1968年のシカゴ騒動にまつわる裁判を描いた作品。エディレッドメインやサシャバロンコーエンなど手堅く豪華なキャストでスピーディに繰り広げられるコートルームムービー。

「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー脚色賞を受賞し、「マネーボール」や自身の監督作「モリーズ・ゲーム」でも同賞にノミネートされたアーロン・ソーキンがメガホンをとったNetflixオリジナル映画で、ベトナム戦争の抗議運動から逮捕・起訴された7人の男の裁判の行方を描いた実録ドラマ。キャストには、「ファンタスティック・ビースト」シリーズのエディ・レッドメインをはじめ、ジョセフ・ゴードン=レビット、サシャ・バロン・コーエン、マイケル・キートン、マーク・ライランスら豪華俳優陣が集結した。1968年、シカゴで開かれた民主党全国大会の会場近くに、ベトナム戦争に反対する市民や活動家たちが抗議デモのために集まった。当初は平和的に実施されるはずだったデモは徐々に激化し、警察との間で激しい衝突が起こる。デモの首謀者とされたアビー・ホフマン、トム・ヘイデンら7人の男(シカゴ・セブン)は、暴動をあおった罪で起訴され、裁判にかけられる。その裁判は陪審員の買収や盗聴などが相次ぎ、後に歴史に悪名を残す裁判となるが、男たちは信念を曲げずに立ち向かっていく。Netflixで2020年10月16日から配信。一部の映画館で10月9日から劇場公開。

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本来は劇場公開を予定していたが、ご存じの通りの情勢でNetflixが買い付けて配信に至ったという作品。とにかくおもしろい。これは2021年ベストムービーが早くも誕生した。

これは実話をもとにしているので、ためになるし、事実だからおもしろいし(一部脚色はあるが)、アメリカの歴史をしるよいきっかけになる。あーだこーだいう前に、まず絶対に見ておくべき作品。これを観ずして映画好きは名乗れない!と言いたくなるほどに超重要作品だと思う。

正直しんどい映画ではある。まず冒頭いきなりシカゴ7がばあっと登場して名前がバンバン明記されるので、字幕と同時並行で追うのは大変で名前は憶えづらい。でも大丈夫。この7人、ちゃんと中盤から憶えられるようになる。それまで気楽に見てればいい。

もう一つの意味のしんどさは、やはり裁判の不公正さと検察の強引さだろう。ずっと苦しい。基本的な裁判の争点は、シカゴ7は彼らとともに集まった反戦グループを扇動したかどうか。そ警察との暴動はどちらが先に攻撃したのか。その争点をめぐって、潜入捜査官の証言や録音テープなど、ありとあらゆる手段で有罪に追い込もうとする。一方でブラックパンサー党を立ち上げたボビーシールは反論すら許されず、不当に猿ぐつわをはめられてしまう(実際は3日間もされた状態だったそう)。殺人の冤罪に駆けられたボビーシールとシカゴ7。マークライランス演じるクンスラーはシカゴ7の代理人として奮闘する。時に声を荒げ、不条理さに怒りをぶつける。歪んだ裁判システムと黒人差別。そして反戦。力なき市民が国と戦うとき、いかほどの覚悟を持ち、どれだけのハードルがあるのか、まざまざとみせつけられる。

日本でも先日某オリンピック会長の差別的な発言によりバックラッシュが過熱し、辞任にまで至った。それの是非と妥当性はともかく、この騒動に付きまとう「逆差別」「いじめ」といった言葉には強く疑問を抱く。

EXITの兼近は以下のようにコメントしている。

何よりも今回で気持ち悪ぃなって思うのが、自分が被害の及ばない所から石をひたすらぶつけて『降ろしてやったぞ』と。目的が引き下ろすというか『なんか偉そうなジジイを俺が降ろしてやったぜ』みたいな感じがすごい伝わってくる。ほんとに見失っちゃってんなっていう。ただただ攻撃することが目的になっちゃってる。

EXIT兼近 森会長辞任に「『偉そうなジジイ降ろしてやったぜ』って感じがして気持ち悪ぃ」

また、小藪一豊はこう語る。

変な発言したから『おい責任とれ! 辞めろ!』っていう空気にするなら、変な切り取り方して、後任決まらへんような状態にした報道の仕方をした人も、辞任とかせなあかんのちゃうかなと

小籔千豊 森喜朗会長辞任に「変な切り取り方した報道の人も辞任せなあかん」

もう一人、おぎやはぎの小木はこういっていた。

小木は10日放送のフジテレビ系「バイキングMORE」で、東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の発言問題に関する話題から、「男女平等とか言ってますけど、女性の方が今はもう上だから、怖いんですよね、女性のことをちょっと言ったら……女性ってピラニアじゃないですか。女性の池にちょっとでも足が入ったら、あっという間に骨しか残らない」などと私見を述べ、共演者たちからツッコミを受けていた。11日深夜放送のラジオ番組「おぎやはぎのメガネびいき」で、「すごかったよ、ネット上のピラニアがブワーッて来て。本当に骨だけになるくらいの」と、ネット上でバッシングを受けたことに言及。「こっちは侮辱してるわけじゃないのよ、ただ、『ピラニアだ』って言っただけなのに。逆差別じゃん、これ。男が弱い立場になっちゃってさ、男は女に『だめな男だ』とか散々言われても絶対に言い返せない」とし、「絶対に勝てないから尊敬の念で言ってるだけで。俺をいじめないで。男たちを」と呼びかけた。

小木博明「女性はピラニア」炎上発言で私見

こうやって、騒動を冷笑的に、あるいは冷静に、客観的に見ることによって、自分がいかに冷静でフェアで平等であるかを誇示できてしまう。しかしそれは、時と場合によっては適切ではない。

特に小木の「逆差別」は全くもってとんちんかんである。総理大臣も務めたオリンピックの会長である男性が女性を揶揄するのと、立場的に下にあり、数もマイノリティである女性が男性を揶揄するのは、同じではない。それが良いことかどうかの判断は各々がすればいいが、それを簡単に「逆差別」というのは浅学甚だしいと思うのだ。

おそらくそういう人は黒人差別された黒人がデモを起こし白人になんらかの攻撃をしたときに同じように「差別だ」と言ってきただろうし、ブラックライヴズマターと言えばホワイトライヴズマターなんて言い返してきたのだろう。はっきり言って歴史と社会問題を知らなさすぎるのだ。ジェンダーの本もフェミニズムの本も差別の本も黒人の歴史の本も一つも読まず、たった自分のわずかな人生経験だけで全ての社会問題の是非を判断しようなんて、どう考えてもおこがましいし、適切な意見を述べられているとは思えない。小木が、勉強していないと断定することはできないが、その疑問は残る。あなた、勉強したことありますか?知らない人間は批判するな、という自由を奪う話ではない。単に、安易に否定の否定をすると大恥かきますよ、ということ。

正義の暴走、というとすごく社会問題を斜めに切ったような、スマートな自分に酔えるが、そうやっていつまでも正しいことをする人を指さして笑っていたら、あなた自身が権力側、パワーを持った側の人間になってしまうか、あるいはそのポジションに自身がいることに気付けなくなってしまう。あなたはもうすでに強いのです。社会的に強い人間が弱者のふりをしてはいけないし、細心の注意を図るべきだ。小木がメディアを通じて一方的に女性を「ピラニア」なんて表現してバックラッシュにあって「逆差別」って、さすがに人としてあまりにしょぼいなと、私は思っている。

逆差別って、歴史もしらずに簡単にいっちゃあいけないんだよ。あなたのための言葉じゃないんだよ。