4人組のバンド、ヤングスキニーが「関白宣言」という楽曲をリリースした。「関白宣言」と聞けばやはり思い浮かぶのはさだまさしが1979年にリリースした同名の楽曲を思い出す。もちろん、それとはまったく切り離して制作されたわけではないだろう。「俺は浮気をしない たぶんしないと思う しないんじゃないかな ま、ちょっとは覚悟しておけ」(さだまさし)と「ちょっとは浮ついてもあなただけが好きだから」(ヤングスキニー)はどちらも浮気をほのめかし、「忘れてくれるな 俺の愛する女は 愛する女は 生涯お前ただ一人」(さだまさし)と「好きって気持ちだけに嘘はつかないから」(ヤングスキニー)で愛する女性への一途性を誓っている。
まさか1979年の価値観(それでも当時女性からのバッシングは大きかった)をそのまま2025年に適応してしまえる神経にまずは驚く。それは一旦受け止めたとしてもやはりこの開き直りは、「ゴミ人間」と自称しているだけあり、とてもスムーズで手練れている。
ただ、さだまさしの「関白宣言」とヤングスキニーの「関白宣言」にはもう一つ共通するワードが登場していて、それは”幸せ”だ。このフレーズを両者は対照的に描いている。
さだまさしは
幸福は二人で育てるもので/どちらかが苦労してつくろうものでないはず
と歌い、ヤングスキニーは
「お前はちょっと幸せになれないくらいがいい」って親友のあいつが言ってたっけな
と歌う。
さだまさしが二人で育てるものと幸せの萌芽と共有をかみしめる一方で、ヤングスキニーは全くもって自分自身の事しか語らず、相手が幸せかどうかの確認行為はない。自分が愛しているから、それを伝えているから、それであなたはいいんでしょう、僕は幸せなんで、と突き放す。非常に単純明快な思考回路で自分勝手でもある。ある意味でラブソングの境地でもある。この身勝手さは確かにラブソングにあってしかるべきなのかもしれない。
所属レーベルのSPEEDSTAR RECORDSは本楽曲をこう紹介している。
かやゆー(Vo&Gt)が赤裸々に綴ったジレンマを軽快でクセになるメロディに乗せた、ちょっと不器用で真っ直ぐなラブソング。
https://www.jvcmusic.co.jp/-/News/A026966/66.html
言わなくてもいいことをわざわざ言って誰かを傷つける行為を「俺って赤裸々に語っちゃうんだよね」と言い換える姑息さはいろんな場面で見かけるが、ここでもやはりそうした変換が行われている。また、この楽曲の歌詞を”不器用”で”真っ直ぐ”と評するにはあまりに無理がありすぎる、というか不誠実さすら感じる。帰りが遅くなったり他の女性にうつつを抜かしたりすることを”不器用”としてはいけない。さらにそれについて問い詰められて都合が悪くなると嘘をついて難を逃れようとする姿勢は全く”真っ直ぐ”でもない。むしろ姑息で、不誠実で、横柄な態度にすら感じる。
別にヤングスキニーが浮気性でも構わないしそういうスタンスのバンドでも好きにすればよいが、さだまさしの関白宣言を性に奔放でどうしようもないけど愛しているって言っておけば女性を縛り付けられるものだという解釈をしているのだとしたらしんどいなと思うし、どうにかして褒めなければならない自社のアーティストとはいえあまりに適当でやっつけ感のあるでたらめな”不器用で真っ直ぐ”という評をするレーベルの言葉への杜撰さはどうしても気になってしまうし、それでいいのかと問いたくなる。