ロックくどい
ロックに飽きちゃったタイプの人間はヒップホップに移行します。ウノコレか貴様は、というバッシングは甘んじて受け入れた上で「いやでもtrvis scottとかはよくわからんのよ…」と反論してみる。どうでもいいのだがとりあえずロックに飽きた。
ロックってくどいもの多いじゃないですか。大袈裟で仰々しい。しかもこれがロックだ!とか勝手に言い始めてケンカしだして。うっとおしいこの上ない。ただでさえお決まりのギターギュイーンに8ビートズッコンバッコンで食傷気味なのに、ロッカバラードとかされたらまじで子守唄。そんな退屈な曲を聴くためにspotify登録したわけじゃない。
そんな自分でもおすすめしたくなるほどかっこいいなと思ったバンドを5組紹介する。決してトリッキーなものではなくても、ウザったくなく、今らしいバンドなので、2020年に聴くべきバンドの一つとして参考にしてほしい。順不同。
THE NOVEMBERS
バンド自体は今更感すらあるほどに音楽好きには知れ渡っているのだが、去年にリリースされたアルバム「Angels」がとてつもなくよかったことにはまだ触れている人は少ない気がする(私のツイッターのTL上ではくどいほど盛り上がっているが)。
一聴すると激情的で重々しくて何かとっつきにくさとおどろおどろしさもある(もちろんこの見方はロックと定義されるものに不慣れな人目線であることは踏まえておく)のに、そこに然としたメロディが乗っかって、歌モノとして機能し、自我がぶっ飛びそうなくらいに心をかっさらっていくエネルギーがある。身も蓋もないことを言うと、ロックだなとか、そんな感想をこのバンドに抱くことはあまりない。どちらかというとエモいな、とか、サイケだな、と思う割合の方が個人的には大きい。もちろんこの場合のサイケやエモは音楽に対する感想でありジャンルを示すものではないが。
どんどん混とんとしていく世界、なんていうとあたかもノベンバ自身がそこに自覚的でなにかメッセージを包括してパッケージとして届けたみたいな言い分になり、それはそれで少し違う気もするが、そういう温度感に、少なくとも自分が感じる日本と自分と世界との温度感にうまくハマった気がする。
去年、GEZANが主催した大感覚祭で観た彼らのライブは圧巻そのもので、あまり自分が生で触れることのないジャンルだったのもあるが、圧倒的なパワーと重心が後ろになるような圧はよく覚えている。
彼らを本格的に聞き出したのはこの作品からで、旧作は一通り聞いた程度なので多くのことは語れないが、なんとも形容しがたい、バランスを兼ね備えたバンドだとつくづく感じている。
Survive Said The Prophet
2019年のサマソニで初めて生で見て、実力のあるバンドだなぁと思って以来あまり聴いてなかったんだけど、2020年に出たアルバム「Inside Your Head」がバシッとハマった。「Your Head」のアンセム感は久々にロックの壮大さを味わえる一曲。
ちょっとジャンルに的にもBring Me The Horizonを彷彿させるような路線変更とダイナミックさはシンプルにかっこいいなと思える。
こういうエモロック(あえて広義での俗称で呼んでみる)はワンオクたちがシーンに根付かしたもので、これらのバンドが現在多く受け止められているのはおもしろい。でも彼らはその中でもかなり実力があると感じている。演奏技術云々は素人なのでわからないが、サウンドのバランスがとてもいい。ラウドだけど音圧が厳しくなく、ちゃんと広い人たちに届く設計がなされている。今作ではロックだけじゃなくて、R&Bやヒップホップも取り入れて、さっそく日本のロック再生産のループから抜け出した印象だ。それはNever Young BeachやSuchmosがそこから脱落したのと同じような傾向だ。どちらかと言うと、私も「Mukanjo」のようないわゆるオーソドックスなシングルトラックより、「Heroine」のような幅の広さを魅せる曲の方が好みだ。でもやっぱりシンガロングできるのもこのバンドの魅力であるわけだし、「Bridges」は外せない楽曲だなと感じる。
マカロニえんぴつ
彼らを認知した時の楽曲「洗濯機と君とラヂオ」でのMVを見たときは「もういい加減にそのアンニュイなバンド名と無表情で女性を躍らせるパターンやめろよつまんねえな」と酷評したのを覚えている。
決して何か飛び抜けてトリッキーなことをするわけでもない、豪快さとか得も言われぬ感情を提供するするとか、そういったエモーショナルなバンドでもない。悪く言えば”今っぽい”バンドだと思う。自分でも彼らを今評価する基準に明確な表現はない。ただ、意図してだろうが、どの曲にもかならず切なくさせるようなコード進行、メロディの展開があって、声質もあいまって病みつきにさせる情緒がある。去年のEP「LIKE」で、その魅力にようやく気付いた私は「ワンルームデイト」「ブルーベリー・ナイツ」などを愛聴した。
メロディが切なくて情緒豊かさを演出するバンドは大抵は軟弱さやあざとさが付きまとうものだが、それが感じられないのがマカロニえんぴつの”強さ”なんだと思う。時にベタベタなオマージュを入れ込んで来たりするのに、それはあざとさではなく、したたかさ、あるいは「これ好きだよね?僕も好きなんだ!」みたいな無邪気さが打ち勝つ。彼らの信条、生い立ちなどは一切知らないのですべて憶測になるが、彼らみんながとても好青年で芯を持った人たちなんだろうと思う。
決して上がりきらないトーンと俯きがちな歌詞。
なにより米津玄師の「Lemon」が売れた後に「レモンパイ」を出すあたりが素敵だ。ユニークでチャーミーな楽曲、ポップスとの中間点でうまく立ち回る彼らにより大きなステージが用意されるのはもうまもなくだろう。
YEN
ひとつ、もうすこし若手を紹介する。神戸のバンド、YEN。男女混声ボーカルの5人組バンドで、ジャンルは多くのメディアがシューゲイズやドリームポップを挙げているが、どちらかと言えばドリームポップ寄りのバンドだと思う。特に好きな深い理由もなく、メロがしっかり立っていて、Yuzuha Uedaの声が真っすぐ通る。ロックをどう定義するかは自由だしそんな議論に参加もしたくないが、私はロックだと感じる。白昼夢のような奥行きのあるサウンドと、ぎらついたギターのノイズ、その隣でループし続けるシンセのきらびやかな音。若手バンドならではのジャンルをごった返すかのような、多面性を見せるバンドだ。
世界観の確保は容易いことではない。なぜなら世界観は全てが完璧に作り上げられ、それを寸分の狂いもなく再現することで初めて完成されるものだからだ。その苦労は多くのバンド立ちの奮闘から見るに、尋常じゃないとうかがい知れる。多少の誤差やミスもそのバンドの魅力だ、も悪くない方針だが、それは世界観と呼べるほどの構成物にはならないだろう。特にドリームポップやシューゲイズにおいては、現実との乖離性がものを言う。そしてそれがそのままバンドの力量になる。とてもシビアな世界だ。それでいて大衆受けしない。つい我々はMy Bloody Valentineを引き合いにシューゲイズの魅力と礼賛を繰り返してしまうが、やる側にかかるコストは中々考慮されない。
YENはその世界観をどう形作るのか。それはライブを観てみない事にはわからない。ただ、「fuse」のような軽やかさとアンバランスさが混同した奇妙な楽曲も、「who cares.」のシューゲイズへのリスペクトがこもったジブリ的イントロの楽曲も、明らかに正統派の「The moon has lost her sadness」も、私のような専門外の人間にも聴かせようという意思を感じる。内にこもらず、聴きたい人が一人でも増えるならジャンルへの固執はあまり意識しないような(もちろん真意はわからないが)柔軟性がある。
近くてもう少し規模の大きいバンドに羊文学がいるが、それよりは歌モノとしての機能は小さい分、どのような展開を見せていくのはか気になるところ。
とりあえずしばらく新しいEP「DEPTH」は聴き続けようと思う。
まとめ
タイトルは分かりやすさのためにこう名付けたが、別にロックでもロックじゃなくてもどうでもいい。ロックだから好きになるわけでもないし、ロックだから贔屓するなんてこともない。あくまで世間一般がロックだと認識するからそう呼ぶだけだ。
もちろんこれら以外にもロックに属する音楽で好きなものは多々あるが、今文字にしたいなと思うバンドを数組挙げてみた。あまりマイナーなものは取り上げていないが、もしまだ未聴のアーティストがいたら、一度聴いてみることを推奨する。