いよいよ大本命、年間アルバムベスト50の発表です。要するに1位はノベル的”最優秀アルバム賞”ということです。改めて対象作品の確認です。
1.2019年12月~2020年11月にリリースされたシングル以外のEP、ミニアルバム、ベストアルバム、オリジナルアルバム、カバーアルバムが対象
2.各月の「月間アルバムランキング」にて各アルバムを評価したものに加え、聞き漏らしていた作品、全271作品が対象
3.各月の「月間アルバムランキング」では「曲 構成 ノリ メロディ 中毒性 後味 表現力 好き」の8項目で各10点、計80点で採点しているが、それらは参考でありこのランキングにはあまり関係がない
4.ミニアルバム・EPよりフルアルバムの方を高く評価してランキングを作成

それでは、まずベスト50に入らなかった221作品を50音順で紹介します。ここに記載のないものは私の未聴作品となります。

ランキング外

[Alexandros] – Bedroom Joule
¥ELLOW BUCKS – Jungle
5lack – この景色も越へて
88flavors – Flower of PIANO Life
Awesome City Club – Grow apart
ayutthaya – I know, right? – EP
BAD HOP – BAD HOP WORLD
BAND-MAID – CONQUEROR
Base Ball Bear – C3
BBHF – BBHF1 -南下する青年-
BENI – Y/our Song
BES & ISSUGI – Purple Ability
betcover!! – 告白
Beverly – INFINITY
BIGMAMA – Roclassick〜the Last〜
BiS – LOOKiE
BREIMEN – TITY
Brian The Sun – orbit – EP
Chara+YUKI – echo
CHIHIRO – Rose Quartz
Cö shu Nie – PURE
Da-iCE – FACE
Daichi Yamamoto – Elephant In My Room – EP
DAOKO – anima
DE DE MOUSE – Nulife
DEPAPEPE – Seek
DISH// – CIRCLE – EP
dodo – normal
DUSTCELL – SUMMIT
Eve – Smile
EVISBEATS – PEOPLE
FAITH – Capture it
FAKY – Re:wrapped
FANTASTICS from EXILE TRIBE – FANTASTIC 9
far. – perspective
FNCY – TOKYO LUV EP
gummyboy – The World of Tiffany
H ZETTRIO – Re-So-La
haruru犬love dog天使 – Lonely EP
HIROOMI TOSAKA – Who Are You?
Hours – Home
ISSUGI – GEMS
jizue – Seeds
JO1 – STARGAZER(Special Edition) – EP
K E I_H A Y A S H I – KEI_HAYASHI – EP
Kaco – ノルカソルカ – EP
KEIJU – T.A.T.O
KEITA – inK
kiwi – Before you’re gone
KZ – GA-EN
LAMP IN TERREN – FRAGILE
Laura day romance – farewell your town
Le Makeup – 微熱
LIGHTERS – Everything – EP
LiSA – LEO-NiNE
Little Glee Monster – BRIGHT NEW WORLD
Lucky Kilimanjaro – !magination
LUNA SEA – CROSS
lyrical school – OK!!!!! – EP
lyrical school – PLAYBACK SUMMER -EP
Maison book girl – 海と宇宙の子供たち
MASAYOSHI IIMORI – DECADE4ALL
mei ehara – Ampersands
Meitei 酩酊 – Meitei vol2
miida – utopia
minus(-) – C -EP
MIYAVI – Holy Nights
Mom – 赤羽ピンクムーン
MONKEY MAJIK – northview
MONOEYES – Between the Black and Gray
NENE – 夢太郎 -EP
NiziU – Make you happy – EP
Normcore Boyz – MEDIAGE
nuance – brownie
Official髭男dism – HELLO EP
OKAMOTO’S – Welcome My Friend -EP
österreich – 四肢 -ep
Ovall – Ovall
Paris death Hilton – Age of Death
PEDRO – 浪漫
PIGGS – HALLO PIGGS
pinoko – black flame
postman – HOPEFUL APPLE
PUNPEE – The Sofakingdom – EP
RAY – Pink
Reol – 金字塔
Rin音 – swipe sheep
ROTH BART BARON – 極彩色の祝祭
RYUJI IMAICHI – ZONE OF GOLD
RYUTist – ファルセット
SAKANAMON – LANDER
SALU – Gifted
SANTAWORLDVIEW – Sinterklass
Satoshi Oka – Zephyr
SCANDAL – Kiss from the darkness
SHISHAMO – SHISHAMO 6
showmore – too close to know
Shurkn Pap – WHERE IS THE LOVE?
Shuta Sueyoshi – pret a porter
SILENT SIREN – mix10th
SIRUP – CIY
sleepy.ab – fractal
SOIL & “PIMP” SESSIONS – MAN STEALS THE STARS
SPECIAL OTHERS - WAVE
SUKISHA × kiki vivi lily – Over the Rainbow
Superfly – 0
TAEYO – ORANGE -EP
Taeyoung Boy – THE BOY IS
Tago&Magos – So!Fun?Now!
TAWINGS – TAWINGS
THE NOVEMBERS – At The Beginning
THE ORAL CIGARETTES – SUCK MY WORLD
toconoma – VISTA
TORIENA – PURE FIRE
TYOSiN – blue blue
UNISON SQUARE GARDEN – Patrick Vegee
UVERworld – UNSER
Vaundy – Strobo
VaVa – Cyver – EP
weave – The Sound
who28 – THE BENDS -EP
xiangyu – きき -EP
XTAL – Aburelu
YeYe – 30
yonawo – LOBSTER – EP
yonawo – 明日は当然来ないでしょ
Zatta – ZATTA 2
秋山黄色 – From DROPOUT
惡Smith – MACHO MAN -EP
麻倉もも – Agapanthus
杏沙子 – ノーメイク、ストーリー
アジャテ – Alo
足立佳奈 – I
あっこゴリラ – ミラクルミー E.P.
阿部真央 – まだいけます
絢香 – 遊音倶楽部 ~2nd grade~
嵐 – This is 嵐
アルカラ – NEW NEW NEW
いきものがかり – WE DO
上田麗奈 – Empathy
打首獄門同好会 – 2020
ウ山あまね – Komonzo – EP
エイプリルブルー – Blue Peter
エドガー・サリヴァン – CHAP
王舟 – Pulchra Ondo
大橋トリオ – This is music too
大原櫻子 – Passion
岡田拓郎 – Morning Sun
岡村靖幸 – 操
小山田壮平 – THE TRAVELING LIFE
オレンジスパイニクラブ – 非日常
角銅真実 – oar
片平里菜 – 一年中
カノエラナ – 盾と矛
神様クラブ – JURA
上白石萌音 – note
神はサイコロを振らない – 文化的特異点
君島大空 – 縫層
木村拓哉 – Go with the Flow
キュウソネコカミ – ハリネズミズム
清竜人 – COVER
空白ごっこ – A little bit
クボタカイ – 明星 – EP
くるり – thaw
クレナズム – eyes on you – EP
ゴールデンボンバー – もう紅白に出してくれない
サイダーガール – SODA POP FANCLUB 3
斉藤和義 – 202020
坂口有望 – shiny land
里咲りさ – スパーク
サニーデイ・サービス – いいね!
時速36km – まだ俺になる前の俺に。
シバノソウ – あこがれ
清水翔太 – period
ズーカラデル – がらんどう
鈴木愛理 – i
空音 – 19FACT
高橋優 – PERSONALITY
タケウチカズタケ, 椎名純平 & 小林大吾 – the 3
寺尾紗穂 – 北へ向かう
突然少年 – 辺りを見渡せばきっと側に誰かいる
突然少年 – 心の中の怪獣たちよ
ツユ – やっぱり雨は降るんだね
東京事変 – ニュース – EP
東京パピーズ – 地球儀
ドミコ – VOO DOO?
中島美嘉 – JOKER
永田利樹 – NBAGI Ecdysis
虹のコンキスタドール – レインボウグラビティ
ネクライトーキー – ZOO!!
のっぺら – みに板西 – EP
長谷川白紙 – 夢の骨が襲いかかる!
羽生まゐご – 魔性のカマトト
ハルカミライ – THE BAND STAR
ハンブレッダーズ – ユースレスマシン
ビッケブランカ – Devil
日向坂46 – ひなたざか
広瀬大地 – One and Only
藤川千愛 – 愛はヘッドフォンから
変態紳士クラブ – HERO – EP
マカロニえんぴつ – hope
真心ブラザーズ – Cheer
まねきケチャ – あるわけないの
眉村ちあき – 劇団オギャリズム
三浦透子 – ASTERISK
宮本浩次 – 宮本、独歩。
みゆな – reply
メメタァ – いつかの僕が見た夢
家主 – 生活の礎
ヤバイTシャツ屋さん – You need the Tank-top
山本彩 – α
ゆうらん船 – MY GENERATION
吉田一郎不可触世界 – えぴせし
ライジュウ – Delta hood
リーガルリリー – bedtime story
リベラル – Surrearhythm
流線形&一十三十一 – Talio
緑黄色社会 – SINGALONG
浪漫革命 – ROMANTIC LOVE
わーすた – What’s “”standard”!?
忘れらんねえよ – 週刊青春

以上になります。
それではベスト50の発表です。

50位~41位

50位 GLIM SPANKY – Walking On Fire

49位 香取慎吾 – 20200101


48位 LEX – LiFE


47位 Moment Joon – Passport & Garcon

46位 リ・ファンデ – HIRAMEKI

45位 なみちえ – 毎日来日

44位 KOHH – worst

43位 赤い公園 – THE PARK


42位 ゆるふわギャング – GOA

41位 彼女のサーブ&レシーブ – SERVICE ACE

40位~31位

40位 BIM – NOT BUSY – EP

39位 ゲスの極み乙女。 – ストリーミング、CD、レコード

38位 環ROY – Anyways

37位 Group2 – Group2 Ⅱ

36位 Survive Said The Prophet – Inside Your Head

35位 WONK – EYES

34位 羊文学 – ざわめき – EP

33位 Yaffle – Lost, Never Gone

32位 女王蜂 – BL

31位 tofubeats – TBEP

30位~21位

30位 tricot – 真っ黒

29位 雨のパレード – BORDERLESS

28位 ラブリーサマーちゃん – THE THIRD SUMMER OF LOVE

27位 Awich – 孔雀

26位 Sexy Zone – POP x STEP!?

25位 chelmico – maze

24位 ヨルシカ – 盗作

23位 TENDRE – LIFE LESS LONELY

22位 私立恵比寿中学 – playlist

21位 maco marets – Waterslide III

20位~11位

20位 milet – eyes


19位 Attractions – POST PULP

18位 Vegpher – Minutus

17位 Age Factory – EVERYNIGHT

16位 Mom – 21st Century Cultboi Ride a Sk8board

15位 tricot – 10

14位 藤原さくら – SUPERMARKET


13位 あいみょん – おいしいパスタがあると聞いて

12位 Awich – Partition

11位 King Gnu – CEREMONY

それではベスト10です!!

10位~4位

10位 yonige – 健全な社会

記事「「何もない」を歌うyonige」でも書いたが、彼女らにとって意欲的で、かつよりエモーショナルな作品になった。日常、というのがyonigeの魅力ではあったが、それをより具体的に音とアレンジで表すことができている。決して踊れるビートではなくても、虚無的で背伸びのしない等身大の言葉は身に沁みる。君のいない日常が歌われた「ワンルーム」のような喪失を歌い「アボカド」のようにドラマチックに恋愛を描いて話題になってきたバンドだったが、「まずは君に謝らなくちゃ」と目をつぶれば元通りになるクリスマスイブを、その次に「春一番」と題し、「もういないあの人も、知らないあの人も必ず思う過去があり思う人がいるのか」とだけ呟く。結局何も起きていないこの言葉の積み重ねこそがyonigeたらしめる空間を生み出しているように思う。

9位 藤井 風 – HELP EVER HURT NEVER

圧倒的なセンスで日本中の音楽ファンを唸らせ、躍らせた。これほどまでに手放しで称賛された新人がいただろうか。私がFrank Oceanの「Blonde」を想起したのは決して音楽性ではなく、リリースしてすぐに、歴史的な一枚になったと(少なくともこのディケードを代表する一枚)確信を多くの人が持ったように見えたからだ。あの全会一致の雰囲気は一年に一枚あるかないか。それがこの藤井風のデビュー作だったわけだ。私自身はリリース当初はそこまでのめり込むことはしなかったが、夏場を過ぎ秋ごろになりだした途端、このアルバムの中毒性に気付き始めた。「何なんw」は歌詞を追えば追うほどおもしろくなるし、「罪の香り」「調子乗っちゃって」「帰ろう」とお気に入り曲が続々と増えていく。地元性を強く出しながら都会的かつ歌謡的なサウンドで土臭さを消し、むしろそれが”かっこいい”にまで昇華させたのは間違いない大きな功績。奇遇にも同じ岡山弁を新しい”おもしろさ”に昇華させたお笑い芸人の千鳥と同じである。このアルバムの後に出した「青春病」は彼の作品の中でも特にハイテンポで清涼感のある曲で、いかに最重要人物であるかを彼自身が示してみせた。

8位 秦基博 – コペルニクス

コンセプチュアルな作品の中に、一つ一つのテーマが彩り豊かで、それが最後にきちんと集約されている。というだけでこのアルバムのすばらしさは伝わるはずだ。狂信的な「Raspberry Lover」と対を成すように「Love Letter」が用意される。これが同一人物のストーリーだとホラーレベルではあるが、そういったエンターテインメント性も今作の魅力である。何より2019年発表の「花」が終盤を締める瞬間が最もエモーショナルにさせる瞬間だ。また「Last」や「地動説」、「アース・コレクション」のようなエフェクトも効果的に使用されていて、より広がりのある作風になっている。私の彼に対する今までのいわゆるオーセンティックな香りは薄く、彼の声を最大の武器としながらもサウンドメイキングにも妥協が無いことがはっきりとわかる。彼の代表曲にみられるような”歌モノ”としての作品ではなく、これは間違いなくエレクトロニカとポップスの融合であり、環境音楽の扉を叩いている傑作である。

7位 gato – BAECUL

秦基博をエレクトロニカとポップスの融合と表現したならば、gatoはエレクトロニカとロックの融合である。細かなジャンルは存じ上げないが、タイトなリズムに伸びやかな歌声がのっかり、様々な聴き方を許容する作品だ。単純に”都会的でオシャレな今どきの音楽”とまとめてしまうのはもったいないくらいに、その粒だったサウンドは脳を激しく刺激する。惜しくも解散してしまったLILI LIMITのようなダンサブル性とD.A.N.のようなオリエンタルなサウンドが混じって、中毒性を増幅させる。編成もベースレスで、その代りVJがいる特殊なのが特徴的で、音楽だけでなく視覚的なアートも取り入れた集団だ。14曲も収録されていながら40分強とテンポよく展開されていく楽曲構成もリズムを生んでいる。「babygirl」なんかは絶対にライブで聴いてみたいし、「9」のような一体感を生む楽曲もどう化けるのか楽しみである。配信ライブもあったようで、評判が良かったことも耳に入っている。楽しみしかない。

6位 kZm – DISTORTION

陽気な語りから突然不穏な音楽へと変わり、まさに「DISTORTION」の最中を体験させる構成からはじまり、「star fish」へとつながっている。ヒップホップでありながら多彩なジャンルを吸収し、禍々しさとポップさを両立させるためのツールとして機能している。客演に誰を迎えるかでkZmの立場と見せ方は異なっており、LEXを迎えたときはロックテイストを散りばめた激しいサウンドとラップを、小袋成彬との楽曲ではソウル、R&Bを感じさせる優美さを醸している。単純な口ずさみやすさと、それにとどまらない巧妙なライムが各楽曲にちりばめられているため単調さが打ち消されている。特に光るのはバラード曲で、その中でも「Half Me Half U」はkZmという人間のパフォーマンス性の広範さを伺え知れる楽曲だ。クラシカルなヒップホップのスタイルにこだわらない、すごく”今”を感じることのできるアルバムである。

5位 iri – Sparkle

アルバムリリース前のシングルからもうすでに期待値はカンストするレベルにまで達していたのだが、ふたを開けてみればやっぱり最高傑作だった。いままでのインディーでアーバンな空気感を残したまま、もっとメジャーな舞台でのパフォーマンスを意識した、開けた楽曲とアンサンブルの数々。ウェットな歌声と巧みなビートにまんまとノせられていく。iriらしいグルーヴィな日本語と小細工の無いまっすぐな歌はいつ聴いても安心感を与えてくれる。曲単位の時間もコンパクトで、冗長的な部分も見当たらない、無駄の少ない作品でもある。中でも「Sparkle」の細かな音遣いが申し分なくて、シンセも打ち込みもスクラッチも見事な配分で耳に届けられる。その後の「Coaster」との音の対比もまた興味深い。個人的には星野源のエッセンスも感じられるし、Suchmosのような渋さもあるし、SANABAGUN系統のアンダーグラウンドのシーンも捉えている。非常にバランスの取れた傑作である。

4位 GEZAN – 狂(KLUE)

「狂」から始まるこの作品は、序盤から痛烈に聞き手に問いかけてくる。一人一人と向き合い、丁寧に言葉を紡いでいく。作品通してBPMを整えられ、まるでひとつのデモ行進を眺めているような、一定のリズムがもたらす狂気を確かに思い知らされる。「反抗に対する再定義」を掲げる中で、反抗するひとたちにも牙を向け、考えを起こさせようとする。時に社会問題、政治、環境、権力、地位、そして私たち自身を標的にするのだが、それが決して見当違いでもなんでもなくて、きちんと一年後の私たちにフィットする作品になっている。偶然か必然かの議論はさておき、結果的にそのような作品になったことはとても重要だし、そんな稀有な作品を無碍する理由が私にはみつからない。なにも歌詞にのみ価値を置いているわけではない。いままでGEZANなんて苦手だなあと勝手に思い込んでいた私が見事に裏切られて一度で虜になったのは、間違いなくこの半狂乱なロックとダンスの混在にある。歌とも語りともつかない曲が5曲も続いた後、やっと歌いだした「Soul Material」で一度目線を起こさせる。正直かっこいいと思うようなジャンルでもないし、言ってしまえば単調な作風ではあるが、そこに切り込んでくる「赤曜日」、そして全員が待ち望んでいた「東京」への流れはこのアルバムの真価に気付くのに十分すぎるだろう。今一度、その手のスマホをベッドに置き、真っすぐとこのアルバムと向き合ってみてほしい。ダンスロックとして、反抗の再定義として。

3位~1位

3位 米津玄師 – STRAY SHEEP

実は米津玄師はそれほど深く聴いていなかったのが実情で、前作「BOOTLEG」は私の年間ベストランキング圏外、その前の「Bremen」は37位とその数字が語るように、特に大きな価値を見出していなかった。しかし誰もが知る「Lemon」や「パプリカ」といった作品はあまりにエピックなもので手に負えない独走を許してしまっている状況に懸念すら抱いていた。しかし2020年に入り、私にもようやく米津玄師の偉大とすばらしさに気付く瞬間が訪れてしまった。ある日突然「パプリカ」に涙し、「Lemon」に心ときめかせるようになった。結局「感電」も「馬と鹿」も鬼リピし、このアルバムも3位という評価を下さざるを得なくなった(下さざる…とは随分失礼な物言いだが)。歌謡的なエッセンス、オリエンタルなサウンド、オルタナティブロックとダンスミュージック。貪欲なジャンルの吸収と創生。決して海外のトレンドを追わずとも、それに倣うことなくとも、「一番かっこいい」を手に入れた。個性あふれる歌い方と、一度で鼻歌ができてしまうキャッチーなメロディとわかりやすい展開。落とすべきところを熟知した人間の手口である。多彩なジャンルに手を出すという事はどうしても陳腐さや浅はかさに直面してしまうのだが、それが一切感じられないのは米津玄師のアウトプットの巧みさによるものだ。「Teenage Riot」のようなジャパニーズロックど真ん中の曲をやらせてもそこら辺の日本のバンドを蹴散らしてしまうのは笑ってしまうし、コラボ相手に選んだ野田洋次郎との共演はあまりにうっとりするし、野田にあのようなフレーズや歌いまわしをさせる米津のチャレンジングな姿勢も(歌詞を野田に任せなかったというのは良悪両面あるが)おもしろい。JPOPの覇者であることを改めて証明した傑作。

2位 BIM – Boston Bag

力を抜いた、リズミカルなフロウが心地よいBIMのフルアルバム。今年初頭に出したEMも50位内に入るなど、自分にとって捨て曲が一切なく、ことごとく胸に突き刺さりまくった一年だった。けっして彼一人のプロダクションという感じではなく、G.RINAやSTUTSといった気鋭のプロデューサーとの共作もそうだし、KEIJUやkZmといった近しいラッパーだけでなく、ceroの高城晶平、No busesといったバンドメンツともうまく融合しているのが2020年的なヒップホップだ。圧倒的なノリのよさと、軽薄にならない軽快さがトップクラスにすばらしい。「Veranda」なんて何度聞いてもこの独特な浮遊感とニヤついてしまう気持ちよさがクセになる。「Tokyo Motion feat.高城晶平」でさらっと時事を盛り込めるのもヒップホップのカルチャーならではだし、自分が理想とするヒップホップの理想形に最も近い作品かもしれない、と今は思っている。堂々の2位。

1位 小袋成彬 – Piercing

2019年12月発売のアルバムはこういった年間ベスト系で割を食うことが多い。2019年としてカウントするには聴きそびれていたり聴き込めていなかったりで、ランキング上位に食い込めず、2020年作品としては古すぎて、私のように聴いた作品を逐一記録している狂人でもない普通の人にとっては記憶を掘り起こすのも難しくなる。まあ、”年間ベスト”なんてネットの音楽オタクたちが勝手に内輪でやってるだけで何の意味もないしだからどうってことでもないのだけれど、やっぱりこうやって秦基博の作品や小袋成彬の作品をきちんと提示することは私にとっても意味があるのではないかと勝手に思っている。最初から最後まで一切の間髪も入れず、作品に没頭できるというのは極めて貴重な体験だ。シームレスな展開だけでなく、曲と曲の”間”さえ愛おしくなるような、それくらいにすべてに意味が感じられる展開。まさにアルバムとしての評価に相応しい感想だ。個人的に日本の作品と海外の作品では聴き方が違う気がしていて(それがこのように洋邦とアルバムランキングをいまだに分けている理由でもある)、言葉の意味を過剰に追いかけるのではなく、サウンド全体として空気感も含めて総合的な耳のそばだて方をしているのが洋楽的な耳だと感じている。この「Piercing」は音の浴び方が限りなく洋楽的で、いっそのこと言っている意味が特に分からなくても評価はほとんど変わらないであろうと思えるほどに素晴らしい。恐らく多くの人がこの作品を海外のソウルやR&Bのアーティストになぞらえてこのアルバムの魅力と価値について語るだろう。私もそう思う。だけれどもっと大事なのはこの国でこの作品が誕生し、それが確かに受け入れられている事で、この後に何が生まれるかという事だ。決して世界のトレンドの模倣ではなく、彼が、彼のプロダクションが新しい才能を輩出し仕事を得、JPOPのコンポーサーとして質の向上につながっていくとすると、それはフランクオーシャンよりもずっとずっとこの国において価値のある存在になると思う。事実いま彼の周りから若い才能はどんどん生まれてきている。彼自身も宇多田ヒカルという日本一のポップミュージシャンにフックアップされたように、これからもその循環が生まれることを期待したい。とにかく素晴らしいアルバム。どんな時でもどんな季節でもフィットする大大大傑作。2020年は最高の年です。誰がなんて言おうとこの作品を聴くたびにそう思うようにしています。

まとめ

ようやくここまで来ました。疲れた。色々語るべきことはあれど、変わらないのは今年も素晴らしい作品に出会えたこと。本当に失礼な話だけど、こうやって50枚並べても来年も定期的に聴き続けるアルバムなんてきっと半分くらいで、10年後にも聴き続ける作品は数枚になると思う。でもだからこそここにこうやって形として残しておくことで、いつ見返しても「あ、こんなアルバムあったな。全然聴いてないな」と思い出すことができるのだ。そのための年間ベストだ。ランキングをつけることが野暮であることは分かっているし、自分みたいな素人が順位をつけることの傲慢さも理解している。それでもあくまで楽しく、みんなでワイワイいうためのオプションであると思っているから、私は今年も、そして来年以降もこの企画は続けたいと思っている。

お付き合いいただきありがとうございました。

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