「透明なのか黒なのか」を聴いて、脳が炸裂する音を確かに聴いた。スパーンと弾け飛ぶような力強さとサイケデリックさ、そしてコメディさ。大真面目なのかおふざけなのか、それらが入り混じり判断がつかない。同時に視聴した「ランドリーで漂白を」で確信した。このバンドは別格だと。異次元の世界に住んでいる。

その衝撃以来、ずっと赤い公園を応援し続けてきた。当時洋楽にぞっこんだった私は、日本のロックバンドをすきになれない悩みを抱えていた。そんなかた彗星のごとく私の前に現れた4人組バンド。ボーカルの佐藤千明、ベースの藤本ひかり、ドラムの歌川菜穂、そしてギターの津野米咲。津野はバンドの頭脳であり、作詞作曲を行う優れたコンポーサーだった。キャッチーだけにおさまらない、音楽通を唸らせる秀逸なアレンジとコーラスワークが持ち味の稀代のメロディーメーカーだった。

楽曲をリリースするたびにスケールアップしていく彼女たち。どんどん大きな舞台で。どんどん多くの客の前で。

2014年のオトダマで観たのが最初。この感想が全て。アルバムを聴いていて知っていたつもりだったけど、ライブを観てまた度肝を抜かされた。規格外のセンスとオーラ。で、楽しそう。4人のばっちりそろったライブがたまらなく好きだった。

赤い公園とかいう平成のバケモノ」というタイトルで記事も書いた。そして人生初の一人ライブ、ライブハウスデビューをしたのも赤い公園だった。京都磔磔。狭くて前もロクに見えない古びたライブハウスで彼女たちの音楽を浴びて、言い表せる感情はひとつもなかった。かっこいい。こんなバンド待ってた。としか言えない。

僕にとっての救世主的存在の赤い公園の単独。高一の時にハマったラッド以来、どうしてもハマるバンドが出て来ずここまでズルズルきてしまった。きっともう大好きなバンドなんか出てこないんだ。そう思っていた矢先、彼女たちに一発ビンタをかまされた。っていう彼女たちの魅力はさっきの記事に書いてるしこれから書く。実はライブハウスデビューなんですよ。はい。一番小さくてなんばHatchでしたから。どんな感じでいればいいのかわからず。とりあえず会場に開場1分前到着で参上!イエーァ!

赤い公園のライブにいってきた

佐藤の歌声、歌川の小粋なドラムフレーズ、藤本の跳ねるベース、津野の歪んだカッティング。王道からは少し外れた展開もあれば、ここぞというときにはど真ん中ストレートのキングオブポップを体現するような楽曲を作る。まさに変幻自在、器用なのに貧乏じゃない、豊潤なバンドだ。

楽曲を制作する津野の才能は音楽業界が放っておくはずもなく。亀田誠治や蔦谷好位置といった一流プロデューサーとタッグを組んだり、いち早くロックとヒップホップを融合させ、KREVAを客演として迎えたりとバンドとしての成長はもちろん、SMAPやモーニング娘。の楽曲提供などソングライターとしての才覚も発揮。とにかく才能の一言で全てをねじ伏せていったのが津野という人間だ(もちろん本人の努力なしに達成しえないことは言うまでもない)。

佐藤が脱退の後、アイドルネッサンスに所属していた石野理子を新ボーカルに抜擢、その着眼点と大胆不敵さ、柔軟さ、そしてスタイルの革新性は全てが真新しかった。2018年末のCOUNTDOWN JAPAN18/19でのライブはまさに新体制ほやほやのライブで、初々しさと瑞々しさが印象的だった。まだまだフロントマンとしての立ち振る舞いに不安があった石野を三人がリズム隊として支える構図。こんなにもたくましいバンドなのかと改めて感じた。

今年リリースされた新体制一発目の待望のフルアルバム「THE PARK」。初めはあまり最高の評価をしなかった。それはすこしバラエティに富み過ぎて、どっちつかずになった印象があったという観点だったのだが、何度も聴いているうちにその評価は覆っていく。「夜の公園」のような赤い公園らしい見事なメロ運び、「ジャンキー」では石野の魅力が200%引き出されていて、このアルバムやべえなと気付き始める。やっぱりこいつはただもんじゃない、と何百回と繰り返し感じてきたことを今年も無事に感じることができた。

津野は私と同年代だ。ともに91年生まれ。しかも私は10月3日、津野は10月2日。私は大阪だし彼女は東京だし接点なんかもちろんないし、ただの一方的なファンなのだが、でもやはり親近感はある。というかそれが全てなくらいに彼女に対して特別な思い入れがあった。彼女の成功は自分事のようにうれしかった。5月に行われているVIVA LA ROCK FESTIVALでVIVA LA J-ROCK ANTHEMSというバンドを結成し、その中に津野が選ばれ、亀田誠治、ピエール中野、加藤隆史と共に毎年豪華な顔ぶれで名曲を演奏していた。あまりテレビ露出の多くないバンドだったから、この企画の度に少しテレビに出て、いつも嬉しかった。と同時に、すごい人になったんだなと勝手に喜んでいた。別にアマチュア時代から知っていたとか売れない時代にライブハウスで観たとかそんなんじゃないけど、本当に純粋にほぼ同じ日に生まれたという理由だけで肩入れをしていた。音楽の評価とは切り離して。

今年はライブが無くなったけど、またライブに行きたいと心底思っていた。石野の成長した姿が楽しみだった。新アルバムをどう表現するのか、過去作をどう自分のものにしているのか。赤い公園には課題もたくさんあったし、そのぶん上がり調子だと信じていた。

ふと昼休みにツイッターをみると何やら不穏な空気。名前こそ上がらないけどなにやら悲しい出来事のようなざわめき。トレンドにもまだ載っていない。他のいくつかのツイートを眺めて次第に把握する。

あまりの突然の訃報に言葉を失った。文字通り失った。同時に涙があふれ出た。訳が分からない。こんなことってありえるのかと目を疑った。

自分にとってここまで愛着のある人を失ったのは人生で初めてだ。こんな喪失感は言葉が思いつかない。ただ茫然としている。まだ半日と経っていない中、書くことだけが自分のとりえだから、Twitterなんかじゃなくきちんと言葉にしようと涙をこらえて考えている。今さっきやっと一曲聴けた。やっぱり辛すぎてワンコーラスでやめてしまったけど、十分すぎるほど名曲だった。

私にもどうにも辛すぎて思いつめたことがあった。でもそんな勇気がなくて、その勇気すらない自分に腹立たしく思って情けなくなって余計に落ち込んでふさぎ込んでしまった。でも今思うのは、そんな勇気無くていいから生きていてほしかった。責めるわけでもないし、他人の苦悩なんて親友でもわかりえないことなんてザラなのだからいちファンが知りえることも慮ることもできるはずもなく。ただ、今自分はそんな意気地なしでよかったと心から思っている。それだけ伝えたい。今年の9月の自殺者は1805人。去年より143人も多い。女性が大幅に増加している。この事実を私たちはもっと深刻に受け止めなければならない。それは私もそうだ。

どうかお元気で。メンバーのみなさん。私たち世間はきっと無責任に「メンバーの死を乗り越えて」とか言い始めると思う。そんな無責任で下劣な感動の筋道になんかに乗らなくていいので、自分たちのペースで、思うときに思うことを言っても言わなくてもいいから、ゆっくり休んでゆっくり立ち直ってほしい。そしてまたいつか私もあなたたちの音楽を聴けるように前を向く努力をします。

すばらしい音楽をありがとうございました。これからも赤い公園の大ファンであり津野米咲のファンです。

私の赤い公園プレイリストです。ご冥福をお祈りいたします。