2020年11月23日。RADWIMPSにとって「25個目の染色体」でメジャーデビューしてちょうど15年が経過した日。彼らは横浜アリーナでライブを行った。まだまだコロナ真っ只中、だれもワクチンも打ってなければ特効薬もない。なんとか人数制限をすればライブの開催も可能だったこの時期ギリギリのタイミング(また年始にかけて感染者は増加し、そして2021年の悲惨な状況はご存じの通りである)でのライブ。私も参加をしたかったが、大阪から関東への遠征は色々な状況を踏まえて断念。悔しさやらなんやらで気持ちも乗ってこず配信も観ていなかったので、このライブDVDがようやく初見ということになる。一曲一曲の感想は長くなるので割愛して、気になった点をいくつか挙げてみる。

演出の大胆な変更

今までのラッドにはなかったダンサーと演出の導入が今回の大きな目玉だ。個人的には5年遅いと思っているくらい、ラッドのダンサー演出導入を待ちわびていた。そしてその出来栄えは本当に素晴らしく、「棒人間」の演出からアンコールの「いいんですか」まで、あらゆるシチュエーションでこの演出が見事に活きていた。詩の世界を表現するためにダンサーを追加する。それは星野源も、宇多田ヒカルも追及しているミュージシャンの表現の最終到達地点だ。

360度ライブ

今回は全方位に観客を入れ、360度ライブを実現させた。こちらも初の試み(だったと思うが)だ。3人と決して多くない人数構成ながら、マシンにのって移動したり走り回ったりと、創意工夫が見られた。床一面にプロジェクションマッピングを施し、歌詞や過去のライブ映像をフラッシュバック的に使っていて、15周年を彩る演出になっていた。オンラインに対応した素晴らしい演出だったと思う。ちなみに私にとって360度ライブといえばなぜか聴きもしないメタリカのライブ映像である。2回言うが、別にメタリカは聴かない。

曲目

曲はやはり全体的にシリアスな方向へ。これは声を出せないからという理由もあるし、やはり野田自身のムードも反映されているはず。コロナの中、イライラと絶望を感じてきた彼にとって明るくておちゃらけた曲という選択肢はあまりなかったのだと思う。それを証明するかのように、毎回アルバムツアーでしか披露されないアルバムのラストソングが今回は「告白」と「バグッバイ」の2曲も選ばれていた。これは少なくとも映像化されたライブでは一度もなかった。他にも人間同士の傷つけ合い、監視、そして暴徒化が可視化された2020年だからこそ、「シュプレヒコール」や「棒人間」「蛍」そして「新世界」が選ばれたのだろう。その明らかに意図的な選曲は私の心にグッと刺さる。「新世界」以外、決してコロナの事を歌ったわけでは当然ないのだが、時代が変われば歌詞の解釈が変わるのも一つの音楽の面白さである、自然と今の時代を示唆しているかのような聴こえ方がしてしまう。特に「棒人間」は本当に心に沁みるし(それは自分の心境の変化かもしれないが)、「お風呂あがりの」の言葉の意味は深く深く突き刺さる。いがみ合い、監視し合い、そしてMCでも触れられていたように優しさを失ってしまった余裕のない人間の冷たくとがった言葉の応酬は私自身もひどく疲弊している。だからこそ「内容量成分同じ僕ら隣同士さ」という言葉はいやに重くのしかかる。

一番うれしかったのは「やどかり」。人生でもベストリリックに挙げられるくらい、この曲にはたくさん励まされ、気付かされ、前を向かせてくれた。感謝してもしきれないこの曲を、今もう一度ここで演奏してくれたことがすごくうれしい。個人的に歌詞が大好きな曲ばかりで、シリアスながらも、こうして眺めてみると野田洋次郎の書く歌詞は希望と理想に溢れているんだなと感じる。「バグッバイ」にしろ「グランドエスケープ」にしろ、ここまで見事に盛り上げてアウトロまで気持ちのいい楽曲を作れるのは本当にファンでよかったと改めて思える。

編成

今回はサポートドラマーを東京事変が忙しくなった刄田綴色から繪野匡史に変更し、編成を新たにした。特段大きな役割に変更はなかったように思えるが、彼の笑顔は一体なんなんだ。まるで及川光博のようなさわやかスマイル、武田を上回るベストの似合い具合。間違いない。彼が欲しい。彼をドラマーに欲しい。と思うくらいのお兄さんだった。

他にも気づいた事としては、「蛍」「トレモロ」「お風呂あがりの」とラッドにとって少ない3拍子の曲がそろい踏みしている。だからといって別に何もないが、そういやこれが揃うのは初めてだなと。

ということで「有心論」で野田の貴重な「用法容量お守りください」も聞けちゃう色々レアなライブ、個人的には好みのタイプのライブだった。なぜ「25個目の染色体」はyoutubeにはあがっていて収録はされていないのか、前日にどうやらAimerが来てたような発言をしてたのでそっちも収録しろよというツッコミも相変わらずありながら、とても良い演出でこれからもこのスタイルのライブは定期的に続けてほしいと思う。そして来年のツアーは武田と野田の二人で。正直寂しさもあるし、がっかりもある。ただ行いの良い悪いよりも、メンバーへの失望と信頼を失墜させたことへの罰ならだ致し方ないとして、私は行けないが、二人でも素晴らしいライブを作ってくれると信じている。