アメコミは面白くない。

それが自分にとっての通説だった。どの映画も明確な正義が存在し、そしてそこに葛藤が生まれ…といういつも同じ展開があまり馴染めなかったしどうも「アメリカ万歳」な空気感が耐えがたいからだ。スパイダーマンだけは惰性で見続けていたがオリジナルはもうやってないしアメイジングでは愛するエマストーンが死亡してしまうし、ホームカミングは安定のアメコミ大集合みたいな感じになってるしもう観るつもりもない。
ただダークナイトだけは別格の評価を得ていることは知っていた。ただのアメコミと思うなよと何度も言われた。それでもなんとなく腰が重かったのだが、意を決してみることにした。

 

 

 

正解だわこれ

 

 

 

名作と呼ばれるものに偶然なし。はっきりと理由が分かる。どこまでも暗くて業の深い曖昧な世界。バットマンという超人正義やろうがいるのにいつのまにかジョーカーに説得される自分がいる。人間の持つ闇の非情な心や欺瞞、でたらめでエゴイスティックな部分をドロッと描き出している。まさに快作。

 

ジョーカーはあまりにショッキングな存在だった。でも人の心の底にある黒い塊がそのまま人間の姿をして出てきたような、どこか見離せない愛くるしさ(というか飼い慣らしていた自分の闇だから見捨てることのできない罪悪感)がある。「おれは終わらない」となんども叫ぶジョーカーの言葉が重く響く。市長とジョーカーとバットマンと警察官。各々の正義がせめぎあうなか、ふとバットマン世界に住む住民に想いを馳せてみる。私はだれを支持するのだろう。葬られた多数の真実の中でバットマンを断罪しジョーカーに怯え市長を称えるのだろうか。それは今この現代で起きていないだろうか。私が支持するものはそれは真実なのか。バットマンのような自己犠牲の上で成り立つ世界じゃないだろうか。だれかがどこかで苦しみ悲しみをしょい込むことでこの世界のバランスをとっていないだろうか。知る由もないがなぜか頭から離れない。

 

ダークナイトのメインテーマがいいのもひとつ。作品の性質上歌モノはなかった(と思う)のだが、戦いを盛り上げる力強いオーケストレーションが印象的。ハンス・ジマーらしい。そりゃいいわ。

 

 

 

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