音楽映画はベタな場合が多いけれど、ベタだからこそ素晴らしい映画にもなるとも個人的には思っている。最近だとCODAなんかは最高だったし、日本にも素晴らしい音楽映画はある。

この映画、メインキャストがいい演技をしている。そして構成もすっきりしていて、非常に明確。深読みする場所もなく、丁寧に道筋を立ててくれている。だから音楽にしっかりと耳を傾けることができる。そして演奏もしっかり練習されていて、役者たちの本気度と熱意が伝わってくる。

―― 初挑戦のドラム演奏は、ずいぶんと苦労されたそうですね。

クランクインの3カ月前から練習を始めたんですけど、最初に叩いたときは、もうなんだかよく分からなくて(笑)。イメージでは、叩けるんじゃないかって、勝手に思ってたんですけど全然できなくて(笑)。1、2カ月は完成イメージから遠すぎて、半分諦めかけそうにもなりました。

―― それでも、諦めるわけにはいかない。

もうやるしかない!と一念発起して、スタジオ通うのも時間がもったいないから家でも練習できるようにと、音が出ないゴムパッドのドラムセットを購入しました。こういうところにお金かけないとね(笑)。

阿部寛インタビュー いくつになっても変わり続け、チャレンジする者を鼓舞する『異動辞令は音楽隊!』

――  他にも刺激を受けたミュージシャンはいますか?

バディ・リッチは神様なんだけど、デイブ・ウェックル、ステイーブ・ガッド、ヴィニー・カリウタのトリプルドラムもすごかったんです。前に出てきてトリプルでドラムだけでセッションするんですよ。ドラムっていうのは、だいたい後ろにいるもんだと思ってたから、勝手に。結構パワープレイなんだけど、もうドラムじゃないような奏で方をしていて、なんて繊細な音があるんだって、驚きました。

阿部寛インタビュー いくつになっても変わり続け、チャレンジする者を鼓舞する『異動辞令は音楽隊!』

ただ、メインキャスト以外のモブキャラの演技が少し見るに堪えないものだった。名前が売れている役をきちんと与えられている役者さんはみんなよかっただけに、一言役者が某演技だったので現実に引き戻される感覚が強かった。

以下ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

ちょっとセリフがくさい。セリフのせいで某演技に見えた。白々しいセリフも多い。あとステレオタイプが横行しててサブい。着物着た老婆が主人公を変えてくれるきっかけになって最後その老婆が死ぬのはベタすぎてつまらない。阿部寛と娘との仲直りも全然描かれていない。結局父親は娘の前で変わったことを表すシーンがなく、娘の動機が不明。父親のご都合主義にも映る。娘が不憫であることに未だ変わりなく。ただ、それを意図的(映画でなんでもかんでもすべて解決するわけではない、問題は地続きであるという意図)に描いているなら理解できる。それでも少しラストが美談になりすぎている気もする。

音楽隊の一人の若者を演じた高杉真宙が最後に主人公とヘラヘラしあわなかったのはよかった。変な青春ムービーにならないのもよかったし、本人達は最後まで音楽隊がなくならないことに気づかないまま終わったのもいいと思う。

それでもこの映画を「音楽映画」として見るには無理があった。これだけ音楽の話をしているのに、既存のポップスはおろか、ジャズの一つも流れなかった。これは残念極まりない。わざと流さなかったのだとしたらそれは違うと思うし、世界見渡してもこんなに音楽の流れない音楽映画はないとおもう。この人たち本当に音楽が好きなの?と思うくらいに音楽の話もしないしイヤホンで聞きもしないし街にも流れないし家でも流さない。ずっと無音でシケた生活をしている。BGMとしても当然活用されず。音楽が流れるのは実際に音楽を演奏しているときだけ。メリハリというのかな。。これ。。

前述したCODAも合唱クラブの話なので歌唱シーンは当然たくさんあるけれど、The clashの「I Fought the Low」は流れていたし、全くおかしな話ではない。

渋川清彦が演じた広岡は冒頭で「パンク好きか!?」と主人公に語り、LAUGHING NOSEというパンクバンド(恥ずかしながら初耳だった)の冒頭の音源を流すのだが、歌が入るわけでもなくぶつ切りで次のシーンへ移る。権利関係で音源を流すのが難しいと言われる日本の映画だが、こんなにも気持ちの悪い構成にさせてしまう権利を牛耳っている組織()があるなら一刻も早くぶっ潰した方がいい。NHKよりも早く。

ただ重ねていうが、阿部寛を筆頭に、高杉真宙、磯村勇人、見上愛、清野菜名、酒向芳、光石研などのキャストは素晴らしい演技をしていたし、全員アテレコなしの真剣演奏をしていたのが本当に素晴らしかった。その分、それを邪魔する要素とかけている要素がもったいなかった。

ちなみに、今回は予算もなく、片田舎の木造ボロ校舎みたいなことろでやる気もなく嫌々でだらだらやっている音楽隊の話だが、これは仮にも警察官であり職務のひとつなのにこれでいいのかという疑問はあった。実際警察音楽隊というのは存在していて、立派に職務に就かれている人たちに失礼なのではといういらぬ懸念もあった(当然取材等は行っているのだろうが)。よくある、廃部寸前の吹奏楽部が荒れに荒れていた、なんてシチュエーションは見かけるが、これは部活動でなく税金でご飯を食べている公務員。隊員それぞれ別の職務(交通整理やパトロール、経理など)があるのは理解できるが、まともに演奏もできないなんて正直「こんなの税金の無駄だ」といって音楽隊を廃止しようとする本部長の意見に賛同してしまう。それに怒るメンバーにも同情しない。こんな堕落した音楽隊を現実に目の当りにしたら警察にクレーム入れてしまいそうだ。。

と、よかったもののいろいろ突っ込みどころが多くて、なかなか評価の難しい映画だった。

主題歌はOfficial髭男dism。良質なポップスで、この映画の音楽チームとの共作。ぜひ。