戦争映画はかずあれど、これほど地味なミッションをひたすらに追う映画はこれくらいだろう。決して戦うためではなく、作戦中止を伝えるために、要するに多くの命を救うために(もっと言えばブレイクの兄を救うために)命を懸けて伝令をするのだ。
「007 スペクター」「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」などで知られる名匠サム・メンデスが、第1次世界大戦を舞台に描く戦争ドラマ。若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクの2人が、兄を含めた最前線にいる仲間1600人の命を救うべく、重要な命令を一刻も早く伝達するため、さまざまな危険が待ち受ける敵陣に身を投じて駆け抜けていく姿を、全編ワンカット撮影で描いた。1917年4月、フランスの西部戦線では防衛線を挟んでドイツ軍と連合国軍のにらみ合いが続き、消耗戦を繰り返していた。そんな中、若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクは、撤退したドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐の部隊に重要なメッセージを届ける任務を与えられる。戦場を駆け抜ける2人の英国兵をジョージ・マッケイ、ディーン・チャールズ=チャップマンという若手俳優が演じ、その周囲をベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロングらイギリスを代表する実力派が固めた。撮影は、「007 スペクター」でもメンデス監督とタッグを組んだ名手ロジャー・ディーキンス。第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む10部門でノミネートされ撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞した。
映画.comより
どうしても戦争映画は暗くなるしシリアスだし、苦手なジャンルと意識している人も少なくない。そこは無理に勧められないし否定もできないけれど、この映画はぜひそんな人にも見てもらいたい。「戦争の悲惨さ」とか「命を懸けて国を救うヒロイック性」とか、そういったテーマではなく、もっと個人にフォーカスした、2人の人生ドラマのようでもある。
そしてやはり映像のすごさも体験してほしい。全編ワンカット(正確にいえば全てがリアルタイムで進むシームレスな作品)ももちろん、空間の使い方がとてもかっこいい。曇天の中進む二人の足元にはぬかるんだ泥と動物の死体。川を渡り、有刺鉄線をくぐり、息をのみ思わず我々も周りに視線を配らせながら、慎重に進む。これほどの没入感のある映画は、例えば人の目線で描き続けたプライベートライアンのような、あたらしい戦争映画体験だった。
じっくりと大きなスクリーンで見るのがベストだが、残念ながら劇場公開は終わっているので、大画面のテレビで堪能してほしい。