おすすめ4選

もはやトレンドと言えばこれに言及しておけばいいだろ感すらある、音楽業界話題の目玉のTHE FIRST TAKE。コンセプト自体は海外のチャンネルにもあるように目新しいものではないが、日本のアーティストにフォーカスして歌を届ける一発撮りチャンネルはなかったので、非常にかゆいところに手が届いた、素晴らしいチャンネルである。

もともとカラオケ文化が根強い国なので、音楽のことをうだうだ語られても理解できなくても歌のうまさは採点機能であっさりと優劣をつけることができる。その競技性が受け入れられ、いかに歌を上手く歌うかを競い合う様を見せつけるメディアも多い。色んな音楽の聴き方をしてもらいたい私にとってはすこし「またボーカルフォーカスか」と思わなくもないが、一方であまりボーカルセンス・スキルに注目されてこなかったJPOPシンガーの真価を見出すことができるのもこのチャンネルのすばらしさであることは認めなければならない。

そこで今回、全部見ているわけではないけれど、私が見てグッときたTHE FIRST TAKEの動画を4本紹介します。どれも採点機能では測れない、これぞプロのミュージシャンだと痛烈に思い知らされる極上の一曲だ。

清 竜人 – 痛いよ 

彼がシーンに浮上してきたときから、圧倒的な才能と感性で他の同世代を完全に蹴散らしていた印象のある清竜人。後に彼の才能はあらゆるジャンルで花開き、奇天烈な恰好やアウトレイジなモデルチェンジ、アイドルプロデュースなど様々な変態を遂げてきた彼が、このタイミングで原点回帰した「痛いよ」を発表した。原曲よりスローテンポで、ボーカルの一つ一つをすくい取るように丁寧に歌い上げる清竜人は当時の危うさや切なさではなく、真心や抱擁といった言葉が思い浮かぶような温かさを感じられる。

ファーストモデル、とでもいおうか、この頃の清竜人の楽曲はとにかく繊細で切り詰めている。「ウェンディ」のような芯を喰った幸福論や、「ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング」で人類の出会いを高らかに祝ったりするなど、独特な目線で、かつ普遍性の強い言葉を紡いでいく。その代表曲でもある「痛いよ」。ぜひ原曲と共に聞き比べながらじっくり世界に浸ってほしい。

秦 基博 – 鱗 (うろこ)

彼の歌のうまさは当然知られているが、その一方で軽く見積もられている部分もあると思う。それは彼の気取らないチャーミーな姿勢や、楽曲のポップさが起因しているのかもしれないが、こうやってじっくり彼の声だけを耳元で聴き返すと、おそろしい実力にひれ伏す。声の揺らぎ、サビでの一番高いキーへの持っていき方、アクセントの量。私は歌手志望でも歌手でもないしなんなら歌は中の下程度のど素人だが、数多く音楽を聴いてきたからこそ感じるタダものではない感は秦基博はピカイチである。ただ、そのために調子の悪そうな日(おそらく過労だろう)のテレビ出演はわりとわかりやすかったりする。それくらいに抜群のコンディションの日は無敵だ。ライブは一度、絶対に行ってみたいアーティストの一人である。

折坂悠太 – 朝顔

秦基博の時に「声の揺らぎ」と言ったが、折坂悠太こそこの揺らぎが抜群に心地の良いアーティストだと思う。音をばっちり合わせてくるのがカラオケタイプの歌手だとしたら(それはそれで優れたスキルである)、彼はカラオケではもしかしたら高得点は望めない時があるかもしれない。でもそれはヘタとは呼ばないし、ヘタを言い替えているわけでもない(というかそんな言い訳しなくても当たり前にスキルは高いのだが)。歌には心がある、なんていうと胡散臭い精神論になってしまうが、彼の歌には情景がついてまわるのだ。つねに色と景色と感情がくっついてくる。彼の実直なまなざし、屈託のない太い声。この動画のアレンジにあるような荘厳な響き。いつだって故郷を思い出させ、土着性をまといまるで民謡のような安心感を与えてくれる。

押尾コータロー×DEPAPEPE×崎山蒼志 – GUITAR SESSION(Cyborg~ONE~五月雨

音をひとつひとつ丁寧に掬い取るのは声だけではない。ギターの音色もまた普段聞き流してしまっている音の一つだ。押尾コータローとDEPAPEPEという鉄板コンビは両者ともに大好きで、どちらの単独にも行ったことがあるが、このギターの心地よさがきちんとこの動画からも伝わる。じっくり演奏者を観ながらギターを聴く機会も少ない人も多いと思うので、また聞こえ方が違うといった発見もあると大変うれしい。崎山くんは彼らより一回りも二回りも世代としては下のニュージェネのアーティストだが、この並びに入れてもらっていることは、いかにギタリストとして光栄かはギターを知る人間なら容易にわかると思う。スライドする音、スラップする音、ギターの息遣いまでがしっかり聴き取れる。是非THE FIRST TAKEにはギターに続く他の楽器のフォーカスもお願いしたい。

まとめ

以上四本の動画を紹介しました。他にもおすすめの動画などあれば教えてください。それでは。