起きても行けない

音楽は好きだけど、割と音源派で、あまり生の音楽は聴かない。どうしてもお金は有限だし、仕事上ライブにそう簡単に行けないというのもネックとなっている。「まだ見ぬ将来のスターをみつけるため」という名目で足繁くマイナーなバンドを見る人もいるが、いいかどうかも分からないライブにお金を払うのには気が引ける。
明日のスターは必ずこの中にいる。と断言してもいいくらいにこのMINAMI WHEELというサーキットイベントには多くのミュージシャンが出演している。今バンドシーンをにぎわせている売れっ子たちは大抵このイベントには参加している。詳しい内容や歴史は個人で調べていただくとして、とにかく毎年何かと話題になるイベントだ。

去年からその近くに住んでおきながら参加していなかったので、今年こそはと急きょ日曜日だけ参加することにした。
理由は土曜日が仕事で月曜日は予定があったからだ。そしてなにより羊文学が見たかったからだ。

とはいったものの日曜日は起きたら12時。あーまた寝すぎてしまった凡人の後悔をしながらテレビを見ていると14時。

おかしい…

どうしてそうなるのか納得がいかないまま、とりあえず着替える。着替えればなんとかなる。15時15分のTempalayを見ると昨日の夜誓ったはずなのに。気が付けば14時半。大丈夫。自転車で10分と掛からない。段取りは分からないがとりあえずチケット交換して会場まで向かってもまだ間に合う。(MINAMI WHEELは本部がBIG STEPという商業施設の中にあり、そこでパスと交換する。そのパスでBIG STEP周辺にある20か所以上のライブハウスで同時開催されているライブに好きに行けるというもの)

画像
(MINAMI WHEELのパスを貼るつもりでしたが紛失しました。)

ようやく身なりを整えたのだが、よくよく考えると一応ライブだ。ということは多くの人はロッキンジャパンフェスのようなディッキーズの格好なのか?となると俺の恰好浮かないか?と不安に駆られる。第一手ぶらでいいのか。革靴ではなくスニーカー?と考えを見ぐらせていたら15時。

ちがう…..

なんだこの怠惰さは。やる気が無さ過ぎる。結局まあこれでいいだろうと現状のまま自転車で向かう。到着するとアメ村は人でごった返していた。でも思ったよりもみんなカジュアルな恰好だった。よかった。安堵する。
気を取り直してChelmicoをみるためにSUNHALLへ。こんなところにライブハウスがあったとは。ニトリにはよく行くのだが知らなかった。やっぱりライブシーンには疎いんだなと再確認。場所すら知らないというね。

Chelmico

当ブログでも2016年に「Love is Over (Prod. Mikeneko Homeless)」が年間ランキングにて37位で紹介しているくらいには注目しているユニットだ。割とスキルをちゃんと磨いて、その界隈から評価されているという点ではHALCALIにも近しいものを感じる。ただどうしても顔が。。きれいすぎる。どうみても若くてきれいな女性がラップに興味もってアンダーグランドな場所に出入りするようになると男はもうこぞってそこに集中してチヤホヤしだす。たぶん彼女たちもそうやって相当いろんなパイプを繋いできただろう。でなきゃメジャーデビューまでいかない。要するに輝きすぎている。いるいる、ああいう長澤まさみみたいな感じでめちゃ音楽に造詣深くて聴いたこともない酒飲んで朝までクラブで踊るけど決して尻軽にならずに軽薄さは出さないクールでスマートな女性。うう。僻み魂が炸裂する。MCもやたら個人名を出して内輪な感じを崩さない。リラックスしたしゃべり方で度胸の強さも感じる。そういう現場にたまに混ぜてもらってオシャレ過ぎて敗北感だけを味わって家路についたことが幾度となくあったのでそのときの感情が湧き上がる。そしてああいうタイプの女はこんな私にも優しく接するのだ、どうせ。人を差別しないのだ。なんだ出来過ぎだろ。
と散々ひねくれたのでライブを楽しんだというよりは感情が渦巻いただけの30分だった。もちろん、曲もよかったし、ラップは生で聞くとスキルが結構素人目にも差が出やすいと思うのだが、そんなこともなく非常にクレバーな人たちで努力も欠かさないんだろうなと好印象。おじさんが多いのはやっぱり可愛いからか。後述するが、自分がおじさんになって若い女の子のライブに行くときは気を付けたいなあと思った。たとえ本気でそのアーティストの曲と才能に惚れて純粋に聴いていても周りからは「可愛いから観に来たど変態」に映ってしまいかねない、という危険性について改めて感じた。
敢えて一言いうなら、「BANANA」みたいな曲がもっと欲しい。Aメロでラップしてサビで歌謡テイストのゆったり歌うみたいな、そこら中に転がっている音楽はそこそこにしてほしい。日本って「最先端の音楽と、どこか懐かしい歌謡サウンドを織り交ぜた独自の音楽性」みたいな売り文句が多すぎる。歌謡サウンドってそんなに大事か?そりゃあの起伏の激しい独特なメロディは歌謡曲に多く見られ、いまでも日本人の多くが好むメロディであることは間違いないが、それに頼ってばかりの音楽シーンはそれはそれでつまらない。もっと攻めた楽曲が欲しい。Chelmicoならなおさら。アイドルじゃないんだから。

DATS

会場を移動し次に見たのはDATS。もうこのバンドも話題性十分で、当然入場制限が掛かっていた。
ちょっと下手くそな英語が逆に良いという、最近では他にHomecomingsぐらいしか見当たらないこのバンドのウリは、エレクトロなサウンドとロックのちょうどいい融合だ。MCなしで続くノリの良いサウンドは会場いっぱいに詰めかけた客を巻き込んで熱を上げていく。ただ少しノリが悪かったというか、みんなノーリアクションだったのがちょっとだけかわいそうではあった。かくいう私も体を揺らす程度で声を出したり手を挙げたりすることはなかったんだけれど。
途中でインストをはさみ、ギターとベースがドラムに近づきシンバルを鳴らすパフォーマンスも。なるべくかっこいい音楽を、というシンプルな姿勢が感じられたし、事実カッコよかった。未来が楽しみだしもう一皮むけたらアリーナクラスのバンドにもなれるだろうと勝手に評価してみる。何か音楽的にツカみがあればライブがもっと盛り上がったかも。音楽だけで圧倒させるにはもう少し雰囲気とボーカルの力が必要だと思った。例えばサカナクションなんかは歌が圧倒的にうまいかと言えばそうでもないけど、しっかり聴かせることができるし、客を黙らせる力がある。DATSにもそんな力を身につけてほしいなあと感じた。

羊文学

最後は羊文学。今年初頭に「マフラー」で彼らを知って以来すっかり虜である。きのこ帝国に少女性をさらに加えたような、温かみをどことなく感じるサウンドと世界観が大好きで、ファーストアルバム「若者たちへ」も購入してリピートしている。おそらく私の年間ベストアルバム、ベスト楽曲のどちらにもランクインしてくるだろう今年一番の発掘。今年の春に出たテレビの収録も録画していまだに何度も見ている。
発掘とは言ったけれど、その界隈では十分に話題になっていて、それほどマイナーでもない(と言うか私自身あまりマイナーなバンドを探すのが得意ではない。)ので、やっぱり会場は一杯。サウンドチェックを済ませた彼らは一度掃けてから時間になると再度静かに登場してくる。

彼らの音源を聞く限り、もっと荘厳としていて雰囲気と才能で人を寄せ付けないような、それこそさっき言ったきのこ帝国のようなオーラを出したバンドなのかと思いきや、長い髪をおろしたボーカル塩塚モエカは淡々と歌いながらも時折笑顔を見せその長い髪を振り乱してベースのゆりかの方へ近づきギターをかき鳴らす。どちらかというとまだまだかわいらしいガールズバンド(ドラムのフクダヒロアは男性である)に近い印象を覚えた。学生バンドの延長みたいな。これぞプロ、という感覚ではなく、才能のある子がギター持って綺麗な歌声を披露している、みたいな。イメージはどちらかというとリーガルリリーに似ていた。少女性の方が前面に出ていた。

ボーカルの塩塚モエカは、もともとシンガーソングライターに憧れていたことがインタビューでも語られている。

昔から歌うのが大好きで、小学生の頃にはYUIさんと、『NANA』(2005年)という映画を観たのがきっかけで中島美嘉さんが好きになって。シンガー・ソングライターというものがあると知ってからは、私もそれになりたいなってずっと思ってました」

私は彼らのライブを観ていてつくづく思ったのが、「塩塚モエカがシンガーソングライターではなくてバンドでよかった」である。
日本ではシンガーソングライター(以下、SSW)への憧れが強い。海外と比べることはできないが、日本は本当に強く感じる。YUIやmiwaといった女性SSWはいつの時代も第一線で存在している。歌の上手い女性はなぜかギター弾き語りになる。もしくはダンスボーカルか西野カナのような「歌姫」になることを憧れる。ギターをもってバンドをやろうという人は少ない。バンド界はどうしてもボーカルの人材不足だった。圧倒的歌唱力を持つ人はたくさんいるが、それだけの能力のある人はわざわざバンドでデビューせずソロ活動をする。EXILEの影響も大きいのかもしれない。
今でこそようやくこうやってバンドを選択肢に入れてくれるようになったのは木村カエラ以降だろうか。もっともっとSSWという”アコギ一本で”こそがオーセンティックな音楽だと思い込まずにバンド形式で幅広い音楽ジャンルに才能がいきわたってくれればいいのになあと思った。

そして最後に思ったのは、やっぱり女性の中でも幼ければ幼いほど、アイドルだったらなおさら、40代50代の男性が近くでまじまじと見ていると若干息苦しいことだ。今から言うのは決して誹謗中傷ではなく、”ライブ鑑賞は個人の自由である”という大前提の上で話すことを分かってほしい。
さっきも言ったように、女性アーティストにいい歳こいて前列で眺めていると性的対象でみているおじさんにしか見えなくなってしまう。そんなことはないとわかっていてもやはりなんだか性消費されているように見えてしまう。それは自分にも降りかかってくる問題だ。いまでこそまだアイドル聴いてますといっても笑って許してくれるしガールズバンドを見ても何とも思われないだろうが、自分がいざ40歳、50歳になってそれでも女性アーティストが好きだったとき、その視線に耐えられるだろうか。おじさんとは気の毒の存在である。それはおじさんをdisるためではなく、いつか自分も当事者になる事への恐怖でもある。ごめんおじさん。

まとめ

20年続いているMINAMI WHEELにようやく行くことができた。感想としては、とてもお得なイベントだと思う。そして人気バンドを見るよりも、まだ世に知られていないけどすごくいいバンドを見る方が入場規制もなく楽しいかもしれない、という事にも気づいた。来年も行くかどうかは分からない。正直あんまりにも道から会場まで混雑していたので、とくに誘われない限り行かないかもしれない。でもすごくいい経験をしたように思う。羊文学を生で見るという2018年の目標も何とか達成できたのでよかった。