジカンでスタート。まずはデビューアルバム「君繋ファイブエム」から。

君繋ファイブエム

大好きな「アンダースタンド」や「未来の破片」が入っているのですでに十分楽しめているのだが、それより今回は新しいアジカンの発見に注力しているので、今回初めて聴いた楽曲で気になったのを紹介したい。
まずは「夏の日、残像」。アジカンっていつも日常的な目線で景色や気温といった自然描写が光るバンドだって思うので、タイトルからすでにアジカンっぽくて好印象を持つ。メロの良さが際立っているのはシンプルかつストレートなアルバムだからか。
全体的に荒っぽく、勢いがある、というのは誰が聴いても同じ感想になるだろうけど、それがにじみ出てるデビューアルバムってやっぱり最高にかっこいいし、だれにでもできそうでできないんだよな、とつくづく思う。熱量が空回らずしっかりとリスナーに届くってのは難しい。



ソルファ

人気度の高いセカンドアルバム。そりゃそうだ、大体の曲知っているくらいだから。「ループ&ループ」はどこか昔聴いてたような記憶があるが、なにかのタイアップかCMソングだったりしたのか。調べてないけど、そんな気がする。47分とちょうどいい時間で12曲をぴしゃりと収めてるのも名盤たる所以。本人たちは「なぜこんなに売れたのかわからない」といってるそうで、それを確かめるべくセルフカバーをした再録版を発売したほど。もちろん再録が発売されていたのは知っていたし(MVで千原ジュニアが落語してましたね、落語ってのもメンバーの発言にもありましたが)、大喜びで買ってた友達もいたのでさらっと聞かせてもらいましたが、そんな経緯があったことも知らなかったので、今回この企画をしてよかったなと。
個人的には「ラストシーン」と「サイレン」の流れが素敵だなと思った。なんかつながってる気がしたのだ。そしてやたらと後ろ向きな歌詞。何度も聴いていないのでわからないが、この二つは違った意味で目立った曲だった。



ファンクラブ

始めは2ndアルバムと勘違いしていたが、apple musicのアルバム表記順が悪いのであって私のせいではない()。
一聴したところ、暗い展開の楽曲が多く、ドラムも個性的なフレーズがあったりと前作から随分と変えてきたなという印象があり、ある意味で(間違ってはいるけど)セカンドアルバムらしいアルバムだなと思った。
ファーストで好調だったミュージシャンの次作は大抵暗くなるから。
でも実際はサードアルバムで、でもその前のセカンドがすごくウケたことによるサードなので、まあ大体当てはまっているかなと。
このアルバムはなかなか一筋縄ではいかなくて、後藤自身大変苦しんで生み出した作品だそう。だからこそこのアルバムはファンがこぞって解説したくなり、そういったサイトは他のアルバムより多く散見された気もする。歌詞がより示唆的で隠語を含んでいたり、モチーフになっている物が事件やテロといったヘビーなものであったりと、異色さが際立つ。事実ジャケットが黒を基調としたモノトーンで、全アルバムでこれが唯一のモノトーンでもある。

そのなかでも「ブルートレイン」や「月光」といった個人的な好みも発見できた。だが、確かに、ファンでないとこのアルバムの真価には中々たどり着けないだろうなとも感じる。



ワールド ワールド ワールド

明らかに前作の反動として作られている作品。明るく、疾走感にあふれ駆け抜けていく40分強。それは前作で突き詰めた内面とサウンドプロダクションがおもったよりウケなかった(のかな)ための半分皮肉も込めたものなのか、あるいはその先に行きついたものはこの闇を抜けた光だったのか、インタビューを探さないとわからないけれど、私はどちらにも感じられた。
これらも当然知っている曲がゴロゴロ入っていて、ぐんぐんと聴き進められる手軽な作品(悪い意味ではなく)。先にアジカンの影響下にある2010年代に活躍したバンドを多く知っていたので、今作を聴いて「ああこれとかソルファを聴いてみんな曲作りしてんのか」と影響元を遡った気分になり、なにか明快な答えが見つかったようだった。
「No.9」とか5年前のどこかのバンドの曲といわれても信じそうな。

というかギターバンドだなと感じる作品で、いいメロが本当に多い。

【参考】未だ見ぬ明日に

「ワールド ワールド ワールド」の3か月後にリリースされたミニアルバム。前作がコンセプトアルバムだったのと、トゥーマッチになりすぎないために除かれた楽曲を収めている。制作時期も同じで、決してアルバム楽選曲というわけでもないので、クオリティは高水準。そして20分強の短さを活かして、緩急をつけないスピーディな楽曲を並べて、とても勢いのあるアルバムになっている。「ムスタング」といったが人気曲もあり、これはこれでとても素晴らしい楽曲集。



サーフブンガク カマクラ

江ノ電を順々に巡っていくような感覚にさせてくれる斬新なアルバム。おおよそ30分と江ノ電の乗車時間と同じにして、疑似体験を味わえる。これといってベストに挙げるような作品は見当たらなかったが、そのひとつのキャッチーさより全体的なイメージと流れを重んじた作風は嫌いではない。江ノ電は実際に6年ほど前に乗ったことがあるが、この楽曲陣とは非常に相性がいい。



マジックディスク

此処まで聴いた中で一番好きだった。ホーンやストリングスの導入で一気にポップスとしてのアジカンが開花したというか、ロックファンだけが喜んで聴く音楽ではなくなった感がある。その一つの根拠に、今までの作品の中で好きな楽曲は”カラオケで歌ったら楽しい”とか”ライブで盛り上がりそうですき゚”とか”エモーショナルで駆け抜けていく疾走感がたまらない”というフィジカルなイメージを伴う爽快感が多かったのに対し、このアルバムの一曲目「新世紀のラブソング」は大好きな曲の一つではあるけどそういったフィジカルなイメージはなく、”じっくり聞き込んで深く頷く”楽しみがある。沁みると言えばいいのか、深みがおもしろい(もちろん今までの楽曲に深みがないというわけではない)。
それはラストの「ソラニン」も同じで、本当に聴き飽きない、緩急もしっかりしてある素晴らしいアルバムだなと。「架空生物のブルース」がヘビロテ案件。



ランドマーク

震災後に作られたアルバム。本人たちが語るように、なかなか苦労した作品で、様々な葛藤の中で作られている。それが作風にひしひしと表れていて、やはりどこか突き抜けない、かつてのアジカンらしさに欠ける煮え切らないアルバム(とはいえこれ以降00年代の様なアジカンらしさは薄れていくが)。
もちろん歌詞にも注目は向くが、「マシンガンと形容詞」や「踵で愛を打ち鳴らせ」のような好みの作品も見つけられたのは収穫。



Wonder Future

Foo Fightersのスタジオを借りて録音された、というのはテレビで聞いたことがあるので知っていたが、サウンドもしっかりヘビーになっているとは正直思っていなかった。ある意味革新的だし、最初で最後のフーファイ的、ニルヴァーナ的アプローチを露骨に示した作品だと思う。とにかくサウンドの面白さが抜きんでていて、聞きごたえのあるアルバム。2015年といえばEDMを筆頭とするダンスミュージック最盛期で、そう思うとここで彼らが「復活」と言う文言の元でヘビーなロックをする意義をくみ取ることができる。「Planet of the Apes/猿の惑星」が個人的にお気に入り。



ソルファ(2016)

自分達でもなぜここまで支持されているのか分からない、と公言するセカンドアルバム「ソルファ」をもう一度録り直し見つめ直してみようという試み。まるで古典文学かのようなセルフリメイクは、MVで千原ジュニアが古典落語を演じていたことからも意識は明らかである。
内容はというと、そもそものキャッチーさが強いので、少々込み入ったアレンジをしても十分聴けるレベルにまでもっていくことができる。「リライト」のような今のアジカンだからこそできるアレンジや、「サイレン」のボーカルエフェクト、「Re:Re:」のイントロなど様々なアプローチで現代にアップデートしている。
決して全部が素晴らしくなったとは思わなくて、個人的には余計だったな、と思うのもあるのだが、試みとしてはおもしろいし、全肯定できる企画だったと言い切れる。



ホームタウン

現時点で最新アルバム。低音がひときわ輝いていて、全てがクリアに聞こえる。サウンドに拘っているのがすぐにわかる作品。穂人たちもこのアルバムへの納得度は高く、それだけのクオリティであることは間違いない。「クロックワーク」や「サーカス」といった楽曲が好みだった。
シンプルさが際立つので、後半は気を付けないとツルっと聴けてしまい、いつのまにか終わっていることも。
このアルバムは「ソルファ」や「マジックディスク」に次ぐ作品だと個人的には思っている。



おまけ

崩壊アンプリファー

1stアルバムを出す前に出されたEP。アルバムに収録されていないものばかりなので、ぜひ聴くべきとの指摘があり視聴。これから明ける彼らの時代を予期させる衝動と疾走感。「羅針盤」とか、アンコールで突然やったら相当盛り上がりそう。



まとめ

以上が、私がアジアンカンフージェネレーションのアルバム全部聴いてみた結果である。
確実にアルバムを出すごとに進化していて、一度たりとも惰性的な、停滞的なアルバムがなかったのはさすがだし、だからこそ20年弱のキャリアでここまでの地位を獲得しているのだろう。ストレートなロックはweezzerぽくも、greendayぽくもあり、でも彼らにしかできない日本語の抒情的な詩を乗せて歌う世界観は後進のバンドに大きな影響を与えたことは改めて言うまでもない。
正直な話をすると、やっぱりシングル曲は楽しいし、アルバム曲はつまらないものあった。インタビューを読んで、詞を読んで理解しようとしても、そのおもしろさにまですべてたどり着けるわけではない。特に3枚目の「ファンクラブ」はやはりもう少し時間をかけて聴き込み、詞を理解しないと楽しみ方は満喫できているとは思えないし、かといってアジカンばかりに何度も時間を割きたいと思うわけでもない。そのあたりは、ファンじゃない人間の難しいところだなと自分で思う。誠実さと興味関心の喪失の
狭間で揺れる。
それでも今回きいて「あ、こんなストリングスの使い方とかするんだ」という驚きや、女性コーラスのコラボや低音を意識したアルバムなど、思ってもいなかったアジカンの姿を観られたことは非常に価値があった。
そこで今回聴いてみた中で、「あこれ好きだな」と思った楽曲をプレイリストにしてみた。知っていた曲は除いて、全て今回知った楽曲のみで構成されている。アジカンファンはもちろん、同じようにアジカンを知らないという人にもおすすめしたいプレイリストなので、ぜひ。

この企画、続けていきたいなと思う。ぜひ試してほしいアーティストがいれば教えてください。

個人的アルバム順位

①マジックディスク

②ソルファ

③ホームタウン

④君繋ファイブエム

⑤ワールド ワールド ワールド

⑥ファンクラブ

⑦Wonder Future

⑧サーフブンガク カマクラ

⑨ソルファ2016

⑩ランドマーク