「バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画をつくったら」「くれなずめ」など意欲的な作品を手がけ続けている松居大悟監督のオリジナル脚本を、池松壮亮と伊藤沙莉の主演で映画化。ロックバンド「クリープハイプ」の尾崎世界観が自身のオールタイムベストに挙げる、ジム・ジャームッシュ監督の代表作のひとつ「ナイト・オン・ザ・プラネット」に着想を得て書き上げた新曲「Night on the Planet」に触発された松居監督が執筆した、初めてのオリジナルのラブストーリー。怪我でダンサーの道を諦めた照生とタクシードライバーの葉を軸に、様々な登場人物たちとの会話を通じて都会の夜に無数に輝く人生の機微を、繊細かつユーモラスに描く。2021年・第34回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、観客賞を受賞。

映画.comより

松居大悟らしい作風で、池松壮亮が非常に魅力的な(こういう映画では珍しい)男性を演じている。ただたんの若い男女のラブロマンスを邦画チックに撮るだけでなく、どことなく海外の作品にtも通ずる空気感や妻を亡くした男性やゲイのマスターなど、どこにも脇役を作らないそれぞれの人生を雑にならずに(かつ深くなり過ぎず)描いている。思い出したくない、思い出せない、思い出そうともしない、でもそれを「ちょっと」思い出してみた話。それが各人の「ちょっと」に照らし合わせて、それをどうというわけでもないのだが、物や場所に付随して出てくるのだ。バレッタ、タクシー、ケーキ、水族館、行きつけのお店、流しのミュージシャン。

池松の部屋の時計を軸にして巻き戻っていく時間。伊藤沙莉でいうとつい最近「僕たちはみんな大人になれなかった」もそのような時間軸だったし、これまた伊藤がありふれた男女の恋愛を繊細に演じきっていて、この映画の役ともそういった意味でよく似ている。

この映画の肝は、モノを通していろいろ推し量ったり見ている我々も”ちょっと”思い出したりしながら追体験できるところだ。さっきも言った二人の思い出の者や場所や出来事がちりばめられていて、明確な時系列の説明はなくても、時計、猫、部屋、服装(マスクの有無)、髪型、からいろいろと推し量れるのだ。

ちなみに「サマーフィルムにのって」で素敵な役を演じていた河合優実がこの作品でも登場していて、こちらもまた確実に池松壮亮に恋して憧れているいい役を演じている。

楽曲は出演もしているクリープハイプの「ナイトオンザプラネット」。当然リリース当時にこの楽曲は耳にしていたが、この映画の主題歌であることも、ジム・ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」から映画自体も、そしてこの楽曲もインスパイアされていることも(そして私がこの映画自体も)知らなかったので、改めて聴くと楽曲に対する解像度がまったく変わってしまった。なるほどそういうことなんだなと。どうしてもクリープハイプの下北沢感とたばこ吸ってるだけでエモくなってしまう風潮が個人的な思想や感覚とは大きく異なるので受け入れがたいものはあるのだが、この映画にはクリープハイプだったんだなと納得がいった。

ただ、エモさ、で映画を寸評するのは勘弁願いたい。なんて思った本映画のレビュー。。