この映画は特に知らなかったが、TSUTAYAのポップの文言にまんまと引っかかった

 

 

「”Mommy”を手掛けたグザヴィエドラン監督の最新作!!」

 

「Mommy」と言えば去年、自分の映画観を根底から覆す人生の一作となった作品。観ていない人がいるなら今すぐ借りた方がいい。悪いことは言わない。借りろ。
そんな若き天才ドラン監督の最新作と聞いて黙ってられるわけがない。すぐに借りて観た。まず感想を言う。やっぱりサイコーだ。

 

 

冒頭にかかるCamilleの「Home is where it hurts」はまさにこの映画のためにあるようなピッタリの曲。グザヴィエ・ドランは前作の「Mommy」にしても、映画と歌詞のリンクがすごい。音楽をよく知り愛している人のこだわりのチョイスだとすぐに理解できる。

 

 

あらすじ

劇作家として成功したルイ(ギャスパー・ウリエル)は、家族に自分の死が近いことを伝えるために12年ぶりに里帰りする。母マルティーヌ(ナタリー・バイ)は息子の好物をテーブルに並べ、幼少期に会ったきりの兄の顔が浮かばない妹シュザンヌ(レア・セドゥ)もソワソワして待っていた。さらに兄アントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)とその妻カトリーヌ(マリオン・コティヤール)も同席していて……。

 

20分ごろからようやく全体像が見えてくる。それは早いのか遅いのか、まあおそらく遅いんだろうけど、5人の関係性がわかってくる。そして各々がどんな性格で何に影を落としているのか。30分ごろから少しずつわかってくる。昔の”日曜日には家族で車に乗って「恋のマイアヒ」を聴きながら出かけた”という話を嬉々として話したがる母親といらだち呆れる兄。母親の自己中心的な性格にブちぎれる妹。でもなぜかみんなちょっと笑ってしまう。それは「なんだかんだ言って本当は仲良しなんだよ!!」みたいな単純な構造ではなく、本当にムカついてるけどどこか許せる心が入り混じってる、そんな家族関係。そんな自分たちに必死な家族の中で、家に帰って来た次男ルイだけが妙にクールでフェア。その違和感がしばらく残る。それが解決されていくのはもう少し後になる。

 

Grimesの「Genesis」にしろ、エンディングのMobyの「Natural Blues」にしろ、ドランの音楽の使い方は独特である。悪くいえば少し狙いすぎ(意味を持たせ過ぎ)でもあるが、それが持ち味でもある。私は大好きだ。おそらく音楽ファンにはたまらないだろう。純粋なシネマファンには多少ウケが悪いかもしれないが。

 

内容に触れることは避けるが、やはりこの映画の肝は家族の距離感だろう。離れていてもずっと家族なんていうきれいごとではない、でも決して憎みあっている(妹は兄のことを本気で憎んでそうだが)わけでもない。主人公にどんな死が待ち構えていようと愛を注ぎ続ける母親。家族から罵られ続けるけど悲痛なほどの叫びを愛ゆえに上げ続ける兄。詩的な表現ばかりで肝心な話を中々しない主人公。兄が後半でそのことをひどく責め立てるのだが、まるでこの映画自体を否定してるような自虐的な何かすら感じた。

死を迎える家族を描くとき、どおういう切り口で行くべきなのだろう。「べき」という言葉は正しくないかもしれないが、王道はやはり「残りわずかな時間を家族と共に過ごす」とか「やりたいことを探してやっていくけど最後はやはり家族だった」みたいなパターンだと思う。でもこの映画はそれらとは真っ向にぶつかるような作品である。どこまでもヒリヒリとぎこちなく緊張感があり、しかも5人の中で1人は他人(兄嫁)という珍しい構図。その微妙な距離感とドギマギ感を見事に演じたマリオン・コティヤールに脱帽。名前を聞いてもピンとこないんだけど、顔は確かに知ってて、えーっと誰だったかなと考えてた。そうそう、「エディットピアフ」でめちゃんこ評価された女優さんだ。まだ見たことないんだけれども笑
個人的にはやはりレア・セドゥが綺麗だなあとずっと見惚れてた。2017年興奮した女ランキングに入りそうな勢いで。両肩のタトゥーが素敵すぎた。そして化粧を落としてからのエンディングにかけての彼女の一挙手一投足が完璧すぎる。。。んだけれども、それ以上に兄役のヴァンサン・カッセルが怪演で、もう本気でドン引きするし本気で切なくなるし胸が痛くなる。ラストの赤い夕陽に照らされた家族喧嘩のシーンは圧巻。玄関側は真っ赤に染められ、対極にあるキッチン窓から覗く外は青くとても穏やか。このコントラストは彼の映像美のこだわりの一つだろう。ヴァンサン・カッセルは初めて知ったんだけど、もうほぼクリスマーティン(coldplay)にしか見えない。

独特なストーリー構成もこの映画の見どころ。帰郷した主人公はひとりずつ向き合って話し合っていく。その順番も内容もちゃんと練られていて最後の爆発につながっている。まるで舞台作品を観ているかのようなある意味「映画のメリット生かせてんのかそれ!?」と問いたくなるかもしれない面白い映画だ。