青山テルマを見逃さないで

「そばにいるよ」で大ヒットした青山テルマ。着うた時代に一世風靡した青山テルマ。最近はバラエティによく出る青山テルマ。ケンカ話やタイマン話。歯に衣着せぬ発言と明るいキャラクターの青山テルマ。

作られたキャラはうんざりなんです、と言わんばかりに過去を真正面から否定してく彼女を我々はいつだって楽しく眺めている。しかし、彼女の歌については誰も触れない。「え、そばにいるよの人でしょ」という。今も現役だと知らない人さえいる。

しかしいま彼女の楽曲をみると、どんなチンケなラッパーよりラッパーだし、抜群にキマっているし、彼女をスルーする要素なんてあるのだろうか。
世界にミーゴスやらトラヴィススコットやらが騒がれるなら日本には青山テルマがいる。そう断言する。ひとりのフィーメールラッパーとして、あるいはシンガーとして、その卓越した技術とメンタルはヒップホップカルチャーそのものだ。

逆境のシンガー

奈良の田舎に生まれ育った青山テルマ。当時、地元には黒人の子供がいなかったため、「ゴリラ」と呼ばれていじめられていたという。しかし、
「いじめてくる人って大概、ビビらせたら大丈夫なんですよ。だから、呼び出して、『うちな、ちっちゃい頃、フライパンで焼かれてん、だから、黒いねん』って」
と言ったことで、いじめを封じることが出来たという。
「いじめられてたらビビらせればいい。そいつらよりクレイジーになれば大丈夫です」

と語るように、彼女はダブルルーツであることや、スキンカラーの違いなどでどうしても目立ってしまう故に起きる衝突を繰り返す中で、自分を完璧に正当化して相手をひねりつぶす力強さを手に入れた。

自身の性格について、
「小学校からは基本、気に入らなかったらタイマン。呼び出して『お前なんなんだ』って」
と、子供の頃から武闘派であると語る青山テルマ。
アメリカ・ロサンゼルスに移住していた中学校時代には自分より身体の大きなメキシコ人から喧嘩を売られ、立ち向かったこともあるという。なお、
「殴り合いもします。1回解決したら一生仲間なんですよ」
とのことで、全力でぶつかりあったあとは両者に特別な絆が生まれるそうだ。
「ボコられても良いんですよ。負けても良いんですけど、最後、『ぜってえ行くぞ』っていう精神です」

この精神はどうみてもヒップホップだし、たとえばシカゴで多くのドラッグや殺人事件を目の前にしてきたラッパー達と比べるとそのハードさは幾分優しくも見えるが、自分がマイノリティである、あるいは差別されているという危機意識の根底は同じである。

そしてその過去をあっけらかんと話す姿勢は、インスタなどで次々と爆弾発言をかましていき人気を獲得したCardi Bを彷彿させる。ただ、音楽のジャンルの幅はCardi Bより広く、ルーツはR&Bに近いジャンルで、彼女がデビューした当初は2000年代初頭の雰囲気をそのまま踏襲したサウンドで着うたの女王にまで君臨したが、現在は一ジャンルに留まらず、自分らしさを一番出せるような、フィットした音楽を積極的にトライしている。

青山テルマ:そうなんです。エミネムがガンガンヒットしていた時代。私もR&Bやヒップホップを軸に音楽を聞いていました。ブリトニー・スピアーズとかクリスティーナ・アギレラとかもヒットしていましたけど、ヒップホップが熱かったので、日本での流行が全く違う音だったのはカルチャーショックでしたね。
<中略>
青山テルマ:いやほんと(笑)。そうなると、家で騒ぎながら作ったらメロディも意外とすぐにできちゃった。
──ほぉ…でもそれこそ本来の音楽の生まれ方のような気がする。
青山テルマ:そうなんです。この曲もそうですし、今回のアルバムの曲ってすごく楽しんでやっているんです。「私に求められているのはバラードだ」とか「私のイメージが…」とか「アーティストとしてはこうでなくちゃいけない」とか、今ではそういう変なプライドや感情が全く無いので…。

2年前に出た現時点での最新作「HIGHSCHOOL GAL」は特にそれが顕著で、一作の中でバラエティに富んだ作品が詰め込まれている。パラパラをテーマにした曲、「マダバカ」ではインドのテイストをこしらえて、自らをレぺゼンする。「talk s2 me」ではアリアナグランデのそうなスケール感かつcharli xcxのような欧米のポップスをトレースした最新モードを乗りこなしている。
「ONIGIRI」のようなバキバキの2010年代的なヒップホップもある。

いま、青山テルマを「テレビでよく見る面白い人」で片づけるのはあまりに野暮だし、もったいない。今彼女はキャリア史上最もホットでヒップホップなのだ。Cardi Bを安易に引き合いに出したのは私の悪い癖だが、それくらいにテレビでの発言も話題になりつつ、歌でしっかり自分をレぺゼンしていくスタイルは、やはり彼女と被ってしまう部分がある。

ハピネスかつクレイジー

生まれはアメリカながら3歳で帰国。英語はシングルマザーのお母さんが一生懸命学費を稼いで、インターナショナルスクールに通わせてなんとか身についたもの。インターに通う通学路などで受けた数々の偏見や誹謗。高校の成績は最下位に近く学校に自主退学を勧められたものの、そこから猛勉強し上智大学へ入学したこと。そしてそれら数々の困難があっても、夢のために続けてきた「歌」を決してやめなかったこと……。

マイノリティであることは弱者になるという事ではない。それは彼女が歩んできた道をみればわかる。悪口を言った相手とはタイマンでケリをつける。そうやって自分の存在価値を認め、そして高めてきたからこそ、今の彼女のスタイルがある。そして皆さんもご存じの通り、明るい。ハピネスなオーラをまとった彼女はとにかく心強い。誰かを蹴落とすんじゃなく、でも生ぬるい言葉ではなく、鮮烈なワードフレーズで私たちを活気づけてくれる。そして根源的な幸せを見出させてくれる。
2019年12月にリリースされたシングル「生きてるだけでご褒美」は彼女のなりのライフタイムアンセムだ。

この機会にぜひ青山テルマについて多くの人たちに語られる存在になってほしいなと思う限りだ。