サカナクションの山口さんがミュージシャンの政治的発言の是非について語った動画が話題になった。
それに対する反応は本当に様々だった。
「歌って平和になるんならやるよ」サカナクション山口一郎 語った賛否分かれる“ミュージシャンの政治的発言”の「困難さ」 | 女性自身
彼に対する否定的な意見のひとつに、”バカだから”を理由に発言を控えることは、その影響の余波として「じゃあ自分もよくわからないから言及しないでおこう」となること、というものがあった。政治の事詳しくなくてもいい。もちろん対案なんてなくてもいい。それでもいやなことはいやだとはっきり言うべきである。
とはいえ、それが彼にすべて当てはめてしまうのも酷だという意見もすごく理解する。これは彼の苦慮である。切り捨てようとも結論付けようともしない、思い悩みである。その渦中にいる彼を簡単にジャッジしたりはしたくない。
現時点でそうであるように(かくいう私も)、この記事や切り抜きに対してはおびただしいリアクションがあり、それぞれがそれぞれの回答を持っていて、それをただただやみくもに放たれている。直感で思ったことをそのままぶつけていく。しまいには、この発言への賛否ではなく、ただ賛否を表明したどちらかを馬鹿にしたりカテゴライズして嘲笑ってみたり、関係のないところで結び付けて貶めてみたりする人もいる。それだけは明確に拒否したい気持ちがある。
なにかを真摯に伝えたいとき、例えば山口さんのように、人は言葉を濁してはぐらかして一度止まって言い直してみたり強調してみたり軌道修正したりする。どうにか分かってくれと、ときにはデータに基づいたり、実体験に基づいたりする。その人たちの言葉は重たい。意味が充填されていて、ずっしりとしている。でも、中にはそれを嘲笑うだけの人がいる。「パヨクが」「ネトウヨが」「信者が」といったような、なんの中身もない、ただ人を小ばかにしたいだけの日本語にも満たないふしだらな言葉を浴びせてくる人がいる。果たしてそんな人の言葉に説得力はあるのだろうか。彼ら自身も、自分の意見に賛同してほしいなんて思ってなくて、ただただマウントがとりたくて日頃のストレスの憂さ晴らしがしたいだけなのかもしれない。だとしたら心底無駄な言葉である。聴く時間、読む時間がもったいない。もったいないのに否応がなく彼らは読ませて聞かせてくる。心の底から腹立たしい。最も軽蔑する。
私たちは「うっ」と思わされる経験が必要なのかもしれない。自分の意見が真っ向から否定され言葉が出なくなる「うっ」を目の当たりにし、省みる時間が必要になる。悔しくて、イライラして、寝付けない。あいつの言葉がぐるぐると頭の中を駆け回る。言い返したい。ぎゃふんと言わせたい。でも言えない。思いつかない。「うっ」。
私がどうしてもその意見に賛同できない、とくに差別的な発言を平然としている著名人や政治家は、いつまでたっても「うっ」としない。むしろそれを楽しみ、笑い、支持してくれる人たちをたきつける材料とする。「全然効いてないです」とイキる。
山口さんはイキらない。言葉を詰まらせ思いを吐露する。だから耳を傾ける。賛同とか非難とかいったん置いといてちゃんと聞きたくなる。
でも。日本のミュージシャンは政治的な発言を意図的に控え過ぎだ。その理由は山口さんが語った通りなのと、日本人的な「立派な社会人」像が、お客様にご迷惑をおかけしない、が真っ先に来ているからだと私は思っている。レーベル、事務所、スポンサーに迷惑があってはならない。立派な大人なら、ちゃんとわきまえて仕事に取り組むべきである、という規範があるような気がしてならない。それを「リスク」と捉えているか「常識人」として捉えているかによって私の印象もずいぶん異なるだろう。語らないことを理由に個人を特定し非難することは極めて難しい。私にはできない。したいけれど。だけれど、政権を擁護したりわかってるふりをしてみたり現状を肯定するような発言をする事だけやたらとリスクを低く見積もっている人がいた時、それはしっかりと批判しようと思う。そんな人が最近多いなと思うこともある。「仕方ないよね」「文句ばっかいうなよな」というのはどの問題においても非常に厄介な敵である。
どうか、この議論を一過性としてしまわないでほしい。明日には忘れてまた別の人を攻撃したりするようなことはしないでほしい。山口さんの発言で「うっ」となればいいし、山口さんも今回のバックラッシュで「うっ」となってみてもいい(体調だけは気を付けてほしいけれど)。決して「左翼に攻撃されてかわいそう」とか「ネトウヨの養分になった」とかそんな軽い言葉に乗っからないでほしい。どうしたらこの状況を打破できるのかみんなで考えたい。自分は何のリスクもないのでこのブログでは好き勝手言える。でも彼は言えません。言えないのは責任の重さが違うからだし、バックラッシュの数も違うから。「戦争反対なんて言わなくてもみんなそうだよ」は間違っているし、「戦争反対と言えないお前は戦争賛成か」も間違っている。「歌って平和になるんならやるよ」と言ってしまったのは本当に今回の動画の最大のミスだと思っているけど、彼の思いはきちんと伝わった。その葛藤は決して一蹴させない。あなたたちのスカっとするためのネタにはさせない。
