ちゃんとした恋愛とは

あるツイートが目に留まった。それは以下の内容だった。

わたしはどうしてもこのツイートに賛同できなかった。言いたいことは分かる。10代にしかできない恋愛は間違いなくあるし、それが大きな経験になったり、反省を伴ったりと、人生の一つの糧になることは疑いようがない。

ほんとうにそれだけの単純な僻みと妬みと憧れを書いたツイート(どうやらこれが初ツイートではなく色々転載されている物らしいが、今回はそれは焦点ではないので割愛する)で、5万を超えるいいねに深い意味もない。単純に「そうだそうだ」と思う人が気軽にいいねを押しただけなんだと思う。でもだからこそそれは大きな落とし穴なんだとも思う。

ちゃんとした恋愛、という全くもって差別的な言葉を使って、付き合って1年でセックスすることが人間として正しい行為だと説き伏せるのはやはり危険である。しかも”敗者”側からの目線で。経験できなかった人間が、勝ち組が決めた常識に自ら当てはまりに行き敗北を認めにいくスタイルは見ていて気持ちが良くないし、これのどこが多様性な社会なんだろうと疑問に思う。

付き合わずに趣味やスポーツに打ち込むのもちゃんとしているし、付き合ってもセックスしないこともちゃんとしている。10代に恋愛できなくても恋愛観が歪むなんて根拠もない。もし仮に歪んでいるのだとしたら、恋愛できないからではない、恋愛できないことはちゃんとした人間じゃないと決めつけるこのツイートと5万以上の無邪気ないいねのせいである。

いろんな価値観、いろんな捉え方があってどれもが尊重されるべき時代に、こんな古ぼけた価値観を、自分たちのノスタルジーならともかくこれからの若い世代にまで教育しようとする姿勢は本当に邪悪である。経験できなかったのならなおさら「経験してないけど全然問題ないよ!」と言うべきなのではないか。



最底辺のバンド

といきなり言って始めたのは、今回のテーマがハンブレッダーズ。「スクールカーストの最底辺から青春を歌いに来ました」と自らを紹介する彼らは、今要注目の3人組ロックバンドである。

──「スクールカースト」って、学生時代から口にしてたワードなんですか?

ムツムロ いや、当時は「イケてる」「イケてない」って言うてました。

でらし バンドで言い出したのは僕が入ってからやと思う。1年くらい前からかな。

ムツムロ 「スクールカーストの最底辺から青春を歌いに来ました」ってのは、お客さんにもらったコメントにそういうのがあったんよ。「這い上がってください!」みたいな。

<中略>

ムツムロ とりあえず、サエないところは4人共似てますね。バンドマンなのにお酒はほぼ飲めないし、タバコは吸わないし、悪いことが全然できない(笑)。

スクールカースト、という言葉を用い、自分たちを最底辺と定義する。教室の隅でいつか青春を謳歌してやると胸に秘め、音楽を始める。でもかつてのような荒っぽいロックバンドみたいなことはできず、悪ぶったこともせず粛々と活動を広げていく。その姿勢に心打たれる若者が続出中である。

シンプルなギターロックを貫く彼らだが、歌詞にはこだわりが見える。
もちろんストレートな歌詞も多いが、その裏に隠されたメッセージや裏返しの感情が含まれている。

ムツムロ:はい(笑)。2019年は、けっこう社会的な……いろいろなことが目に見えてくるようになっちゃって。いろんなニュースだったりとか、イヤな事件だったりとか。それで自分の気持ちまですごい左右されちゃう、バッド・チューニングされたりする1年だったんですね。そういうことから、インプットを得ていたのかもしれないな、と思います。
中略
──そういうことを表現するときに、今、ロック・バンドというのは、いちばんやりやすいアウトプットの方法ではなくなっていますよね。

ムツムロ:今はそうですね。ヒップホップのほうが現実を歌ってる感じがしますよね。ロック・バンドはロマンを歌うもの、みたいな。

──そこで「じゃあ自分たちはどうしよう?」っていうことは──。

ムツムロ:すっごい考えますね。それは毎日考えてます。「しょせんロックって娯楽じゃないか」みたいなところだったり、「でもそれだけじゃないよな」みたいな思いの狭間で、毎日過ごしていますね。

──でもそれ、確かに曲に表れてますね。

ムツムロ:そうですね。「ユースレスマシン」がいちばんそうかな。

 

ロックはロマンを歌うもの、という彼の実感は全くの見当違いというわけでもないさそうだ。彼らの音楽は至ってシンプルだ。10年代に多様に変化してきたロックのサウンド面を踏襲するのではなく、むしろ日本のギターとベースとドラムだけで言ってしまえば時代とはそぐわないロックを奏でている。

時代の波ならばHiphop
イマドキ女子は皆TikTok
未だに僕らはロックンロールと
フォークソングをシンガロング

と歌っていることでも明らかだ。

 

目指すのは「語彙力」と「語の威力」
──ライブでも歌が聴き取りやすいし、コーラスもいいし、1人ひとりの音がガッと響いてきますね。

吉野エクスプロージョン(G, Cho)
吉野 僕らムツムロの歌詞が大好きなので、まずはそこを届けたいっていうのはライブでも意識してます。

ムツムロ ロックンロールという音楽で戦う以上、言葉が伝わらないといけないと思ってます。僕らの楽曲は音像的にはギターロックなんだけど、そのフィールドで1つ抜きん出るためには歌詞が大事で。

<中略>

吉野 それまでムツムロの歌詞って、具体的な描写が強みやと思ってたから。本人から話を聞いて「あえて抽象的で行間のある、言いすぎないよさも大事なんやな」と考え直しましたね。あと、聴き手が入りやすいように、イントネーションとメロディの一致は大切にしてて。

ムツムロ メロディと歌詞の親和性が高いものが好きなんですよ。

ハンブレッダーズの音楽はたしかにメロと歌詞の相性がいい。というのは聴いていていて言葉だけが浮いて聞こえたり、逆に言葉がぐしゃっと潰れてしまったりする音楽があるのだ。それがハンブレッダーズにはない。バランスがいいというか、音と言葉と感情が一致している。このインタビューを読んでなるほどそうだよなと解答を読んだかのような納得感すらあった。

奇をてらった目線はなく、でもありきたりなことだけではない目線がある。若さゆえのすこし痛々しい歌詞もそれはそれで魅力のひとつだ。地頭の良さが伺えるバンドである。

 

エモーションだけでやってるわけじゃなくて、曲に対するアプローチが練られてますね。

中途半端にみんな頭が良いんで(笑)。天才だとかのレベルじゃないんですけど、頭を使って音楽を作ってるバンドかもしれないですね。

スクールカーストの底辺を公言することは、ある種でロックになりうるし、”逆襲”とか”なりあがり”とか、そういう下克上的なストーリーにぐっと胸を掴まれ熱くなる人も多いだろう。

 

底辺であることに自意識過剰になること

 

ただその使い方は紙一重である。ハンブレッダーズには当てはまらないが、”底辺”側の人間がわざわざ自分たちの負けをみとめ、旧来的な古い価値観のレースに自ら巻き込まれにいき、てへへと笑いながら「底辺です」なんて言うの、私にはどこがかっこいいのかわからない。

だからどうした。教室の隅っこは僕たち私たちの中心なんだと胸張って言えばいいし、恋愛経験できないことを無理に茶化さなくていい。彼女がほしくて仕方がなくて100人に告白して100人ともにフラれたのならまあわかるのだが、別にそこまでほしいと思っておらず、それよりも楽しい友情や趣味があって気付けば恋愛できなかっただけなのであれば、それは恥じることでもないし”ちゃんと”恋愛出来た人間にすりよる必要もないのだ。

底辺だと自覚することで反骨心が生まれ、だからこそかける歌詞があり、歌える歌がある。私にはハンブレッダーズは確かに彼らの言う”底辺”に届く音楽だと思う。そのためのメロディも練られているし、顔つきがいい。ちゃんと語り掛けている。
でもそれって限定的なのでは。それこそ彼らが影響されたという銀杏BOYZらとやってることが同じで何の進歩もないのでは。そんな危惧も生まれる。それのなにがいけないのかと問われれば返事はできないが、銀杏BOYZぐらいのバンドにハンブレッダーズがなるのはもったいない気もするのだ。

しかし彼らは合わせてこう語る。

──こんな曲を書こうとか、こんなことを歌いたいとか、そういうのは?

ムツムロ:そこは一番変わったかもしれないです。昔はそれこそ、自分たちは教室の隅っこにいて、教室の中心にいる人たちがすごくうらやましくて、その反骨精神でバンドをやっていた、それをアイデンティティにしていた、みたいな時期もあったんですけど。でも、それってすごいちっちゃい話だな、もっと広い視野で歌詞を書いていきたいなっていうふうに、ここ2年ぐらいは変わってきているような気がしますね。
たとえば、「何くそ」って気持ちで音源を作っていても、たとえばもともと教室の中心にいた人にも「いい音源だね」って言ってもらえる、というか。「俺は教室の隅にいたから、教室の隅にいた人間に届けるんだ」って曲を作ってたけど、別にそうじゃなくても音楽って届くんだな、っていうことを自覚し始めたというか。そういう意味で視野が広がりましたね。

より広い人に。カーストの上位層にも届く歌を。それだけでも随分とバンドの未来は開けてきたように思う。

これから彼らは根っこに底辺の気持ちを抱え、その底辺を知る由もなく、上記のツイートに何の疑いもなく賛同している人たちに音楽を届けるのだろう。
だとしたら、そんな上位層にも、深い気付きと変化を促すような楽曲、作ってほしい。私はハンブレッダーズの歌詞が嫌味なくスッと入って来たからこそ、そんな期待をしたい。