イギリスの音楽シーンを眺めていると、とんでもない新人が突然現れたりする。それが90年代だとoasisのギャラガー兄弟であったり、2019年の話をするとBillie Eilishだったりする。ギャラガー兄弟をリアルタイムで知っていたわけではないが、そのたびに世界の壁の厚さと世の中の広さを思い知らされている。

エドシーランだってそうだ。2011年に発売されたデビューアルバム「+」でエドを知ったが、ああこれはすぐに自分のものではなくなるんだろうなあと悟った。当時そこまでの眼力と幅広い知識があったわけでもないが、それくらいはわかった。そしてあれよあれよとスターダムを駆け上がると、いつのまにか日本でも延々とかかり続けるようになった。マクドナルドでも、近所のコンビニでも鳴っている。音楽なんてろくに知らない女性でも「Shape of YOU」は知っている。テイラースウィフトと並ぶ知名度になった彼のライブに、2019年ようやく行くことができた。そのライブについて思ったことを書いていく。

まずオープニングアクトを務めるのはONE OK ROCK。今年初頭に出したアルバム「Eye of the Storm」を引っ提げての登場。今作はよりスタジアムロックを意識した、洋楽のエッセンスが詰まったものとなっているがその評価は二分した。かつての邦楽のエモロックが好きだった人たちからすれば今回の曲群はつまらなかっただろうが、洋楽が好きな人たちからすればすごく洗練されたものに聞こえただろう。それのどちらが正しいとか間違っているとかはないが、少なくとも世界に打って出ようとしているバンドの一番正解に近い選択だったことは言える。
それにしてもワンオクはいつみても素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる。言ってしまえばtakaのワンマンバンドではあるが、それでも観ていて飽きない。去年もサマソニで後半だけちらりとみたけど今回は新曲も含めて45分みっちりと披露。「Stand out Fit in」はやっぱり名曲だと思うし、「Wasted Night」も新しくも安心できるワンオクのメロディがあって聴きなじみがよい。どう考えても存在感もパフォーマンスも楽曲そのものの強度も日本で彼ら以上に羽ばたけるバンドはいないと思う。



ただいちいちなんでも噛みつくのはよくないとは思いつつ残念だったなあと思うのが、スローテンポの曲の途中で「いやーかっこよすぎ!!」「近い!!!」みたいなはしゃぎ方をする女性が3組6名周りにいた事かな。これは決して「だからワンオクファンは」と言いたいのではなく、もはや女性の宿命というか習性なんだろうと考えている。ジャニオタとかと大差ないのは、ワンオクファンがジャニオタレベルだという理由ではなく、誰のファンであろうが女性はついつい自分の感想を相手に伝えたがる生き物だからなのかもしれない。考え過ぎか。
静かな曲は声がよく通るからお互い感想を言い合うチャンスにもなるのも分かるし「イケメン!!」と思わず言ってしまうのも分かるけど、やっぱりそこはぐっとこらえてほしい。”大声で歌うな”とか”ポニーテールするな”とか”カメラずっと挙げるな”みたいなマナー講座さながらのツイートがいまだに回ってきては共感の渦に包まれているが、そんなくだらないことよりまず曲中にしゃべらないという至極当然のマナーをまず浸透させるべきなのでは?と思ってしまった。無理なんだろうな、女性は。性別で括るのはデリケートなことだけれど、こればっかりは性別の問題だと思う。

さてワンオクがおわると30分の転換の後、いよいよエドの出番。彼に用意されたのはたった一つのギターと、そこにマイクが二本とルーパーペダルやらのエフェクターのみ。京セラドームを満員にさせる彼の武器はあくまでギター一本である。

細かいライブレポはそりゃほかで読んでくれたらいいが、ここで伝えたいのは、エドシーランというひとりの青年のあまりある才能についてだけだ。もちろん彼の事は知っていたし、とんでもない才能の持ち主だってことは分かっていた。それは音楽からも感じていたし、彼のキャリアをみても明白だ。だけれどそれは知っているようで知らなかった。知っていたような口ぶりだっただけで、知識だけを知っていただけで、そのリアルを知っていなかった。生でみるというのはそういう側面がある。知識で知っていたことと生で感じることのすり合わせをする。「大したことないな」と思うこともままあるし、「想像以上だったわ」と思うこともある。エドに関しては、そのさらに上を行く「知っているつもりで何も彼の事を知らなかった」レベルで驚いた。それはループペダルを駆使してたった一人で音楽を作りあげる、よく日本のメディアが取り上げる彼の「器用さ」について驚いたわけではない。そうじゃなくて、一人のシンガーとして、その力量に感服した。ちょっとさっきまで「日本人も世界に進出しようぜ!戦おうぜ!」とか思っていた自分に後悔した。「あ、この差って音源以上だわ」と。それはあまりに寂しく夢のない、捉えようによっては海外主義にも聞こえる発言だが、あまり的外れでもない感想だと思う。

前半から懐かしい曲をやってくれる。やっぱり「The A Team」は単なる一つの名曲という事実を超え思い出やら私的感情やらが絡んできてよりエモーショナルになる。この素朴でしっとりした曲なのにエドの声はしっかりと通っていて力強さすらこみ上げてくる。エドの原点だなあとしみじみしながら聴いていた。





大阪に来るのは久しぶりで、タワーレコードで演奏した時以来だね。その時はもっと少なかったんだけど。と思い出を語るエド。彼の英語はスコティッシュもちょっと入っているのか(?)やや聴き取りづらいのだが、すごく丁寧にわかりやすい単語を使って話してくれたのでおおよそは理解することができた。反応はやっぱりまちまちで、隣の海外大好きお姉さん(みたいな恰好をした人)は一喜一憂しながら笑ったり「oh~~~」なんて言いながら楽しんでいたが。一方で後ろの老夫婦は「はあ?」って言っていた。ほんとに言っていた。しょうがないと思う。アメリカ英語でも無理だったと思うし。

先にセトリを見てもらう。

Castle on the Hill
Eraser
The A Team
Don’t / New Man
Dive
Bloodstream
Love Yourself ※Justin Bieber cover
Tenerife Sea
Lego House / Kiss Me / Give Me Love
Galway Girl
Wayfaring Stranger / I See Fire
Thinking Out Loud
One / Photograph
Perfect
Nancy Mulligan
Sing
アンコール
Shape of You
You Need Me, I Don’t Need You

おそらくこれでいいとおもうのだけど、「Galway Girl」とか「Lego House」とかは印象深い。実は座席がまさかの前から4列目で、超眼前にエドがいるという奇跡だったんだけど、その息遣いまで聞こえてきそうなくらいに近かった。ギターのこすれる音が聴ける京セラドームのライブってないと思う。それだけは本当にラッキーだった。

そういえば途中のMCで、日本人は本当に静かだね!そうだ!静かコンペティションしようよ!今から絶対しゃべらないでね!この世で一番静かなライブ会場にするんだ。みたいな趣旨の発言があって、何の曲か忘れたけどあるバラードを歌いきった後、「ほらやっぱり日本人が一番静かだね!」と言っていたんだけど、あれはどういう意図だったのだろう。
もちろんミュージシャンとして静かな曲を誰一人しゃべらない空間で歌いきるのは気持ちがいいだろうし嬉しいのは間違いないのだろうけど、あの言い回しはやっぱり皮肉も込めていたのだろうか。意図していなかったとしたらあのアイロニカルな表現はイギリス人のDNAかなにかか。実際やっぱり静かだったし、歌えるわけでもないので(割と頑張って歌っていた方だとは思うが)、エドにとっては物足りなさもあったのかもしれない。

「イギリスなんかうるさくてほんとね笑」みたいなことも言っていたし、一長一短なのかなあとも思ったり。まあでも世界を旅するミュージシャンが国民性を理解せず「この国の人間は静かだ!つまらん!」と憤るのはお門違いだと思うし、そういうそぶりを見せないエドはやっぱり好感持てるなあなんて感じたり。ただ、たまたま同じ日にライブに来ていた私の姉は「日本人ってライブでビール飲まなさ過ぎてびっくり!!」と驚いてた様子(ずっと海外に住んでいて最近帰ってきたので)だった。確かに、お酒飲んでライブ観ようなんて思う人少ないのでは?ライブハウスならともかくコンサートレベルのはしゃぐより聞き入る系のライブではお酒を飲む人は少ないと思う。やっぱりマナー意識なのか、お酒文化じゃないのか、いろいろと違いを感じられる面白いライブだった。