BiSHというグループ
今や敵なしといっても過言ではないBiSH。おそらく音楽にそんな興味がない人でも何となく名前くらい聞いたことある、何曲か聞き覚えがあるなんてこともあるだろう。
ただイマイチ何者なのか分からないまま、アイドル?アーティスト?と疑問に思う人もいるかもしれない。
個人的にはどちらも当てはまるし、どちらか一つを名乗ってもいいと思う。特にその使い分けに深い議論が必要な気もしない。
ただまあ便宜上、わかりやすく言うと、パンクミュージックを基礎としたアイドルグループ、が出自であることは踏まえておく。
彼女たちが結成される前まで活動していた前身グループBiSに引き継ぎ、過激でギリギリなことをやってのけるのがBiSHの持ち味であった。だからデビューいきなり糞にまみれたり、おチ〇コを連呼させたり、インタビューでは生理の話をしたりとむちゃくちゃさはそのままだった。
そんな彼女たちも、ひとたび軌道に乗り、活動範囲を地下アイドルからテレビ出演を果たすミュージシャンにまで成長。音楽性もどんどんと変貌を遂げ、より大きなステージで歌えるようなサイズ感のある楽曲を増やしてきた。
私は彼女たちを結成当初から楽しみにしていた人間で、事実デビュー年に生でライブを観ようとまでしたほどだ(実際は出演予定のイベントでキャンセルになった)。
なので前回とはうってかわって、大体好きで聴いてきたアーティストなのだが、今一度ちゃんと聴き直してみようと思う。もちろんアルバムは全作品、一度は通して聴いているが、正直忘れている作品もあるし、全部丁寧に聴いてきたかというと、そうでないものもおそらくあるだろう。好きだからこそ、今だからこそ、彼女たちの軌跡に触れてみたいと思う。
1st 「Brand-new idol SHiT」
デビューアルバム。原点にして頂点の「BiSH-星が瞬く夜に」が収録されている。松隈ケンタという人物がここまでビッグネームになったのも、BiSHの躍進あってこそだ。無料配信された「スパーク」のようなミドルナンバーもあれば、「MONSTERS」のようなツーバスを多用した激しいハードコアな、とくに当時の象徴でもあったEDMとロックの融合は、まさに彼女たちのはちゃめちゃさを体現するようなナンバーだ。
今のような統一性は全くなく、非常にバラエティに富んだ楽曲が並ぶ。このカオス感がやはり私としてはBiSHな気がするし、今も当然好きだが、この時にはこの時にしかない魅力が詰まっている。「ぴらぴろ」「サラバかな」「カラダ・イデオロギー」などがおすすめ。
2nd 「FAKE METAL JACKET」
“新生クソアイドル”から”楽器を持たないパンクバンド”へと変貌を遂げる直前のアルバム。事実、このアルバムの直前にメジャーデビューが決まっている。正直このネームは滑ってるというか、よく揉まずに決めてしまったか、配慮しすぎてそれが透けて見える大人なネーミングのせいか、だいぶつまらないのだが、作品はそれとは関係なく、よりメロコア・パンク色を強め、BiSHらしいなきのメロディが冴えわたるアルバムになっている。なにより「サラバかな」が全アルバムに収録されているよりグレードアップしていて、メロがもっと入ってくる。単品でみると「OTNK」などごちゃごちゃしたものはあるが、全体的にすごくスマートに映るのは、方向性の一貫性にあると思う。「身勝手あいにーじゅー」は見落としていた良曲。
一番尖っている時期と、王道のメロディアスとまとまりがいいバランスで成立しているアルバムがこれだと思う。この後の作品は少しプロダクションとしてきれいすぎる(はみ出ている部分も既定路線感があり)ので、このアルバムが一番好きである。結論早くも出てしまったかも。うん。「Dear…」や「デパーチャーズ」もおすすめです。
3rd 「KiLLER BiSH
メジャーデビューアルバム。本格的にバズった「オーケストラ」収録。ここからギアチェンジを図ってるのがわかるし、なによりアイナジエンドが覚醒してる。自分の歌を存分に活かす歌い方を習得し、あらゆる楽曲でもここぞというキモで効果的に彼女を起用し、エモーショナルな表現を獲得している。
メンバーにアユニDが加わったのも大きな特徴。これは個人の感覚で知識も深くないので誤った認識かもしれないが、2010年代的なアニメの系譜を受け継いだのがアユニな気がするのだ。感情の起伏が少なくぶつぶつ呟きながらふっと笑い、常に何かに絶望している。深夜アニメのキャラをそのままトレースしたようなキャラクターは、より若者ファンの獲得に繋がった気もする。
ボーカルとして引っ張っていくのはアイナとアユニだろう。次点でチッチ。リンリンは飛び道具的ではあるが安定度でいえばこの3人だと思う。事実ソロデビューしているのはこの3人だ。
4th「THE GUERRiLLA BiSH」
個人的に大好きな「GiANT KiLLERS」収録のアルバム。よりスタジアムロックのサウンドが強調され、パンクに留まらないオルタナティブな方向性へ。コアなファンから色々と言われているかもしれないが、これがなければ今の規模感のBiSHもいなかったはず。
そしてそれに負けないメンバーの力強さも獲得している。「Here’s looking at you, kid.」、「BODiES」など。「JAM]のようなエモーショナルさも表現できるのはそれだけメンバーに背景とそれを表現する技術があるから。楽曲としての面白さはここがピークだと思う。
5th「CARROTS and STiCKS」
14曲1時間と、割とボリューミー。ジャンル的にも音圧が強いので長時間聴くのは正直しんどい。どの楽曲もキャッチーでシングル曲になりうるレベル。それゆえに供給過多で、逆にひとつひとつの印象が薄くなっている。このアルバムから好きな楽曲はそれぞれ生まれやすいだろうが、ひとつのアルバムという作品でとらえると、雑多でうるさく、印象の薄いアルバムといったところ。
6th「LETTERS」
2020年にリリースされた現時点での最新作。コロナ禍で急きょリリースされたので収録楽曲数は少ないが、聴いてみると、アイナやアユニ以外のメンバーの成長が感じられる。ハシヤスメやモモコもしっかりと主張が強く、独自の表現ができていて他のメンバーとの主体的な差別化が図られている。相変わらず供給過多な楽曲はしかたないとして、そろそろ次回作は大きなチャレンジがあってもいいのではと思う。勢い的にも第一次ピークは過ぎたわけだし(セールスは全く衰えていないが、一般層に知られるあの時期は一度通り過ぎたという意味)、安定期に入るか、第二次ピークに向かうか、収縮して分裂していくか、次の一手が気になる一枚。
歌詞はわりとメンバーが手掛けるものもあるが、そこまで強く意思を感じないので、聞いてるだけの人間にとってはそれほど重要性は感じない。
まとめ
BiSHの大半の曲は知っていたし、理解しているつもりではあったが、それでも通して聴くと色んな発見がある。特にアイナやアユニといった主力級の成長と魅力も楽しいし、サブメンになりがちなメンバーの覚醒を知ることもできたのは大きかった。WACKという一大エンターテインメントへと成長したオフィスの筆頭株としてぐいぐいと引っ張っていく姿は日々見ていて頼もしいし、なにせメンバーそれぞれに役割があるのがアイドルの中でも抜きんでている点だと思う。
先ほども言ったように、世間一般では(あるいは音楽ファンの中では)アイナの知名度が高く、ワンマンにも見えるグループで歌唱力もやはりさほど高くないのも事実ではある。しかし他のWACKグループよりひとつもふたつも抜きんでているのは、個性という武器をメンバーが真の意味で手に入れ、けっして見た目や恰好ではなく、かつてのBiSのようなスピリットやぎらつきがきちんと音楽に昇華されているからではないだろうか。
全体的にオーケストレーションが多く壮大な楽曲が増えてきているが、彼女たちの歌う視線はどこまでも一点で目の前を指している。そこからぶれない。その姿勢が個々のアルバムから感じられた。
今回も初めて知った曲を中心にプレイリストリストを作りました。
導入としても、深堀としてもご活用いただければと思います。
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