戦争映画は数多くの名作を生み出してきた。人物にスポットを当てたドラマ調の映画。ドラマチックな映画が多かった70年代80年代から、よりリアルで無慈悲さや恐怖をあおる「プライベートライアン」は画期的な作品として映画ファンからも評価は高い。コメディ調もあれば、誰を題材にするかの独自の視点からの独特な映画もあった。しかし近年の戦争映画はやはり「愛する家族のために戦う兵士」や「脚色なしのリアルなシーン」がいかにうまくとられているかが評価の捉えどころだったように思う。
ある意味ではこのダンケルクはそれを打ち破り、ある意味で見事にそのハードルを飛び越えた作品だったように思う。
まずこの映画の近年の映画と違う所は、視点の独自さだろう。英仏連合軍はダンケルクに追い詰められ、海からの脱出を図ろうとしていた。桟橋をつくりそこに船を送らせ兵士を乗せて故郷に帰るはずなのだが、ドイツ軍の空襲により船はすぐに沈没。主人公たちは船にのりこんでは沈没させられ命からがらダンケルクにもどり、また船に乗り込んでは沈没させられ戻る、といったただひたすらそれだけを繰り返す映画だ。これ以上詳しくは言えないが、しかしこの情報を知っていたとしてもなおどきどきと楽しめる作品になっている。
突然の銃声や爆音はとにかくリアルで脚色はない。だけれど、もう一つの相違点としてあげられるのは「BGMの活用」だ。戦争映画といえばBGMを極力減らしよりリアルな戦場を描くことが多いが、この作品はずーーーーーっと音楽が鳴っている。といってもメロディの起伏のあるような音楽ではなく、ひたすら鼓動の速さに合わせてストリングスが「ジャッジャッジャッ」となり続けたり、時計の音が「カチッカチッカチ」となり続ける。その音が私たちを余計に焦らせ、力が入る。
海際の話なのでひたすら水攻めにあうので少々息苦しさはあるが、むしろあそこまで立体的で生々しい水際のシーンはあまり見たことがない。というのもやはりCGにこだわらずすべて模型を作りガチンコ主義のクリストファーノーランだからこそのリアリティだろう。
あとは、イギリス人の着ている服の立派さに驚く。あ、そりゃ大英帝国ですわ、と思わず納得する。一般市民もおしゃれで、こんな国に日本はケンカ売っていたのかと、日本の戦争映画を思いだし服装を比較しがっかりする。イギリスの戦闘機、スピットファイアの見事な形、かっこよさ、そして旋回の早さ。日本の零戦も負けてはいないけれど。すべてにおいて劣っていた。
そのスピットファイアの空中戦も多く時間の割かれた見どころの一つ。今までの映画なら「くそお!!!」とか「よっっしゃーーー!」とか熱っぽく声を荒げるパイロットが多かったが、ダンケルクは違う。倒してもひたすら無言で、ただずっと黙って後ろにつけては目で追いかけ機関銃を撃ち続ける。機体も爆発することなどなく、煙を上げて海の上に不時着するばかり。でもよく考えたら当たり前だ。命かけて戦っているシーンでいちいち声を挙げたりしないだろう。リアルさがとことん追求されていた。
そういえばこの映画の結構なメイン役で元One Directionのハリースタイルズが熱演していた。もはや既定路線過ぎた1Dの空中分解は、やはりその後の活動も既定路線だった。一番人気のハリーは俳優活動に。ひとり顔の系統が違うため若干目立ってたゼインは案の定すぎるセクシー路線に。アイドル扱いされるとすぐに脱ぎたがるからな、イングランドとアメリカは。そういう奴には綾瀬はるかを見せてやりたいね。
ちなみに1Dは地味にちょっと好きで数曲リピートしてた時期があった。お薦めは「You & I」とブロンディのカバーになるけど「One Way Or Another (Teenage Kicks)」かな。ぜひ。