COVID-19によるパンデミックは私たちの生活様式を大きく変容させた…

もはや聞き飽きたこのセリフでも、言わざるを得ないほどにエクスキューズが必要な世界になってしまった。「コロナだから仕方がないよね」が共通認識となり、それが免罪符となっていろいろなものが解体された。私は全く納得してなくて、歯がゆい思いを重ねるばかりだ。私たちの一年はそんな単純な数字の積み重ねではない。それぞれにとって大切でかけがえがなくて取り戻せない時間の累積なのだ。

特に今年卒業を向けたみなさんの悔しさは計り知れない物だろう。私たち大人とは比べ物にならないほどに貴重で愛おしい時間を奪われ追い出される気分はさぞつらいだろう。意外とそうでもないって人も、いずれその事実を深く受け止めるだろう。それもまた人生、と言い切れるならそれに越したことはないが、やはり一人のおとなとしてその責任を感じずにはいられない。

やり残したことは数えきれないはずだ。文化祭や体育祭、修学旅行や卒業旅行。クラスで大声で笑い合ったり飲み物を分けあったり買い食いしたり。マックで遅くまで勉強会と称した後輩や先生への愚痴や数Ⅱ物理への不平不満。予備校のイケメン先生の盗撮写真をシェアし、一緒にオープンキャンパスへ行き茶髪のオシャレな大学生の案内を受け高揚していたにちがいない。

大学生のみなさんはどうだろうか。就活は大変ではなかったですか。ゼミは出席できただろうか。卒論はうまく書けただろうか。資料集めも難航したのでは。引退したサークルに顔を出すこともままならず、バイトはクビになりお別れの宴会もできないまま実家に帰った人、遠距離恋愛になった人。クラブやライブハウスといったサードプレイスは奪われ、出会いの場も壊滅。楽しみにしていた卒業旅行は国内すらままならず、ディズニーランドは夢のまた夢。なにを心に刻めばよいのかもわからぬまま社会人になることの理不尽さは計り知れない。全て私たち大人の責任であり失態であり、「しょうがない」部分もあったとしても、やはり満足に生活をさせてあげられなかったことの後悔は大きい。

とはいえ卒業はする。いつかは旅立つ。卒業を迎えた皆さんは就職か、進学か。いずれにせよ新しい環境に身を置くことになる。色々な障害も直面するだろうが、強くたくましく乗り越えてほしい。

ということで卒業ソングを私からも贈りたいが、さすがに提案されつくしているので、新曲の中から選んでみる。

藤井風 – 旅路

報道ステーションでの演奏が見事だった藤井風なりの卒業ソング。じっくりと染み渡らせるように歌い上げる藤井風の誠実さとピュアさももちろんだが、サウンドの機微も素晴らしい。おめでとうもありがとうも言わなくても、誰かを想ったり懐かしんだり、語りあうことができる。

あーあ 僕らはまだ先の長い旅の中で 誰かを愛したり 忘れたり 色々あるけど

これからまた色んな愛を受けとって あなたに返すだろう 永遠なる光のなか 全てを愛すだろう

自然と涙がこぼれる様な、複雑ではないけど何かをすくい取ってくれるようなそんな優しい歌である。

iri – はじまりの日

間違いなく名曲。一聴して涙がこぼれてしまった。iriの温かくてまるい声がじんわりと暖めてくれる。

なにもいらない

当たり前のようにここにいて

夢の続きをぼやきながら歩こう

卒業に限らず、様々な別れを私たちは人生の中で経験するが、iriはそのどれもにそっとよりそってくれる。奪いはしてもなにかを与えてくれるわけではない、ただそこに残り続ける。その愛おしさを感じていたい、そんな風にもとれる。

君が残した日々は穏やかなままで/どんな僕もそっと/静かにただ明日を照らしてた

ひと段落着いたとき、一人でじっくりとこの曲と向き合ってみてほしい。

ハナレグミ – 独自のLIFE

以前から作成されていたが、このタイミングでリリースされた作品。けっして卒業ソングと謳っているわけではないが、ハナレグミらしいポップでまろやかな言葉たちで私たちを励ましてくれる。またコロナ禍で離ればなれになった人や孤独を飼い慣らせない人たちにも響くかもしれない。変則的なリズムと軽快なラップの心地よさが素敵だ。藤井風とはまた違った日本語の使い手で、変幻自在にメロとリズムに合わせて言葉を変化させる匠である。旅立つ人にも、今の暮らしをふと思い返し、生きていることを実感できる歌だと思う。

まとめ

以上3曲を挙げてみた。卒業おめでとうございます。そして新しい生活への一歩を応援しています。音楽はいつでも元気に鳴り続けているはずなので、困ったら頼ってみるのもいいかもしれませんね。