アイドル卒業後

アイドルがアイドルを辞めたとき、その進路は注目される。女優になる人、モデルになる人、実業家になる人、ソロデビューする人、そして引退する人。
それぞれに様々な思いと決意があり、新しい場所を選ぶ。もちろんそんなに甘くもなくて、鳴かず飛ばずになる人もいれば、才能を発揮して大きな成功を収める人もいる。

バラエティタレントになる

そのなかで一つの選択肢がバラエティタレントになることだ。自分が清楚で美人キャラで売られていないことを自覚しているアイドルや仕切りやトーク力に自信があるアイドルは、話術やリアクションでバラエティ番組での出演を増やし、テレビの人として残ろうとする。
元AKB48の高橋みなみや、もっと前で言えばモーニング娘。の矢口真里など、アイドルからタレントへの転身は多い。

彼女たちは「なんでもやります」「がんばります」と言って鼻フックもパンツの食い込みも落とし穴も果敢に挑戦する。そしてお決まりのように、その後に「でもこれで売れるからうれしい!」みたいなオフレコも必ずセットで放送する。一体なぜ彼女たちの意気込みを視聴者が耳を傾けなければならないのかわからないが、とりあえず「落とし穴おちたけど嬉しー!」という本来の趣旨には合わないコメントも嬉しそうにプロデューサーは流す。時には、売れるための極意、みたいな企画まで放送する。

西野未姫という人物

最近よく見かける西野未姫もその一人。
元アイドルが体を張って頑張る、みたいなノリが芸能の世界ではずっと流行っている。司会を務める方々は、そういう子が大好きだからだ。「可愛い女の子なのに」はどれだけブサイク女芸人ががんばっても勝ち取ることのできない称号である。
朝日奈央がライバルになるのだろうか。朝日奈央自身もかなり体を張っている。そして誠実で裏方に丁寧な対応らしい。だから起用されるらしい。らしい、ばかりなのは見たことがないからだが、見たことなくても大体想像がつく。
しかし西野未姫は少しほかとは異なるスタンスで活動している。もちろん体も張るしリアクションも取るが、それ以上に、常にケンカ腰だ。要するに炎上スタイルなのだ。一番タレントが怖くてできない、「炎上して知名度を獲得」を地で行く。

特にファンに対する当たりがきついことで有名だ。

5月6日に放送された『陸海空 こんなところでヤバいバル』(テレビ朝日系)で、モデルやアイドル10人が10日間サバイバル生活を送るというコーナーの中に出演した西野は、一日の終わりとなる就寝前のプライベートトークで、共演者たちとアイドルの話や、ファンの話へと発展。その際に、モデルの遠山茜子が「オタクってお金持ちだよね」という発言をした際、それに対して西野が、「でも、だから見た目ああなっちゃってるんだよね。AKBのファン、皆歯ないよ」「歯、溶けてるの。この世にこんなに歯がヤバい人って、こんなにもいるってぐらいヤバいの。溶けてるの。この(CDの)枚数のお金で歯治してって思うぐらい、マジでびっくりするぐらい歯溶けてるの」「女(ファン)も歯溶けてるから、マジ」と、自身が以前所属していたAKBのファンについて、歯が溶けてなくなっている人が多いという持論を展開した。

彼女は率先して自分を応援してくれたファンを売っていく。他に売るべきグループ内の仲間や同業者ではなく、財産を手放していく。まるで自分の鞄や時計を売りさばいた金で生きていくような、そんなすり減らし方をしている。

付き合っていると主張する西野は、さらに「夜の営み」についてもぶっちゃけ。「致しましたが、朝の6時には『仕事の準備がある』と帰される」と明かすと、フットボールアワー・後藤輝基は「その男、その後で寝てる。俺もやってたから」と自身を省みながらツッコみ。
営みが良くなかったのではと指摘されるも、「はじめてだったので、ウワッてなって、もう1回おかわりした」と赤裸々に告白し続けた西野。結局は「私にそういう扱いしたことを一生後悔しろ」とテレビで全てを告白することが元カレへの復讐だと明かした。

西野は”ぶっちゃけ””る

西野はファンをなるべく悲しませようとする。それが”ぶっちゃけ”になるからだ。この”ぶっちゃけ”は取り扱いが必要である。自分の私生活を”ぶっちゃけ”るのも、お互いに理解があり許諾された間柄での”ぶっちゃけ”はおもしろい。たとえテレビ上でケンカしていたとしても、それが度々繰り返されるなら基本的には信頼関係があっての事なのだろうと推察する。アメトーークやロンハーにおけるナダルなどがそれにあたるだろう(しかし彼の場合はなるべくその境界線がグレーなのがおもしろさを加速させているのは間違いない)。

しかし西野の”ぶっちゃけ”は、許可を得たわけでもなければ、相手に反論の機会も与えさせないものだ。テレビで一方的に言い放ってその後は無罪放免、どんなネットからの批判や落胆の声も彼女はするりとかわし、また別の番組で違うターゲットを”ぶっちゃけ”る。

なんと西野は「ゲロを吐くほど握手会が嫌いだった!」と本音をぶちまけたのだ。AKB48グループにとって握手会はファンと直接コミュニケーションを取ることができる大事なイベントとして位置づけられているが、その握手会で西野はアイドルにあるまじき“クズ対応”を取っていたという。今回は、当時のクズ対応を教壇で実演。目の前で繰り広げられる“信じられない悪態”に、教室中から大ブーイングがわき起こる

握手会が実は嫌だった、はよくある手法だ。そうやってどんどん信頼を売りさばいていく。勝ち取ったプロデューサからの信頼と天秤にかけても彼女にとってはそれが一番大切なんだと確かめる。そしてそれがもっともおいしいものだと気づく。人が味を占めたときの、傍から見る人間の気持ちの悪さは当の本人には気付かない。


話は変わるが、出川哲郎が散々つまらない、スベッている、リアクションだけ、と罵られてきたのを、「こうやってイジれば面白くなる」と共演者が見つけたことから、出川が何をしゃべっても面白くしてもらえるようになった。そのおかげで出川は味を占める。自分の頭を指さし「おまえはバカか」と噛みつき、「ヤバイよヤバイよ」を繰り返す。それが世間にも求められていると知った出川は躊躇なくする。そしてあたかもそれが発言当初から面白いセリフだったかのような振る舞いをする。出川が苦手だなあと思うのはいつもそこだ。彼は自分で面白いことを言っていると心底思っているのが見ていてしんどい。

「私、気にしてませんから」の強気なスタンスはダレノガレ明美を彷彿とさせる。「それでもいいの、わかってるの、嫌われるのは。」と全部お見通しであることを呟きたくなるのはヒール役の運命か。「全力で嫌ってください」で全ての批判する人たちの上位に立つ。相当こすいことしてるな、と思う。強気な発言の裏側はとてもナイーブだ。
そう思うと、しくじり先生に出演したこともうなずける。「はいはい私反省してますよ」「しくじってますよ」と卑下し、あたかも客観視できたようにふるまい我々視聴者より一段下からへりくだったら最後、もういいでしょ、と傍若無人な振る舞いをする。「私分かってますから」で”ぶっちゃけ”が野放しにされるといずれ誰かを傷つける。




テレビ業界のたくらみ

西野はこのまま人を傷つけながら進む。そして時にそのノウハウを得意げに書籍化もするのだろう。リアクションの取り方も、カメラの抜かれ方も熟知して後輩に指導する姿もまた、テレビで放送されるのだろう。そうやって彼女をプロに仕立てることで炎上を”芸”にすり替える。これは技術です、と露骨にアピールする。その気持ちの悪さも、回避しなければうっかりテレビ業界のなれ合いに飲み込まれしまいそうになる。