数ヶ月前。フジテレビの番組内で十数年ぶりに懐かしのキャラを復活させようということで、とんねるずの石橋貴明がオネエキャラの”保毛尾田保毛男”に扮し登場したところ、轟々たる非難を浴びた。偏見を助長し悪意のある卑下したようなキャラ設定は当時ならともかく、現代では「冗談」では済まなかった。この問題の是非は置いといて、この2017年においてそのようなキャラクターが世間からどんな反応を浴びるのが想像することすら出来なかったフジ社員の危機管理能力の低さとアンテナの鈍さ、メディアを生業にする人間とは思えない時代錯誤がなにより嘆かわしい。
LBGTに対してどこまで豊かになったのだろう。人種差別に対してどこまで寛容になったのだろう。一見すると平和な世界が訪れているように見えたのに現実はそうでもなかった。
年末に浜田雅功がエディマーフィに扮したら黒人差別だと炎上した。この一連の問題は非常にナイーブで難しいのであまり深入りはしたくない(反論を唱える人たちにこれでもかとボコボコに殴られるのは目に見えている)が、差別をなくすことは違いをなくすことではないということだけは言っておきたい。
ムーンライトは「黒人」と「LGBT」という二重苦を描いている。とても綺麗で繊細で針の穴に糸を通すような、そんな細やかな感情表現が抜群にセンスのいい映画だった。こんなきれいな映画も久しぶりかもしれない。ひとりの男性の一生を3つの時期に分けて描く。でもこの作品を評価するときは少し気を付けたい。安易にべた褒めしても何も理解が進んだ気がしないのだ。まるで本当に一人の人生を見てきたと錯覚するくらいに同じ目をした役者に感服しながらも、主人公の一生をじっと見つめ直す必要がある。手放しですごいねで終わりたくない。そう思わせてくれる。