いよいよ大本命、年間アルバムベスト50の発表です。要するに1位はノベル的”最優秀アルバム賞”ということです。改めて対象作品の確認です。
1.2020年12月~2021年11月にリリースされたシングル以外のEP、ミニアルバム、ベストアルバム、オリジナルアルバム、カバーアルバムが対象
2.各月の「月間アルバムランキング」にて各アルバムを評価したものに加え、聞き漏らしていた作品、全322作品が対象
3.各月の「月間アルバムランキング」では「曲 構成 ノリ メロディ 中毒性 後味 表現力 好き」の8項目で各10点、計80点で採点しているが、それらは参考でありこのランキングには本ランキングとは直接的な関係はない
4.ミニアルバム・EPよりフルアルバムの方を高く評価してランキングを作成

それでは、まずベスト50に入らなかった272作品を50音順で紹介します。ここに記載のないものは私の未聴作品となります。

ランキング外

4s4ki – UNDEAD CYBORG -EP
4s4ki – 超怒猫仔/Hyper Angry Cat
5lack – Title
Age Factory – Pure Blue
aiko – どうしたって伝えられないから
Aimer – Walpurgis
AIRFLIP – All For One
AJICO – 接続 -EP
ALFRD – 47TB20
ALI – LOVE, MUSIC AND DANCE
arauchi yu – Sisei
Awesome City Club – Grower
BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE – PASS THE MIC
Base Ball Bear – DIARY KEY
Big Animal Theory – However Well Known, Always Anonymous
BIGYUKI – 2099 -EP
BiS – BiS DiVE into ROCKS
BiSH – GOiNG TO DESTRUCTiON
BRADIO – Jmyful Style
BREIMEN – Play time isn’t over
CARTHIEFSCHOOL – CARTHIEFSCHOOL
Cocco – クチナシ
Cody・Lee(李) – 生活のニュース
Creepy Nuts – Case
Crystal Kay – I SING
Cwondo – Sayounara
DADARAY – ガーラ
DEAN FUJIOKA – Transmute (Trinity)
deronderonderon – Shape (of Narrative)
Devil ANTHEM. – SS
DISH// – X
Dos Monos – Dos Siki 2nd Season -EP
Dos Monos – Larderello
Doul – One BeyonD -EP
EVERYTHING IS WONDER – WONDER OF YOU
FANTASTICS from EXILE TRIBE – FANTASTIC VOYAGE
FIVE NEW OLD – MUSIC WARDROBE
Foxing – Draw Down the Moon
G.RINA – Tolerance
GLAY – FREEDOM ONLY
Gotch – Lives By The Sea
Grace Aimi – If
GRAPEVINE – 新しい果実
HAMIDASYSTEM – down
HIMAWARIちゃんねる – HIMAWARI BEST
HY – HANAEMI
iri – はじまりの日 -EP
JIGDRESS – after feedback -EP
jinmenusagi & DubbyMaple – EMOTAPE -EP
JP THE WAVY – WAVY TAPE 2
JUNNA – 20×20
JUQI – LuckySeven -EP
kabanagu – 泳ぐ真似
Karin. – solitude ability
KEYTALK – ACTION!
Kid Milli & dress – Cliché
kiki vivi lily – Tasty
kim taehoon – BOY -EP
kingsrhyme – Cyber – EP
KOTORI – we are the future
KREVA – LOOP END / LOOP START
Kroi – nerd -EP
LA imaginations – The tigers comeat night -EP
LADALES – 説教 – EP
Leon Fanourakis – SHISHIMAI
LEX – LOGIC
LIGHTERS – bitter peanut butter-EP
LITTLE CREATURES – 30
Lucky Kilimanjaro – DAILY BOP
luki – ユナイタマ -EP
MAN WITH A MISSION – INTO THE DEEP -EP
Mega Shinnosuke – CULTURE DOG
Miho Hatori – Between Isekai and Slice of Life~異世界と日常の間に~
mihoro* – love is alive -EP
MIYACHI – GOOD NIGHT TOKYO -EP
MONO NO AWARE – 行列のできる方舟
moon drop – 拝啓 悲劇のヒロイン
MORISAKI WIN – PARADE – EP
Mr.Children – SOUNDTRACKS
Ms.OOJA – PRESENT
NEE – NEE
NEI – NEYOND
No Buses – No Buses
NORIKIYO – 相模川町
NTsKi – Orca
Nulbarich – NEW GRAVITY
odol – はためき
Only U – POPCORN
p4rkr – ここに来るべきではなかった
Panorama Panama Town – Faces
PassCode – STRIVE
PEARL CENTER – And Become One -EP
People 1 – People
PICNIC YOU – HYPERNOUGHIMPOTENTZ
PLASTICZOOMS – Wave Elevation
PUFFY – THE PUFFY
RADWIMPS – 2+0+2+1+3+1=10 years 10 songs
re:lapse – re:lapse EP
reGretGirl – カーテンコール
ReN – ReNBRANDT
ROTTENGRAFFTY – Goodbye to Romance -EP
SACOYANS – GASOLINE RAINBOW
SAKA-SAMA – 君が一番かっこいいじゃん
SANTAWORLDVIEW & MiROKU – IKIGAI 2 -EP
Saucy Dog – レイジーサンデー
Seiho – CAMP -EP
Seukol – Mibunka -EP
SHACHI – CHASING -EP
SHE’S – Amulet
SHINJIRO ATAE (from AAA) – THIS IS WHERE WE PROMISE
SIRUP – cure
Sister Jugend – Yume Supply
situasion – KAWARA GIRLS -EP
SKY-HI – 八面六臂
SOIL &”PIMP”SESSIONS – THE ESSENCE OF SOIL
SPARTA – 兆し
SuiseiNoboAz – 3020
SUKISHA – Kiss The Knowledge Knives
sumera – Only moment
sumika – AMUSIC
SUPER BEAVER – アイラブユー
Sweet William – Beat Theme
Taiko Super Kicks – 石
Tempalay – ゴーストアルバム
TENDOUJI – MONSTER
teto – 愛と例話
THE BAWDIES – BLAST OFF!
The Birthday – サンバースト
the peggies – THE GARDEN
THE RAMPAGE from EXILE TRIBE – REBOOT
The Songbards – AUGURIES -EP
The Wisely Brothers – AGLIO OLIO -EP
THE ティバ – THE PLANET TIVA part.1 -EP
THEティバ & Bearwear – Bearwear/The tiva – EP
Tokyo Young Vision – Chawalit
TOURS – Legacy
TWICE – Perfect World
U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS – たのしみ
Various Artist – What a Wonderful World with Original Love?
WILYWNKA – EAZY EAZY
w-inds. – 20XX “We are”
WOZNIAK – Too Many Waves
YAJICO GIRL – アウトドア
yama – the meaning of life
yama – 麻痺 -EP
YeYe – おとな
YOASOBI – THE BOOK
yonige – 三千世界 -EP
YUI – NATURAL -EP
YUKI – Terminal
yuya theo – one tone -EP
アイナ・ジ・エンド – BORN SICK -EP
アイナ・ジ・エンド – DEAD HAPPY =EP
アイナ・ジ・エンド – THE END
足立佳奈 – あなたがいて
新しい学校のリーダーズ – SNACKTIME -EP
阿部真央 – MY INNER CHILD MUSEUM
雨のパレード – Face to Face
安藤裕子 – Kongtong Recordings
いきものがかり – WHO?
今市隆二 – CHAOS CITY
上野大樹 – 瀬と瀬
上野優華 – ヒロインにはなれなくて
ウカスカジー – どんなことでも起こりうる
内田真礼 – HIKARI
宇野実彩子 (AAA) – Sweet Hug
ウルフルズ – ウル盤
瑛人 – すっからかん
エイプリルブルー – いつかの海 -EP
おいしくるメロンパン – theory -EP
大塚愛 – One on One Collaboration
大原櫻子 – l
大森精子 – Kintsugi
岡崎体育 – FIGHT CLUB
踊ってばかりの国 – moana
お風呂でピーナッツ – スーパー銭湯 -EP
折坂悠太 – 朝顔 -EP
オレンジスパイニクラブ – アンメジャラブル
カネコアヤノ – よすが ひとりでに
上白石萌音 – あの歌-1-
上白石萌音 – あの歌-2-
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ – すてきなジャーニー
既踏峰 – 夢をみる方法
君島大空 – 袖の汀 -EP
奇妙礼太郎 – ハミングバード -EP
工藤静香 – 青い炎
クボタカイ – 来光
黒木渚 – 死に損ないのパレード
小林私 – 健康を患う
コブクロ – Star Made
コレサワ – 純愛クローゼット
さかいゆう – 愛の出番
崎山蒼志 – find fuse in youth
崎山蒼志 – 嘘じゃない
櫻坂46 – 流れ弾
佐藤千亜妃 – KOE
ジェニーハイ – ジェニースター
自動式 – MALUS
シュウ・ミウラ – fruity
少女模型 – マネキンの侵略
食品まつり a.k.a foodman – YASURAGI LAND
城田優 – Mariage
四星球 – ガッツ・エンターテイメント
スカート – アナザー・ストーリー
スキマスイッチ – Bitter Coffee
スキマスイッチ – Hot Milk
須田景凪 – Billow
ずっと真夜中でいいのに。 – ぐされ
ストレイテナー – Applause
ストレイテナー – Crank Up -EP
ぜんぶ君のせいだ。 – Q.E.D.mono
曽我部恵一 – Loveless Love
空音 – Alcoholic club -EP
空音 – TREASURE BOX
高橋幸宏 – THE SHOW/YOHJI YAMAMOTO COLLECTION MUSIC by YUKIHIRO TAKAHASHI
玉置浩二 – Chocolate cosmos
テスラは泣かない。 – MOON
寺尾紗穂 – わたしの好きなわらべうた2
寺嶋由芙 – サバイバル・レディ
電波塔 -県道60号 -EP
東京事変 – 音楽
東京スカパラダイスオーケストラ – SKA=ALMIGHTY
土岐麻子 – HOME TOWN ~Cover Songs~
徳永英明 – LOVE PERSON
ドミコ – 血を嫌い肉を好む
ドレスコーズ – バイエル
どんぐりず – 4EP1 -EP
ナミヒラアユコ – 薄明光線
錦戸亮 – Note
虹のコンキスタドール – RAINBOW SUMMER SHOWER
日食なつこ – アンチ・フリーズ
ネクライトーキー – FREAK
乃木坂46 – 僕は僕を好きになる
バカがミタカッタ世界 – 円 -EP
パスピエ – synonym
蓮沼執太 – NHK DRAMA “KIREINOKUNI” ORIGINAL SCORE
パソコン音楽クラブ – See-Voice
ハナレグミ – 発光帯
ハラミちゃん – ハラミ定食 DX ~ Streetpiano Collection~「おかわり! 」
坂東祐大 – Towako’s Diary
ピーナッツくん – tele倶楽部
久石譲 – ミニマリズム4
羊文学 – You Love -EP
ヒトリエ – REAMP
日向坂46 – ってか
広瀬香美 – 歌ってみた 歌われてみた
福山雅治 – AKIRA
フジファブリック – I LOVE YOU
冬にわかれて – タンデム
フルカワユタカ – YF 上 -EP
フレンズ – SOLAR
変態紳士クラブ – ZURUMUKE
星野源 – 不思議/想像 -EP
ポルカドットスティングレイ – 何者
槇原敬之 – 宜候
松島諒 – おっさん恐怖症
マハラージャン – 僕のスピな人
眉村ちあき – 日本元気女歌手
まるりとりゅうが – まるりとりゅうが
ミツメ – VI
向井太一 – COLORLESS
向井太一 – DOORS EP
持田香織 – せん -EP
ももいろクローバーZ – 田中将大
森口博子 – 蒼い生命
ヤなことそっとミュート – Beyond The Blue
ヤユヨ – THE ORDINARY LIFE -EP
悒うつぼ – 嘘八百
有華 – Cherish it
諭吉佳作/men – からだポータブル
吉沢嘉代子 – 赤星青星
和田彩花 – 私的礼讃

以上になります。
それではベスト50の発表です。

50位~41位

50位 安部勇磨 – ファンタジア

49位 山崎まさよし – STESEO 3

48位 揺らぎ – For you, Adroit it but soft

47位 TENDRE – IMAGINE

46位 矢野顕子 – 音楽はおくりもの

45位 betcover!! – 時間

44位 あっこゴリラ – NINGEN GOKAKU

43位 アイナ・ジ・エンド – THE ZOMBIE

42位 くるり – 天才の愛

41位 RADWIMPS – FOREVER DAZE

40位~31位

40位 PEDRO – 後日改めて伺います

39位 kamui – YC2

 

38位 青葉市子 – アダンの風

37位 OKAMOTO’S – KNO WHERE

36位 超特急 – Dance Dance Dance

35位 For Tracy Hyde – Ethernity

34位 Daichi Yamamoto – WHITECUBE

33位 清水翔太 – HOPE

32位 SHISHAMO – SHISHAMO 7

31位 MAN WITH A MISSION – Break and Cross the Walls I

30位~21位

30位 The fin. – Outer Ego

29位 オカモトショウ – CULTICA

28位 FNCY – FNCY BY FNCY

27位 Koji Nakamura – Texture Web2

26位 Mom – 終わりのカリカチュア

25位 Tohji, Loota & ブロディンスキ – KUUGA

24位 羊文学 – POWERS

23位 millennium parade – THE MILLENNIUM PARADE

22位 4s4ki – Castle in Madness

21位 D.A.N. – NO MOON

20位~11位

20位 w.o.d. – LIFE IS TOO LONG

19位 indigo la end – 夜行秘密

18位 平井堅 – あなたになりたかった

17位 DYGL – A Daze In A Haze

16位 lyrical school – Wonderland

15位 NOT WONK – dimen

14位 Homecomings – Moving Days

13位 Official髭男dism – Editorial

12位 CHAI – WINK

11位 ROTH BART BARON – 無限のHAKU

それではベスト10です!!

10位~4位

10位 kroi – LENS

2021年最も飛躍したバンドの一組、kroi。いまだに収まらぬコロナ禍において大々的にフェスが行われにくい状況の中でも大きな存在感をライブシーンで放ち続けた。彼らの独特なワードセンスは冒頭の「balmy Life」でじゅうぶん伝わると思うが、その奇々怪々且つリズムを崩壊させ再構築する抜群の手腕は本作通して味わうことができる。ファンク、ソウル、R&B、ヒップホップ、そしてロック、フュージョンまで、ある意味節操ないとまで捉えられそうな包括性も、kroiなりのアプローチでうまくまとめあげ、実に彼ららしい、kroiのシグネチャーとして機能している。有機的なバンドサウンドの本質を表現し、タイトなドラム、弾むベース、煌びやかに楽曲を装飾するシンセなど巧妙な遊び心と豊かな音楽観がこの作品の基礎を作っている。

 

9位 butaji – RIGHT TIME

ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」でのSTUTSとの共作でも大きく取り上げられたシンガー、butaji。その実力はとっくに認められた確かなものであるが、今作はよりbutajiが広いフィールドに走り出したと思える。3年ぶりとなるアルバムは、前作との間に確かな実績を積み上げてきた。それが結集したのが今作「RIGHT TIME」だ。前作「告白」からの次のステップとなった「中央線」、折坂悠太との共作の「トーチ」のセルフカバー、そして最新作「free me」、これはtofubeatsがアレンジしたビートの強弱が後半にかけて盛り上がっていくハウスっぽいbutajiの新境地、まで、その軌跡をたどれるものになっている。ただ、butajiの楽曲、特に「RIGHT TIME」に収録されている楽曲は非常に古風な和のテイストを感じるメロディが多いように思う。でも全然古くさくなく、単純に歌謡曲にはカテゴライズできないサウンドの豊潤さやトレンドを押さえたアクセントがしっかりとそこの境界線を飛び越えないブレーキになっている。先のkroiは「最近の人って、作品を通じて自分の中に憂鬱を取り込むのが多くなっていると思うんです。そういうリリックやアーティストが増えてきた。だんだん表現がネガティブになってるし、その方が重く伝わりやすい。けど、それが日常を変えるためにどういう作用を及ぼしているのか、考えても答えが出なかったんですよ。それで、わからないけど、とりあえずそこを抜き取ってみようと。その憂鬱を摂取して“充電”してる様子を抜き取りたいと思って書いた曲です。(BARKS)」と語る一方で、「僕は他人に聴かれることを前提に曲を作っているので、作品が媒介になってほしいんですよね。自分の音楽が機能してほしい。作品を介在にして、この現状を打破したいんです。でも、一般的に〈機能的〉とされているポップスの歌詞は、脆弱だと思う。だから、〈強いものを作らなきゃ〉と思って、このアルバムを作ったところはあると思います。ポップスの言葉が脆弱だと、それに対するカウンターも成立しないですからね(MIKIKI)」と語るbutajiは非常に興味深く、対立的な構造を持つ発言ではないとは理解しつつも、いや、butajiらしい。この作品のハイライトはやっぱり「トーチ」じゃないだろうか。折坂悠太の「トーチ」が大好きだったのだが、butajiのもひけをとらない名作である。また聞こえ方も意味の捉え方も印象も異なる、別の「トーチ」が聴ける。

8位 きゃりーぱみゅぱみゅ – キャンディーレーサー

きゃりーぱみゅぱみゅとしてデビューして10年が経ち、自身も年齢を28までかさねた。当然本人も”きゃりーぱみゅぱみゅ”と向き合っているだろうが、これからのきゃりー像をどうするのか重要な局面を迎えている。そして彼女”たち”は何とも斬新な方向性を切り開いた。それが「原点回避」である。シングルトラックのタイトルにもなっているこの「原点回避」はそのまま原点回帰をもじって”回避”してやろうという天邪鬼精神が宿っている。とはいえ、それは言葉遊びであり、サウンド面は明らかに原点に回帰するようなシンプルさがある。ただここで重要なのは、やはり”回避”できているということ。原点回避とシャレでかわしつつ、原点回帰をしているのだけれど文字通り回避もできている。よりハウスの要素を強め、トランスミュージックのようなきゃりーよりも中田ヤスタカの暴挙のようなサウンドが前面に登場する曲もある。それが「どどんぱ」であり、さすがにこれをきゃりーぱみゅぱみゅの楽曲として聴くとは思っておらず、ぶったまげた。今まで意図的に抑えられていた低音を余すことなく使い切り、あくまで漸進的な姿勢を押し出す。「原点回避」のMV内で彼女の代名詞でもある巨大リボンに追いかけられるシーンはそれだけでいかに示唆的であるかわかるはずだ。新レーベルKRK LABを設立したりと大きなチャレンジも多いきゃりー。読者モデルが歌手としてデビューして、でもいつの間にかその歌手だけで10年やってきた。他のジャンルに手を出すわけでもなく、あくまで歌手としてまっとうし、そしてここまでの高みにきた。今年のサマソニでのライブは印象的だったし、そこで披露された楽曲に改めてその強度を思い知らされることになった。

 

7位 青山テルマ – Scorpion Moon

2020年、すい星のごとく現れたAisho Nakajimaを誰よりも早くフックアップし、「Yours Forever」をかきあげた青山テルマ。日本にはまだ少ないポップスターとしての素質を見抜いたという事実だけで、いかに青山テルマが自由で嗅覚の鋭いアーティストであるかがわかる。「1LDK」のような旧来的な激甘ラブソングを歌っても、そのサウンドメイキングは息をのむ。音の乗せ方、日本語の使い方が圧倒的に独創的でおもしろい。それは「stay with me」のベースラインとピアノの美しい掛け合いからも、「キミノトナリ」や続く「KARMA KATRINA」の緩急の活かしたラップからもわかる。前半はテルマらしいR&Bを基調としたラブバラードを、後半はヒップホップを用いた、攻めた歌詞も含んだ強気なパンチラインを。自省的なリリックで半生を語る「life goes on」を経て、そしてラストの「生きてるだけでご褒美」がピッタリとピースを埋める形で最後を明るく締める。これこそ青山テルマの最高到達点だ。

Aishoに限らず、若い子たちの音楽がもっともっといろんな人に届いてほしいです。音楽シーンは誰でも介入できるから、ジャンルや性別、セクシャリティを問わず、どんな人にとっても自由な場所であってほしい。だからこそ、後輩がさらに活躍できる環境を作っていきたいですね。

音楽ナタリーより

6位 KID FRESINO – 20,Stop it.

最近あるツイートを見かけた。「最近の若い子に『英語と日本語が混ざった曲はもうダサい』と言われてハッとした。今のヒット曲、英語と日本語が混じったものがほんとにない」みたいな内容だったと思う。Twitterに蔓延る音楽に深いまなざしがあるわけでもないけどビジネス視点で「最近の曲はイントロが短い」みたいな考察はうんざりするけど、これも本当に狭い観測範囲のチンケな考察だと思う。KID FRESINO(以下、フレシノ)がヒットソングを歌うポップシンガーであるとは微塵も思わないが、こんなに日本語と英語のミックスが美しいアーティストがいるのに、なにが「ほんとだ最近の曲には英語がない」だよ、と野暮なツッコミを入れてしまいそうになる。「意外にね、ラップにおける日本語は直接的、好戦的な物言いをするのに向いている言語だと思っていて、自分がそういう物言いをする際には日本語を使っている印象があるんですけど、それでも今の自分がラップのなかで手放しで使うには限りがあるかな。(CINRAより)」とインタビューに応えるフレシノ、見た目は穏やかだが秘めたる野性はどう猛な彼は演奏者からゲストボーカル、ミックスまで様々な人を招聘した。盟友でもあるバンドメンバーはもちろん、Otagiriのサイレンのような刺さる歌声も、レイジーでクールなBIMのラップも、祝祭感をつくりあげるカネコアヤノもそれぞれがフレシノの音楽の許容性を高めている。アルバムとしてのまとまりを意識したという本作は、「j at the edge of the pool」のインストからCampanellaを迎えた「Girl got a cute face」へのシームレスな転換からも伝わってくる。本作のちょうど中間地点にあてこまれたこの楽曲はオールドスクールなヒップホップの文脈も、現代のヒップホップのアプローチも混在している。

5位 鈴木真海子 – ms

最小限の音に、躊躇の無い大きな間など、ミニマルな姿勢が前面に押し出されたchelmicoの鈴木真海子の初のソロアルバム。chelmico時代のキレの良さやハッとするパンチラインとはうってかわって、彼女の人柄がにじみ出た作風に仕上がっている。公私ともに仲の良いiriを迎えた「ジャム」でもそのリラックスムードは健在で、身近な喪失と想起を着想点とした楽曲ではラッパーよりもシンガーとしての力量を発揮させる。 いわゆる”チル”に分類されるアルバムだとはおもうが、実際の彼女のアティチュードはもう少し叙事的である。 「untitled」も、「どっかの土曜日」も、彼女の日常的な一面をのぞかせながら「愛する」と「愛していた」を往復する。相棒のレイチェルを歌った「R」で「そっと埋まっていた新たな芽は陽を見る」と語るように、自身の旅路を振り返るシーンもあり、このソロプロジェクトの真意をくみ取ることができる。過剰なほどにアレンジを施した楽曲がトレンドに上がる中で、ここまで音をそぎ落としながら歌力とフロウで聴者を惹きつけられるのはプロダクションの勝利というほかない。

 

4位 AAAMYYY – Annihilation

トラックメーカーでもありシンガーでもありTempalayのメンバーでもある。。。多面性がひときわ輝くAAAMYYYのセカンドアルバム。少し懐かしさもあるサウンドに、ボーカリストとしての才覚も発掘されたアルバムだったように思う。もっと無機質でウィスパーな前作から、サウンドも生っぽいバンドサウンドに「不思議」のようなバランスのボーカルも非常に新鮮であり、彼女の変化である。「ありのままの僕らは生き地獄みたい/ありのままの僕らでいられる未来をください」ととほうもない絶望と一縷の希望を抱く「不思議」と「Leeloo」の「ありがとう神さまあたなが教えてくれた全て/わがままな人間の持つずる賢い逃げるところ/愛と言えば許されるし懺悔すればおしまい」は地続きである。その一方で「PARADOX」のような自己矛盾にあらがいながら自浄作用をもたらしていく。「嫌でも喰らうパラドックスから誰か助けて」。特にShin Sakiuraと共に制作したという三曲「PARADOX」「天狗」「TAKES TIME」はこのアルバムのハイライトである。コロナの影響をもろに受けたからこそ内面へと切り込み、そしてそこに行きついた「PARADOX」によってAnnihilation(対消滅)してしまう結論はいろんな彼女のインタビューと発言を読む限り、彼女らしい発想だなと思う。ただ、ネガティブを推し進めるのでもなく「生きるのは美しい」と認めた「Utopia」にあるように、彼女のピュア性やインディビジュアルな価値観は2020年代に必要な要素でもある。本質を覗くその千里眼とその先に行きついた自己批判、社会構造の鬱屈した部分を見事に作品として昇華し、TENDRE、石若駿、荘子itなどを迎え、充実した濃厚さを蓄えている。

3位~1位

 

3位 小袋成彬 – Strides

オルタナティブなサウンドを構築し、ヒップホップともR&Bとも解釈できる小袋成彬の新作はより自分自身以外へと、社会への眼差しを感じるオープニングナンバー「Work」で方向性は決定づけられた。この4分で彼のこの2年弱を経た心境が絶念的な形として表れている。ひたすらに日本語と英語のフロウの最適解を見つけ出し、丹念に音にしメロディにしているその技術はまさに職人。はっきりいって日本に彼の右に出る者はいないだろう。それくらいにあっさりと日本のシーンを飛び越えてしまった。「進むべき道すらねえこのゲーム(Rally)」と諦観すら漂う小袋の楽曲。そこに「才能には副作用/栄光には影がつきまとう(君に夢中)」と歌っていた宇多田ヒカルがクレジットされているのはどうやら腑に落ちる。

今まで俺、あんまり共感能力とかもないし、共感することにあんまり意味も感じたこともなかったんですけど、こっち(ロンドン)に来て、最初赤ちゃんみたいな感じで、英語で喋るじゃないですか。拙い英語で。そうすると、なんか「会話って共感ベースで進んでるな」ってわかるんですよね。「あぁ〜!」とか。そういうリアクションで会話は成り立っちゃうみたいな。そこで「共感する能力」を鍛えたい、って思って。で、その後、empathyって言葉を知って。「俺、sympathyが足りないんじゃなくて、単純にempathyを鍛えてなかったんだ」って思ったんですよ。

その言葉をなんで知らなかったかって思ったら、日本語にempathyを意味する言葉ってなくて。辞書に載ってないから。そこで「なるほどね」って思って。今、この世に足りないのは、まさにempathyで、sympathyを探すことではないんだって。しかも、その概念が辞書にない、日本にないっていうのはやべーって思ったんすよ。

小袋成彬 -『Strides』| まずは小さな一歩から 

と語る小袋。「まだ五輪反対してる人、アスリートの友達いないのかな」と夏にツイートしていたのはそれがアスリートへのempathyだったのだろうか、なんてふと思う。

N.O : 何日も迷ってますけどね。最初は「優しさは可視光線」って「は?」って思いながら書いてて、でもなんか読んでるうちに、段々納得していくんですよね。empathyを最近Improveしたので、人の優しさが見えるようになってきて。

同上

ただ、以前別のインタビューで

「共感を生む音楽が売れるという通説があるじゃないですか。でも、共感してるって言われても、ほんとうに自分の意図することと相手の感じたことは100パーセント合致してるのか。そんなの誰にもわからない。だったら最初にアンケートを取ってパーセンテージの高いことをすればいいわけで。そんな証明できないものについて議論する必要なんてないし、ましてや命題にするなんて」

JINS SHIBUYAより

と語っていたことからわかるように、彼も変わった部分はあったのだろう。だからこそタイトルを「Strides」にし、誰かをリードする存在になれないかと模索する。音はタイトに、そして最大限のグルーヴを生み出し、たったわずかな一音が何十倍にも膨らみをもって鼓膜へと侵入し脳内をハックする。こんなにダンスミュージックらしいんだからもっと踊らねば。そう「Work」内の小袋成彬が呼びかけている。アティチュードは人さまざまであるが、このアルバムがどんな国内のR&B作品よりもアグレッシブでプリミティブな追及を行っているのか、きっとわかってもらえるはずだ。

2位 折坂悠太 – 心理

どれだけいいアルバムだと感じても、レビューしやすいアルバムとしづらいアルバムがある。その中でも”複雑すぎて難しい”作品や、”謎過ぎて解読できない”作品などの種類に分けることができる。折坂悠太の「心理」はその両方を兼ね備えている、私にとって非常に語りづらい、でもこの感じた自浄作用は本物であるという矛盾を抱えた作品なのだ。

今回の収録曲の歌詞を活字にして見たとき、意識のない人がベッドに横たわっていて、その人に対して話し続けているような歌詞だと思いました。返答のないものに対し、ひたすら投げかけ続けているという。

CINRAより

断片的に語られた言葉。エモーショナルな部分を抑えた描写。だから彼の特設サイトに掲げられた色々な人の感想は「水」や「海に浮かぶ船」、「不透明」といった抽象的な言葉が並ぶ。どうにも捉えがたい、でも全体からメッセージは読み取れる。ただ、一つ確かなのは「恐怖と喜び」、「息子の歯の抜けそうになっているのを、見つめている」「複雑だけれど清くありたいもの」といった文言から、二律背反する感情や流合的で実体のつかめない感覚がみんなにあるということ。「確かじゃないけど 春かもしれない(「春」より)」はその不透明さ、不確実さを歌にしている。今作の「重奏」メンバーによる演奏はより折坂悠太の漸進性をくみ取っているようにも思う。「鯱」も「nyunen」も同一線上にあるカオスと静謐を兼ね備え、「トーチ」のような実行力の高い爆弾を投下していく。彼の歌詞は”重奏”的に意味をもたらし抽象度を増す一方で、核心的な一言を突きつける。彼のシグネチャーでもある牧歌性や民謡性は今作でもしっかりと軸になりつつも、さらにアンビエントの要素を追加し、生活や人生を音楽で包括するような仕組みになっているようにも感じる。たった一人の「心理」を表すために、様々な角度から、時にイ・ランやサムゲンデルをゲストボーカルとして招聘し実直なまなざしで歌っている。ブレイク・ミルズとピノ・パラディーノの「Notes with Attachments」を影響元として公言するのには深い合点がいくし、そういった複合的な試みがこのアルバムのおもしろさなんだと気づく。

あと、手応えとしては、ライブを弾き語りでずっとやってきて、会場の人の声とか、ガヤガヤしている音とか、野外でもの凄い蝉が鳴いているとか、そういう自分が意図しない音が入って来ると、自分の歌が生き生きしてきて、尚かつ、歌詞の内容でも必然性が出てくることがあって。自分の普遍的に思う感覚をより際立たせるためには、自分が意図しないものが入ってくるというのが、一つ条件というか、得られた答えみたいな部分はあるなと思っていて、普遍的なポップスと実験的なことが二つ同居するのが可能なんだじゃないか、という風に考えてきました。

Rolling Stoneより

「こんなに夜が明るいのに/流れがどっちかわからないんです/こちらからは以上です」

1位 カネコアヤノ – よすが

どうしても「コロナ」のワードを避けて語りたくてここまでレビューしてきたが、やはり最後に触れざるをえないというか、触れておきたくなるのは正直言って安直で好きじゃくても必然だなと感じている。1年で終わると楽観視したこのパンデミックは翌年更なる惨憺たる現実をもたらした。より歌の力は脆弱化し、その力自体を疑問視する人が増えた。そんな甘っちょろいことを言っている場合なのだろうか。そんな冷めた、そして地べたを這うような業界の苦心が垣間見える。私はだからこそより個人の”歌”にフォーカスするようになった、気がする。切迫した”歌”は強く、美しく体内へ循環していく。カネコアヤノの真っすぐで胸ぐらをつかみつつぐっと抱き寄せてくれる力強さはこの一年の私の集大成にも思える安ど感があった。まさに「抱擁」から始まる今作は、その宣言でもあるかのようで、「よすが」そのものだった。

「この状況が続くなら音楽を止めてしまうかも」とライブのMCでもらしてしまうくらいに彼女自身も小袋成彬やAAAMYYYと同様に「自分が存在する必然性」について考えざるを得なくなってしまった。それはなにより彼女が誠実である証明だ。世の中の動きに対してとても誠実である。

カネコ:とにかく時短、みたいな。コンビニとかスーパーのレジも機械が増えてるじゃないですか。そういうことも含めて、人と人とで対話するよりも、みんなどんどん画面を見るようになってますよね。空を見上げる人なんていなくなっちゃうんじゃないかなって思うんですよね。

中略

顔と目が大きくて、口が小さくて、体が細くて四肢も細いみたいなかたちをしてる宇宙人っているじゃないですか。あれって文明の力が進みすぎて、自分の体で動くことがなくなった人間の姿なんじゃないかって話があって。

北沢:実は人が退化していった姿なんじゃないかってね。

カネコ:そう。退化して、画面をずっと見てるから、見ることにどんどん長けて目がどんどん大きくなる。会話も何かしらのツールでできるようになって口を動かさなくなって口が小さくなる。体じゃなくて脳みそばっかり動いてるから頭がでかくなるみたいな。

CINRAより

アプリで恋愛の変化を感じ取り、人が空を見上げなくなり、宇宙人は未来の人間の姿だというクリシェを素直に吐露する。月を見て綺麗だねと言えていた日本人の感覚を取り戻そうとする。「孤独と祈り」や「春の夜へ」はまさにそれを表したような内容だ。彼女がロックよりフォークの要素を強く感じるのはその精神性からも来ているように思う。以前どこかの週刊誌が「第二のあいみょん」とカネコアヤノを呼んだときに大きな顰蹙を買ったのは、カネコアヤノが二番煎じであるかのような扱いを受けた事に対する反感だけでなく、あいみょんはロックでカネコアヤノはフォークだからではないだろうかと個人的にはおもっている。あいみょんは怠惰だ。惰性的で日常の描写が繊細でスレている。「今夜このまま」での「抜け出せない抜けきれない」や「愛を伝えたいだとか」での「それに割れてしまった目玉焼き/ついてないなあ/バランスをとっても溢れちゃうや」がそれを表すように、ピュア性よりも鋭いまなざしと複雑なコミュニケーションのうえで成り立つ恋愛のようなものをあいみょんの目線で歌っている。その点で「絵画よりも広いこの世の爆発は祈り(孤独と祈り)」と言い切るカネコアヤノの壮大さは動揺を誘う。

山元(CINRA.NET編集部):僕からひとつ質問させてください。『よすが』を繰り返し聴いていて、「誰も悪くない」って言葉がすごく気になって。1曲目の“抱擁”で<悲しい きっとこれは誰も悪くなくて>と歌って、最後の“追憶”にも<わたしなにもわるいことしてない>って歌詞があるのは、すごく印象的だなと。

カネコ:だって実際、誰も悪くないって思うしかないことばかりじゃないですか。

CINRAより

 

──今回のアルバムの中で、とりわけ「許す」とか「叱る」って言葉が強く響いてきたんですよ。「春の夜へ」の時々叱って君がっていう表現は特に素晴らしい。そこに傷つく傷つかないはどうでもいいっていう覚悟を感じられました。

中略

──叱るっていうのは、見守っていてほしいっていう感覚ですよね。

そうですね、怖いんですよね。感性が人のためになっていくというか。嫌なんですよ、他人なので。身近な人のための感性だったらいいけど。自分が嫌われないようにするための感性っていうのは不要なんですよ。それはわかってるしやらないようにしてたんだけど、ならざるを得なかった時もあったのかなあ。

OTOTOYより

もっと人間らしくいたい。人間の機微を大事にしたい。感性を自分のために使いたい。恐ろしいほどに実直で誤解を恐れない姿勢は、その歌声、オーガニックなサウンド、そして歌詞全てから感じ取ることができる。

カネコアヤノの音楽は”救い”であり”祈り”だった。

 

まとめ

なんとか書き上げた!と毎年悲鳴をあげながら(時にPCがフリーズし下書きが消えてしまって癇癪を起しながら)ベストアルバムを制作している気がする。特に今年はしっかりとレビューを書くために時間をじっくりとった。音楽ブログやっておきながらこんなこというのは身も蓋もないが、私はレビューが苦手である。だからいつもそこを避けた記事ばかり投稿しているのだが、年に一度、この企画くらいはしっかりと逃げずに書ききりたい。そういう思いでうーんうーんと頭を抱えながら書き続けている。ベスト10には10組中9組がソロアーティストと、今回は偏りが大きかったのが今年の大きな特徴か。いずれにせよランキングをつけるのすら諦めたいくらいに素晴らしい作品が勢ぞろいしたなと圧巻の気持ちで眺めている。ぜひ「今年全然新曲聴いてないな」と思う人はここから手を伸ばして観てほしい。では素晴らしい年末をお過ごし下さい。

今年もお付き合いいただきありがとうございました。

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