宇多田ヒカルは別格。これは私の中で確固たる意志で断言できることだ。宇多田ヒカルは別格。

作詞力も表現力も作曲能力もずば抜けている。贔屓目なしにそう思うから恐ろしい。

そんな彼女が2018年に行ったツアーのファイナルの様子がNetflixにあがっていたので鑑賞した。

デビュー20周年を記念して開催された宇多田ヒカルの”Laughter in the Dark Tour 2018″。12年ぶりとなる国内ツアーの最後を飾る、幕張メッセでの最終公演を完全収録。


国籍を問わない実力派のサポートメンバーを引き連れて一人センターでマイクだけを持つ宇多田。その姿は恐ろしくも神々しくもあり、無防備なのに一歩も立ち入ることのできないオーラはいつも変わらない。

あまりライブを多く行わない彼女はスタジオミュージシャン気質であるが、この日はライブミュージシャンだった。冒頭から骨のある楽曲を披露。それぞれがそれぞれの時代の音楽を吸収したもので、「あなた」は宇多田らしいJPOP感と世界も顔負けのソウルフルなバラードが混ざった曲。「道」は南米のリズムであるカリプソを取り入れた楽曲的にも新しい試みをしてみた曲。「traveling」は秀逸なワードセンスとそれを支える鮮やかなコーラス、サウンドが心躍らせる曲。
彩り豊かなオープニングとなった。


その後も「COLORS」とか「SAKURAドロップス」など惜しむことなく代表曲を披露していく彼女。冒頭で「20年やってこれたことが不思議だ」「ありがとう」と感謝を述べ、客が大きな歓声で応えると思わず涙ぐむ彼女だが、それほど彼女にとってはこの20年はあっという間であり紆余曲折あったのだろう。それは外部の私達からでも容易に想像がつく。時代の寵児として持て囃され、そこで磨耗するものもたくさんあった。

しかし彼女は楽曲をよりグレードアップしていくことに余念がなかった。ただひたすらに時代に食らいついてく。いや、日本国内に限って言えば、彼女の歩く道が時代になった。海外の曲を垂れ流すことら困難なこの国において、自分がフィルターとなりJPOPへと変換して届けてくれる。それは決して離乳食なんかではなく、フルコースなのだ。ただそのメニューが照り焼きになり味噌汁になっているだけだ。




10代のころから第一線で活躍してきた彼女は2011年に活動を少し休み、イギリスのロンドンで子育てなどに集中した。そののち2016年に復活した彼女は復帰作「Fantôme」をリリース。

そこで驚いたのは、全然彼女が衰えていなかったこと、むしろよりワールドスタンダードな音楽性に成長していたことだ。当時無名の小袋成彬をフックアップしたり、当時新進気鋭だったKOHHを迎えたりと、ポップアーティストながらやることは完全に世界のそれと同等かそれ以上だった。

正直、これだけ休んでいた宇多田にあっさりと復帰作で今の日本の音楽シーンをごぼう抜きされたことに、他の日本人アーティストに失望すらしたが、それほどにすごかったのだ。

復帰後の作品も、20代の頃に作ったキレキレの作品も、その時代感のズレは感じられず、融合している。決してギターを弾くわけでもダンスをするわけでもない、シンプルな舞台演出だが、そこに宇多田がいるだけで成立してしまうのはさすがとしか言いようがないし、これぞエンターテインメントだと思った。

お笑い芸人ピース又吉との対談もありの、ボリュームたっぷりなライブ作品なので、是が非でも観てほしい。

セトリ
M1 あなた
M2 道
M3 traveling
M4 COLORS
M5 Prisoner Of Love
M6 Kiss & Cry
M7 SAKURAドロップス
M8 光
M9 ともだち
M10 Too Proud
M11 誓い
M12 真夏の通り雨
M13 花束を君に
M14 Forevermore
M15 First Love
M16 初恋
M17 Play A Love Song
EN1 俺の彼女
EN2 Automatic
EN3 Goodbye Happiness