水川あさみがひたすら濱田岳に罵声を浴びせる映画。それが「喜劇　愛妻物語」だ。

この映画、愛妻物語と銘打っているのにもはや妻を愛しているとは形容できない下劣で見え透いた下心のみで関係性は崩壊していると言っても過言ではない。

「百円の恋」の脚本家・足立紳が2016年に発表した自伝的小説「乳房に蚊」を、自ら脚本・監督を務めて映画化。売れない脚本家・豪太は、妻チカや娘アキと3人で暮らしている。倦怠期でセックスレスに悩む豪太はチカの機嫌を取ろうとするが、チカはろくな稼ぎのない夫に冷たい。そんなある日、豪太のもとに「ものすごい速さでうどんを打つ女子高生」の物語を脚本にするという話が舞い込む。豪太はこの企画を実現させるため、そしてあわよくば夫婦仲を取り戻すため、チカを説得して家族で香川県へ取材旅行に行くことに。しかし、取材対象の女子高生はすでに映画化が決まっていることが判明。出発早々、旅の目的を失ってしまう3人だったが……。夫・豪太を「決算！忠臣蔵」の濱田岳、妻・チカを「後妻業の女」の水川あさみ、娘・アキを「駅までの道をおしえて」の新津ちせがそれぞれ演じる。19年・第32回東京国際映画祭のコンペティション部門で最優秀脚本賞を受賞。

映画.comより

水川あさみがあまりに暴言を吐くので見ていてしんどいのだが、それを「喜劇」と押し通す姿勢、BGMのコメディ感、濱田岳のとぼけた表情などで救われている感じもある。「百円の恋」の脚本家である足立紳の自伝「乳房に蚊」を自ら映画化したそうだが、自分からみてこんなにくそったれな男なのかと自己分析の悲しさがおもしろい（どこまでデフォルメしたものかはわからないが、すくなくとも仕事がなくてひたすら妻に怒鳴られていたのは大方事実なのだろう）。

ただ、これを「愛のある夫婦だ」とか「奥深い愛だ」のような短絡的なまとめ方は個人的にはできないなあと思う。この話自体が”一応”事実に基づいていて、元ネタの人物（作者であり監督ではあるが）がいるので否定もしづらいが、これはこの夫婦の場合に成立した話であり（成立したかどうかは怪しいが）、一般論としては受け入れがたい。コメディなので深く考える必要もないので、なんだか哀れな、悲しい、どこかで自分事のようにも感じながら鑑賞するのが素直に楽しむ秘訣かもしれない。

ちなみにこれ以降水川あさみを見る度ぎょっとするので、ちょっと車のCMも心中穏やかではない。