アスペルガーの青年とともに暮らす兄の悩みというのは、私は接したことないのでわからないが、こうやって映画で垣間見るとその苦労の一面をしることができる。フィクションであっても。

アスペルガー症候群の主人公の目に映る世界を描き出し、2011年のアカデミー賞外国語映画賞のスウェーデン代表にも選出された長編作。広汎性発達障害のひとつとして知られるアスペルガー症候群のシモンは、物理とSFが大好きで、気に入らないことがあると自分だけの“ロケット”にこもってしまう。そんなシモンを理解できるのは、兄のサムだけ。しかし、シモンのせいでサムは恋人に振られてしまう。兄の新しい恋人探しを始めたシモンは、偶然出会った天真爛漫なイェニファーに狙いを定め、2人を近づけようとするが……。スウェーデンの名優ステラン・スカルスガルドの息子で、兄アレクサンダーも人気俳優のビル・スカルスガルドが主演を務めた。

映画.comより

ただ、大切なことはその点ではなく、シモンが兄の新しい恋人を探そうとする彼なりのやさしさと、ポイントを押さえつつなにを優先して探せばよいかを考え積極的に行動しているその姿勢である。いたってい自己中心的なシモンだが、他人思いの行動だからなかなかきつく言いづらい部分もあり、そこに周りがほんろうされていくとこがおもしろい。

シモンは人の気持ちを汲み取るのが苦手だ。だけど、だから、物語でシモンとともに相手の感情を追っていくと、なにか人間にとって大切なことを思い出させてくれるような気がした。私たちはシモンをみて「人の気持ちもわからず独善的な行動ばかりするなあ」と思ってしまうが、はたして自分たちもそうはならないと言い切れるのかはあやしい。わかっている、できていると思い込めばより一層独善的な行動はエスカレートしてしまう。

だからこそ、ラストでサムが「自分のために動いている、自分を大切に思っている」というシモンの気持ちを読み取って驚くのだ。弟はアスペルガーでそれはもうどうしようもないことなんだ。自分が最後まで面倒を見るんだ、という半ばあきらめにも似た覚悟は、シモンという人間を決めつけていた。

北欧らしい、カラフルでソフトなタッチで描かれた作品で、いつもの洋画にはないトーンとテンポは新鮮で楽しかった。ペニーワイズを演じたビル・スカルスガルドとは思えないくらいに素朴で優しい青年を演じていたのも驚きだが、ペニーワイズ怖すぎるだろ、という感想にも至る。どちらかというときりっとした印象が強いので、ペニーワイズはまだわかっても、シモンのようなおどおどした、でもひょうひょうとした役柄は彼のイメージとはうってかわってになっている。

では音楽。

Miss Li – Ba ba ba