東京。仕事。恋。男女。セックス。
いくらでも溢れている男女のもつれをひとつの男性を軸に展開していくのがこの映画。伊藤という28歳のシナリオライター志望の男が4人の女性を翻弄する。東京の高級バッグのお店の店員として働く都合のいい女【A】、今は仮の姿だと言い張るアルバイトで食いしのぐ自己防衛女【B】、親友の彼氏と寝てしまう愛されたい女【C】、初めての彼氏にずぶずぶのヘビー級処女【D】。
20代半ばで手掛けた大ヒットTVドラマ「東京ドールハウス」で一躍有名になったものの、ある出来事がきっかけで新作を書けずにいる落ち目のアラサー脚本家・矢崎莉桜(木村文乃)。ドラマプロデューサー田村(田中 圭)からも勧められ、自身の講演会に参加した【A】~【D】4人の女性たちの切実な恋愛相談を、再起をかけた新作脚本のネタにしようと企んでいる。そんな彼女たちを悩ませ、振り回している男の名前が偶然にもすべて“伊藤”。莉桜は心の中で「こんな男のどこがいいのか?」と毒づきながら、脚本のネタのために「もっと無様に」なるよう巧みに女たちを誘導する。そして、莉桜は彼女たちの取材を重ねるうちに、【A】~【D】の女たちが語る【痛い男】=“伊藤”が同一人物ではないかと考えはじめる。
そんなある日、莉桜が講師を務めるシナリオスクールの生徒のひとり、容姿端麗、自意識過剰、口先ばかりでこれまで1度も脚本を書き上げたことのない28歳フリーターの“伊藤誠二郎”(岡田将生)が、4人の女【A】~【D】たちを題材にしたドラマの企画を持ち込んできたと、田村に聞かされる。なんと、これまで4人の女たちを振り回してきた【痛男】の正体は、莉桜が最も見下していた自分の生徒、“伊藤”だったのだ。しかも莉桜が再起をかけて取り組んできた渾身のネタを彼に奪われるかもしれない……。さらにそこには、莉桜のネタにはない5人目【E】の女が存在し…。二重の衝撃の事実にショックを受ける莉桜。実は“伊藤”の中では莉桜が5人目【E】の女になっていた。“伊藤”の狙いは一体何なのか―。莉桜は、徐々に追い詰められていく。引用元: 伊藤くんA to E公式サイト
どれもいまどきの少しイタくて無様な独身女性たち。なにより佐々木希演じるAは28歳で5年も伊藤に振り回され続ける激やばぶり。端から見れば美人でイケメン彼氏がいて東京で働く理想的な女性なんだけど実情はひどいもの。まあそれはどれもそうなんだけど。一番悲惨だったのは友人とシェアルームしながら塾のバイトをしているB。ただ貧困層な感じは一切なく、シェアルームとはいえ都内にしては広めで家賃が気になる。すぐクビになってろくに服も買えないようなBがあんな家の家賃を払えるのか気になる。
監督は廣木隆一。クセの強そうな頑固ジジイみたいな顔してベッタベタな恋愛作品を作っちゃう結構軟投派。というかクライアントの要望にしっかり応えるタイプ。この人の作品はあまり多く見ていないが長回しが好きなのかなと感じた。
闘わなければ負けない
というのが今回のテーマになっているのだが、なかなかこのテーマに対して一つの答えを出すことはできない。一見ふざけた弱者の遠吠え理論にもみえるこの意見だが、完全にそれを言いくるめるほどの論理がこちらで用意することができない。それをあれだけ力強く主張されると、「お、おう…」とたじろんでしまう。ぜひその暴力的な論理に巻き込まれながら、彼らの本心を探ってほしい。
そしてもう一つの見どころとしては伊藤の人物像。それぞれ4人の目線から描かれる彼の輪郭。だけれどもそれはすべて女性の主観によるもの。松たか子主演の「告白」を思い出す。原作湊かなえの小説のあとがきに、メガホンを取った監督が「これは全て嘘だったのかもしれない」と語っていたのが印象的だった。他人から語られる人のイメージはすべて嘘である。。。何とも恐ろしいが人間の本質をとらえている。よくよく考えれば伊藤は誰とも付き合うわけでも、だれに好きとも言っていない。みな自分を防衛し伊藤にその全てを押し付けている。
ところで岡田将生は相変わらずサイコな役が似合う。重力ピエロの時の彼はもう忘れた。悪人でのあの演技以来、もうまともに見られない。もう少しピュア将生も見てみたい気もするが。この映画がよかったのは志田未来と岡田将生がしっかりしていること。二人の底力に圧倒される。長いカットが多かった作品だがそれに耐えうる空気感を持ち合わせていた。にしても木村文乃の歯はなんて小さいんだ。ヤングコーンかよ。
最後にこの映画の主題歌の話を。andropの「Joker」という曲がこの映画の主題歌なのだが、なかなか良い。andropほどしっかりと作りこまれた世界観と完成度の高い楽曲を提供しまくってるのに若い子にハマらないバンドも珍しい。まあわかりやすさ、踊りやすさ(四つ打ちにしろシティポップにしろ)が求められる以上、彼らの生きる道は限りなく狭められているのかもしれないが。もう10年早く登場すべきだった、ラッドと同じ時期に出ていれば。いかんせんシングルが弱い。タイアップがあってもイマイチ。複数枚売りをしないとか、楽曲をメインに置いているので目立ったプロモーションをしないとか、そういうこともありあまりお金はかかってないのかなとも。
あとこの映画にまじでのめり込んで男女関係評論家気取りになる女とは絶対に付き合いたくないね。
55点って感じの映画でした。イマイチ中途半端で尺が足りてないのか無駄が多いのか木村文乃がしゃべり過ぎなのか田中圭がいらないのかわからないけど、暇で死にそうになったら観に行ってください。