突然だが私の両親は仲が良い。マジで仲が良い。ケンカなんて一度もみたことがない。陽気で賢い母親と寡黙で寛容な父親。ギャンブルもゲームもテレビもお酒もたばこも縁のない静かな夫婦。だから当然私もすくすくと育つ。残念ながらあまり優れた人間にはならなかったし、多少迷惑をかける問題のある子供だったがまあそれなりに(口が裂けても言えないこともあるが)道は外れずにここまで来た。
でもそんな幸運な子ともばかりではない、というのは徐々に大人になった分かってきた。離婚した家庭、始めからどちらかがいない家庭、どちらもいない家庭、いるけどネグレクトされている子、様々な環境があることを知る。むしろ仲良しの両親を持っている家庭がいかに恵まれているかを知ってしまう。そしてその家庭環境は子供の人格形成に大きく影響する。当然だ。

この映画は何らかの事情で親元を離れ施設で暮らす子と、それの監視、世話をする主人公たちの話。このショートタームというのは「一時預かり所」的な意味合いがある、この施設の名前だ。

問題を抱える子供のためのグループホーム「ショートターム12」で働くグレイス(ブリー・ラーソン)。グレイスは、新入りのジェイデン(ケイトリン・デヴァー)という少女を担当することになる。グレイスは施設の同僚メイソン(ジョン・ギャラガー・Jr)と付き合っていたが、ある日、妊娠していることが判明する。そんな中、グレイスはジェイデンが父親に虐待されていたことに気付き……。

グレイスは自分が同じ施設で働くメイソンとの子供を授かるが、彼女自身も深い闇を抱えていて素直に喜べていない。そしておろす決意すらしていた。一方施設に新しく入ったジェイデンは皮肉屋で口も悪く、壁に男性器の解剖図を張り付けるような女の子。そんなジェイデンの心を少しずつ開かせ、そして彼女の過去を知っていく。グレイスはジェイデンに自分の過去を重ね救い出そうと試みる。
この施設で度々起こる脱走を含め、施設の子は非常に不安定である。自傷行為防止のためはさみなどの尖ったものは部屋への持ち込み禁止で、扉も開けておく必要がある。とにかく監視体制がしっかりしている。それに対し抑圧的だと感じ嫌悪感を示す子供もいるが、グレイスたちはうまくそれを理解させる。ある程度距離をあけ、ある程度親しくする。この映画はずっとシリアスなんだけれど、ところどころでリアルな笑いが生じる。決してコメディ的なもんじゃなくて、必死に暴れる子を取り押さえている中で冗談を言い合ったり、子供たちにちょっとだけジョークをいってみたりと、リアルな笑いしかない。だけれどそれが余計にシリアス感と現実感を生んでいた。

結論としてこの映画を観るべきかどうかで問われたときに迷わずイエスと言える、そんな作品だった。号泣とか命の尊さ!!とかそんな大したことはそこまで感じなかったけど、でもじっくり鑑賞後に心にのこる作品。エンディングの曲「After Party」がなによりお気に入りになった。

この曲を歌っているのは劇中マーカス役でも好演したキーススタンフィールド。本職のラッパーだからうまいにきまっている。この曲もそうだけど、劇中に歌ったラップ「So You Know What It’s Like」もすごいラップとしての完成度が高い。そしてエモーショナル。これでこそラップだわ。

一曲に仕上げたのがこれ

ちなみに彼の所属するバンドがこちら。Moorsという。

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