「ベイビー・ドライバー」のエドガー・ライト監督によるタイムリープ・ホラー。ファッションデザイナーを夢見て、ロンドンのソーホーにあるデザイン専門学校に入学したエロイーズは、寮生活になじめずアパートで一人暮らしを始める。ある時、夢の中できらびやかな1960年代のソーホーで歌手を目指す美しい女性サンディに出会い、その姿に魅了されたエロイーズは、夜ごと夢の中でサンディを追いかけるようになる。次第に身体も感覚もサンディとシンクロし、夢の中での体験が現実世界にも影響を与え、充実した毎日を送れるようになったエロイーズ。夢の中で何度も60年代ソーホーに繰り出すようになった彼女だったが、ある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。さらに現実では謎の亡霊が出現し、エロイーズは徐々に精神をむしばまれていく。エロイーズ役を「ジョジョ・ラビット」「オールド」のトーマシン・マッケンジー、サンディ役をNetflixの大ヒットシリーズ「クイーンズ・ギャンビット」のアニヤ・テイラー=ジョイがそれぞれ演じる。

映画.comより

ドラマリミテッドシリーズ「クイーンズギャンビット」で一躍時の人となったアニヤテイラージョイみたさに観た映画、事前情報なしで観たら思っていた50倍ホラーだった。とはいえ、怖がらせようというホラーではなく、ミステリー、サイコの上で魅せるホラームービーだ。

主人公のトーマシンマッケンジーはうぶな田舎娘からクレイジーになっていく狂気じみた演技迄幅広く熱演し、個人的ザ・ブリティッシュマンの一人、マットスミスがむちゃくちゃ怖えやつを演じている。サンディを殺したのは誰か、なぜそうなったのか、エロイーズは夢の中で彼女の人生を追体験し、真相に迫っていく。照明も空間も見事な演出で、時代性を一目で観てわかる工夫と古くささを感じさせない煌びやかな60年代を描き切っている。なにより音楽の使い方が見事で、それは「ベイビー・ドライバー」でも同様に感じた点だ。

——なるほど。本作の最大の魅力は、そうした興味深い物語と、使用される60年代の楽曲の圧倒的なシンクロっぷりにあると思います。これは監督の作品すべてについて言えるのですが。最近、個人的に音楽の使い方が「これ、どうなの?」って思う作品も少なくないんですが、監督が音楽を使う上で気をつけていることはありますか?

エドガー やっぱり「シーンに正しくハマるか?」ってことなんじゃないかな。今回の音楽は、エロイーズを60年代へといざなうタイムマシンのような機能を果たしている。だから、ペトゥラ・クラーク、ダスティ・スプリングフィールド、サンディ・ショウといった、同時代の女性シンガーたちに曲にフォーカスしたんだ。あと、脚本を書いていると、ときどき「もう、このシーンにはこの楽曲しかないだろ!」って思うときもあるんだ。本作で言えば、冒頭近くのサンディたちのダンスシーンで流れる、The Graham Bond Organizationの“Wade in the Water”がまさにそれ。

エドガー・ライト監督にインタビュー。(POPEYE)

残念ながらこの映画は美しい恋愛ものではなく、むしろ60年代の悲運の女性とそれを利用しようとする汚い男たちの話である。それはいままでの監督の作品とはうってかわるような、女性の物語になっている。ただあのラストへの展開はやっぱりぞっとするし、ずっとおもしろかった。