なにかと話題の映画、ようやくみてきた。

世界中で愛され続けるアメリカのファッションドール「バービー」を、マーゴット・ロビー&ライアン・ゴズリングの共演で実写映画化。さまざまなバービーたちが暮らす完璧な世界「バービーランド」から人間の世界にやってきたひとりのバービーが、世界の真実に直面しながらも大切なことは何かを見つけていく姿を描く。ピンクに彩られた夢のような世界「バービーランド」。そこに暮らす住民は、皆が「バービー」であり、皆が「ケン」と呼ばれている。そんなバービーランドで、オシャレ好きなバービーは、ピュアなボーイフレンドのケンとともに、完璧でハッピーな毎日を過ごしていた。ところがある日、彼女の身体に異変が起こる。困った彼女は世界の秘密を知る変わり者のバービーに導かれ、ケンとともに人間の世界へと旅に出る。しかしロサンゼルスにたどり着いたバービーとケンは人間たちから好奇の目を向けられ、思わぬトラブルに見舞われてしまう。「レディ・バード」「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」のグレタ・ガーウィグが監督を務め、「マリッジ・ストーリー」のノア・バームバックとガーウィグ監督が共同で脚本を手がける。

映画.comより

まずグレタ・ガーウィグの作品は数本であるが見たこともあるしそれはどれも印象的で、常に女性のあらゆる視点の映画を力強く描いてきた人だ。そして共同脚本のノアバームバックもまた、上の解説にある通り、「マリッジストーリー」や「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」を手掛け、グレタとは「フランシス・ハ」で監督を務め、今は二人に子供もいる。

この映画がその二人によって書かれていること、そしてマーゴッドロビーが主演かつ制作に携わるという時点でこの映画がどのようなものになるかはある程度想像がつく。まさかこの面々を見て(さらにあえてバービーという功罪様々をはらむ女性をかたどった人形を題材にしたこと)フェミニズムについて、あるいは女性の話であるということに気づかないのであれば、しかもそれがものづくりをする人だというのなら、もう何にも知らない、何も見ていないと言わざるを得ないだろう。

まずはこの映画の語るべき視点は、バービーを中心に見る視点と、ケンを逆説的に観る視点がある。バービーは本筋を追えば全く無理なく(むしろすべてが説明的で少し説教臭いくらいに)言葉で語られ、女性が誰かに許されたり認められたり抑圧されたりすることへの開放を促している。一方でバービーランドにおけるケンは現実社会の女性のような扱いを受けていることが裏返って映っている。ビーチのケン、バービーの彼氏のケン、それは誰かのための存在であり自分自身が何者であるかを終盤で見失うのも示唆的だ。一方で現実社会はケンにとってはバービーランドであり、男性であること自体が尊敬されるものであるという認識に陥ってしまう。そこは結構ユーモラスに描いていて面白いところなのだが、面白さの裏にメッセージがあるというのがバービーという映画の見どころだ。

また、マーゴッドロビーそっくりのバービーを演じたエマ・マッキー、ケン役のンクーティ・ガトワ、マテル社の平社員役のコナー・スウィンデルズが出演しているが、彼らはnetflixのドラマ「セックスエデュケーション」に出演した3人で、それを発見した時はおもわず声が出た。バービーで邂逅しているところもとてもうれしい。エママッキーとンクーティ・ガトワが最後に急接近するシーンは「ああ!違う!君たちじゃない!!」と思わず関係のないところで興奮も。

フェミニズムの視点、家父長制の視点、そしてホモソーシャルの視点。CEOが権力は一切譲らず「ママと思ってくれていい」などとぬかし、理解があるふりをしながら(ふりというよりは本人は本気でこれでいいと思っている)、まったく理解ができていないのは、バービーを箱詰めにして拘束しようとしたりヘコヘコする幹部で周りを固めたり事なかれ主義であったりと挙げればきりがないが、これで思い出すのは、某漫画家の発言だろう。もちろん当該発言はまったく目を開けながら爆睡でもしていたか上映中気絶でもしていたと願ってやまないが、その後に「でも私は女性に理解あるよ、女性の管理職や政治家が増えることにも賛成だし女系天皇も賛成だ」みたいなことを言っていたが、それは劇中のウィルフェレル演じるCEOのムーヴそのままで、まさか映画を見てあのシーンをみて全く同じことをできるだなんて厚顔無恥とはそういうのを超えて恐怖でしかない。

この映画を観たら読んでおきたい記事をいくつか貼っておく。

『バービー』をより楽しむために知っておきたいポイントを徹底解説──生みの親ルース・ハンドラーやイースターエッグetc.

【シーン解説】『バービー』で“ネタ”にされているルース・ハンドラーの「事件」って?

映画『バービー』レビュー──作品と“バーベンハイマー”対応に見る「創造主の地位の簒奪」

音楽もまた最高で、一本の映画に様々なアーティストが楽曲を提供している。Lizzo、Dua Lipa、Nicki Minaj、Charlie XCX、Sam Smith、Haim、そしてBillie Eilishと、アーテイストもやはりこの映画のコンセプトによりそった人たちだ。海外ではフェミニズムやジェンダーイクォリティについて自覚的で発言してきた人たちばかりだ。ボディポジティブ、クィアネス、ジェンダーギャップなど様々な問題提起はこの映画に内包され、そしてアーティスト自身のアティチュードに還元されている。