チャットモンチーの解散はまぎれもなく私の心を大きく揺らした。ネガティブに捉えるものではなく、最後の最後まで彼女たちらしい攻めた姿勢が大好きだ。本当に大好きだ。

幸福なことに私は今まで好きなアーティストが解散したことはなかった。エルレだって私がどっぷりハマる前に散り散りになったので被害はまだ浅いし。チャットモンチーほど中学生から聴いていたアーティストがいなくなるのはやはり寂しい。
といっても、ライブにいったこともないし、CDを買ったこともない。いつもレンタルで済ましている私が偉そうに「寂しいよ」なんて言うと「解散してから惜しむくらいならCD勝手応援しろや!都合よすぎ!」と言われかねないが、まさにその通りだ。許してくれ(彼女たちの解散がセールス的な問題を主にしていないのは理解している)。ただ、思い入れがあったっていいじゃないか。中三のとき、机に彫られた「薄い紙で指を切って赤い赤い血がにじむ。これっぽっちの刃で痛い痛い指の先」の歌詞に妙に気になって調べて彼女たちにたどり着いて以来、まずガールズバンドの入り口として大きな役目をはたしてきた。

思い出話はこれくらいにして。じゃあ、彼女たちは何をもたらして何が他と違い我々に、シーンに影響を与えたのだろうか。ガールズバンドと言えばさかのぼればいくつか代表例が挙げられる。プリンセスプリンセスやSHOW-YA、JITTERIN’JINNなどが活躍した90年代。彼女たちより少し早く登場したGO!GO!7188も一般的な知名度は低いが重要度は高いバンドだろう。しかしチャットモンチーはそれまでのガールズバンドとは大きく異なった。それは「男らしさ」をウリにしない、自然体そのものの素朴な女の子たちだったのだ。それまで、女がロックをするとなると、過剰な男ロック社会へのすり寄りが必要だった。SHOW-YAは分かりやすい例だろう。またプリンセスプリンセスは一見女の子っぽさを感じるが、衣装は革ジャンであったりパンツルックだったり、なによりロックンロールを大切にしたバンドだった。それこそがロックを消費する人たちに受け入れられる条件だった。おそらく当時チャットモンチーのようなバンドがいても「なんだこいつらロックを感じねえな革ジャンぐらい着ろよ、歌詞もヘロヘロじゃねえか」なんて言われて見向きもされなかったかもしれない。
ところが彼女たちはそんな日本のガールズロックバンド観を変えてしまった。「ソラニン」が大ヒットしたのも、ギタ女ブームがあるのも、私は彼女たちの功績だと思っている。素朴なまま、時に湿っぽく、時に背伸びのしないロックをやってくれる。
チャットモンチー節ともとれる独特なドラムのリズムと難しくないからこそセンスが爆発するギター。その両者をしっかり両腕でつかみ軸として凛と立ち続けるベース。私は彼女たちこそ日本が誇るべきロックンロールバンドのひとつだと思っている。
二人組となってからも、歩みを止めることなく”変身”し続けたチャットモンチー。大学の恩師が「和製ホワイトストライプス」と言っていたのを思い出す。私は二人組以降のチャットモンチーを見てきたが、世間は確実に彼女たちから離れていった。それくらい三人組が完成されていたともいえるが。どうしてだろう、こんなに面白いことしているのに。閉鎖的でテンプレート的なロックしかない日本においてベースレスのバンド編成なんて面白さしかないチャレンジをなんでみんな聴かないのだろう。それが常に疑問だった。彼女たちは明らかに思い出のバンドになってしまっていた。懐メロバンドはミュージシャンにとって最も不名誉な称号だと思う。

2010年ごろから始まる四つ打ちバンドブーム、2014年ごろから起きる横ノリシティポップブームにも乗れない(乗らない)チャットモンチーは一歩下がっていた。でも決して需要がなかったわけではない。SHISHAMOが今紅白出場にまで上りつめているのだから、やはりガールズロックは一定のパイを残している。しかしチャットモンチーは一か所にとどまるようなバンドではなかった。また00年代後半のような、デビュー初期のようなギターロックではなく、世界で今何が起きているのかをしっかり見極めたうえでそれを汲んだロックに挑戦した。あの場所には二度と戻らなかった。SHISHAMOにその座を譲ったのだ(細かくいえばSHISHAMOとチャットは別物だと考えているがここでは省く)。

私は基本的に「ガールズロック」なんて言葉は使わない。今更だが。だってそれは音楽ジャンルの話ではなく、ただの性別の話だから。「ボーイズロック」という言葉がないのに「ガールズロック」を易々と使うことに抵抗があるからだ。

いつだって自然体。でも音楽はどこまでも最先端で実験的。センスだけで生き残ろうとせず新たな可能性を模索し続けた12年だったと思う。私は寂しさはあっても悲しくはない。むしろまた新しいことをしてくれるのかと期待する。みんながついてこれなくてもいい。テンプレート的なロックバンドしか愛せない国になってしまったとしても彼女たちはそれに迎合しないで挑戦してほしい。私は彼女たちを絶対に否定しないし応援し続けるだろう。

 

最後にマイベストチャットモンチーを5曲紹介して終わりにしようと思う。
順不同

真夜中遊園地

CAT WALK

「ここだけの話」

 

Magical Fiction

 

さよならGood bye