家族愛とか人の死とかいじめとか、人間の汚くて無様で愛情深いものってたくさんあって、それを映画の題材にする人は多い。というか鉄板である。

この「湯を沸かすほどの熱い愛」はそれらをすべて散りばめた映画だった。杉咲花演じる娘の安澄は学校でいじめられ、母親の双葉(宮沢りえ)は末期がんと言われ余命幾ばくもない。旦那の一浩(オダギリジョー)はでていってフラフラして違う女がいてその子供、鮎子(伊東蒼)を連れて帰ってくる。途中で出会うヒッチハイクの青年にも抱える悩みがあり、安澄の実の母親も登場。そしていろいろな葛藤がそれぞれに抱え、それに立ち向かう覚悟を描いている。

非常によくできた映画で、中盤の安澄が手話のできる理由を明らかにしたときは思わず涙した。しかしそこがピークだったのが少し残念。後半にかけとにく追いかける展開が多い。それが狙いだったとしか思えないのだが、私にはすこし入り込めなかった原因になった。悪い作品ではないんだけど、双葉の死と安澄のいじめと死を乗り越える強さと実の母親に出会う覚悟と、それぐらいでおなかいっぱいだった。そんなヘビーな問題を提示した後によくわからん探偵の鶴瓶の息子がでてきても泣けない。あまりにライトすぎる。だいたい笑ったらまんま鶴瓶だから一気に現実世界に引き戻される。かれにあの眼鏡をかけさせたのは確信犯でしかない。
でもこの映画の素晴らしくて涙してしまうのは、本当は弱いのに、それでも絶対に立ち向かうその絶対的な覚悟にある。安澄が学校でいじめられて行きたくないと言っても「今逃げたら一生行けなくなる!」と頑なに登校させようとしたり、実の母親が本当はいることを伝え、その人に合わせるシーンもほぼ虐待に近いほど。でもそこに非情さを感じないのは母親のこれでもかというほどの熱い愛があったから。そして最後は抱きしめてくれる。だから泣ける。
テンプレ的な登場人物ばかりなんだけど陳腐にならないのは各々の演技力と演出によるもの。とくに杉咲花は見事な演技をしていた。宮沢りえは元々大の苦手で彼女の映画は積極的に避けているのだが、今作は彼女独特の臭さが薄れていて世界観に入り込むことができた。

ラストはきっとしてやったりだったろうなと思う。でもあのラストのシナリオを考えたときはニヤッとしてのでは。私も見事にニヤリとしてしまった。

主題歌はきのこ帝国。大好きなバンドの一つ。2016年には単独にも足運んだくらい。最近は行けてないけど。ぜひフェスの雰囲気でも見てみたい。
彼女たちのノイジーでスモーキーなシューゲイズミュージックとボーカル佐藤の透き通った声が重なって非常に見事な唯一無二の音楽性を体現している。そしてこの映画の主題歌になって気付いたのは、彼女たちの音楽って寂しくて切なくて静かなのにでも多幸感がある。とくに「愛のゆくえ」に関しては。アルバムも前作のキャッチーさから一点、美的に感覚を研ぎ澄ませたものになっているので聴いてほしい。

愛のゆくえ

湯を沸かすほどの熱い愛