「マリッジ・ストーリー」「フランシス・ハ」のノア・バームバック監督が、アダム・ドライバーを主演に迎えて描く風刺的な人間ドラマ。

原作は、アメリカの作家ドン・デリーロによる同名小説。化学物質の流出事故に見舞われ、死を恐れるあまり錯乱してしまった大学教授が、家族とともに命を守るため逃走する。現代アメリカに生きる家族が死を身近に感じる環境に置かれたことで、愛や幸福といった普遍的な問題に向き合っていく姿を描く。

主演は、「スター・ウォーズ」シリーズのカイロ・レン役で広く知られ、「マリッジ・ストーリー」でもバームバック監督とタッグを組んだアダム・ドライバー。共演には、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)作品のジェームズ・“ローディ”・ローズ/ウォーマシン役でおなじみのドン・チードル、バームバック監督の公私にわたるパートナーでもある、「レディ・バード」のグレタ・ガーウィグ。2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。Netflixで2022年12月30日から配信。一部劇場で同年12月9日から公開。

映画.comより

ノアバームバックがずっとノアバームバックしているダークコメディ。予告につられて観てしまったら最後、安易に手を出していい作品ではないと知ったその時にはもう引きずり込まれている最中。ブラックジョークも、イージーな揶揄や暗示もそのまま受け取ってよいのか迷ってしまう。まるでコロナ禍を再現するかのような人々の扇動と脅迫観念と宗教観は”ミスト”さながらでありながら、”ミスト”公開当時よりもありありとそのクレイジーなさまはまったく笑えなくなっていることに気づく。

見えない恐怖、は人をむしばむし、死を恐れるという単純極まりない人間の心理をまだこんな風に描く余地があるのかとおもしろくなってくる。メタ的な構造が得意なノアバームバックらしい、あらゆる映画のコラージュ的な演出を凝らしつつ、ミイラ取りがミイラになるような、そんな風刺も非常にエッジに描かれる。

批評家ウケのよさそうな、また映画ファンが語りたくなるような作品である一方で、単純なエンターテインメントとしては少し尖りすぎているので、友達と一緒に気楽に見るような映画ではなかった。まあウェスアンダーソンの作品を見るよりかは、はるかに楽しいのだけれど。

エンドロールで流れる楽曲はLCD Soundsystemの「new body rhumba」。書き下ろしだそうで、贅沢極まりない。