すさまじい冒頭10分。「テネット」とはまたちがう、よりアクロバティックでドキュメンタリーっぽく撮られている、とにかく”えげつない”撮影。どうやって撮っているのか、縦横無尽に上下左右に、視点を飛び越えて、ありとあらゆる人が画面の隅々まで怒りに身を任せ暴徒化している。そして、それはこの映画の最も伝えなければならない悲壮な現実である。

フランスで問題化されている暴徒化。それは不平等や差別や権力の暴走が生んだ悲しい現実だ。この映画を見て「何かを訴えるために暴力はよくない。なにも解決しない」という説教じみた結論になるくらいならこの映画は見たことにはならないだろうし、現実からの逃避とデモ一つまともに起こせない(実際には各地で起きているが、暴徒化するほどのものはないという意味で)国での楽観主義のなれの果てともいえるだろう。

3人の兄弟がそれぞれ全く別の立場で、でもそれはすべてこの国がそうさせているといっても過言ではない。弟を殺したのは警察なのか右翼なのか。兄弟たち(主に三男)は弟を殺した警察官を特定するまで徹底的に抗戦する。あまりに巧みに、組織立って。

(赤江珠緒)兄弟だけど、バラバラな兄弟ですね。

(町山智浩)バラバラなんですよ。これはフランスの今の状況を象徴してるんですね。だからもう末っ子は貧しくて、そういった警察とかの被害に遭ってしまう被害者なんですけど。カリムはそれに対して怒って、社会的な革命を求めてる人たちですね。で、それに対して何とか、そういったものを鎮めて。何とかみんなで協力していこうと考えてるのはアブドゥルで。「そんなの関係ねえよ。どうでもいい。世の中、どうなっても関係ねえから金儲けだけやろう」って思ってる人がそのモクテルで。フランスのその三つ、四つにわかれているいろんな人たちを兄弟に象徴させて描いてるんですよ。

町山智浩 Netflix『アテナ』を語る

残酷な現実と厳しい眼差しの中に、映像美やカメラワークといった最大限のエンターテイメントで間違いなく今年の映画の中のトップクラスに君臨する作品が生まれている。