いよいよ大本命、年間アルバムベスト50の発表です。要するに1位はノベル的”最優秀アルバム賞”ということです。改めて対象作品の確認です。 1.2022年11月~2023年10月にリリースされたシングル以外のEP、ミニアルバム、オリジナルアルバム、カバーアルバムが対象 2.各月の「月間アルバムランキング」にて各アルバムを評価したものに加え、聞き漏らしていた作品、全208作品が対象 3.各月の「月間アルバムランキング」では「曲 構成 ノリ メロディ 中毒性 後味 表現力 好き」の8項目で各10点、計80点で採点しているが、それらは参考でありこのランキングには本ランキングとは直接的な関係はない 4.ミニアルバム・EPよりフルアルバムの方を高く評価してランキングを作成

ランキング外

それでは、まずベスト50に入らなかった158作品を50音順で紹介します。ここに記載のないものは私の未聴作品となります。

4na – a Beast4na – 余白にいたら、

8LOOM – 8LOOM

aiko – 今の二人をお互いが見てる

Aimer – Deep down

Aimer – Open α Door

ALI – MUSIC WORLD

androp – gravity

ASIAN KUNG-FU GENERATION – サーフ ブンガク カマクラ(完全版)

Awich – United Queens

back number – ユーモア

BANNY BUGS – iNSPIRE – EP

BBHF – 4PIES – EP

betcover!! – 卵

BimBamBoom – PILI PILI

CAPSULE – メトロパルス

CENT – PER→CENT→AGE

chelmico – I just wanna dance with you- period – EP

Chilli Beans. – for you – EP

Chilli Beans. – mixtape – EP

Cody・Lee(李) – ひかりのなまえ EP

Cornelius – 夢中夢

Cruyff – lovefullstudentnerdthings

CVLTE – CHAPTER I: MEMENTO MOLLY – EP

CVLTE – CHAPTER II: TOKYO INSOMNIA – EP

DENIMS – ugly beauty

DISH// – TRIANGLE

Elle Teresa – KAWAII BUBBLY LOVELY Ⅲ

EVISBEATS – That’s Life

ExWHYZ – xYZ Flat Line

Classics – THROW BACK LP

For Tracy Hyde – Hotel Insomnia

go!go!vanillas – FLOWERS

GRAPEVINE – Almost there

GReeeeN – ロッキンビーツ

guca owl – ROBIN HOOD STREET

Hana Hope – HUES

Helsinki Lambda Club – ヘルシンキラムダクラブへようこそ

INI – Awakening

JiROMAN – YOU

jizue – biotop

JUMADIBA – nobori – 上り

KANA-BOON – 恋愛至上主義

Karin. – 私達の幸せは

KEIJU – Speed Tape – EP

KIRINJI – Steppin’ Out

Kyrie – DEBUT kZm – Pure 1000%

Lanndo – ULTRAPANIC

LEX – King Of Everything

Lil Soft Tennis – i have a wing

LOVEBITES – Judgement Day

Mall Boyz – Mall Tape 2

Mega Shinnosuke – 2100年

MindaRyn – My Journey

MIYACHI – CROWS MIYAVI –

MIYAVIVERSE – Anima – – EP

Mom – ¥の世界

MONGOL800 – LAST PARADISE

MONKEY MAJIK – curtain call

moon drop – 僕の唄で君に永遠を

Mrs. GREEN APPLE – ANTENNA

Negicco – Perfect Sense – EP

never young beach – ありがとう

NiziU – COCONUT

NOA – NO.A

OGRE YOU ASSHOLE – 家の外 – EP

OMSB – 喜哀

PAS TASTA – GOOD POP

PUNPEE – Return of The Sofakingdom – EP

SALU – rehabilitation mixtape

SHE’S – Shepherd

SIRUP – BLUE BLUR – EP

situasion – amputasion – EP

Skaai – WE’LL DIE THIS WAY -EP

SKY-HI – THE DEBUT

Subway Daydream – RIDE

Superfly – Heat Wave

Syrup16g – Les Misé blue

Tani Yuuki – 多面態

TEAM SHACHI – AWAiTiNG BEAR

TESTSET – 1STST Tocago – Wonder -EP

TOMOO – TWO MOON

UNISON SQUARE GARDEN – Ninth Peel

Various Artists – ザ・ブルーハーツ クイズ☆正解は一年後 トリビュート

Various Artists – 098RADIO vol.1 Hosted by Awich

w-inds. – Beyond

WurtS – MOONRAKER – EP

Yaffle – After the chaos

yahyel – Loves & Cults

YOASOBI – BOOK 3

yonawo – Yonawo House

YZERR – Rich or Die 2

新しい学校のリーダーズ – マ人間 – EP

新しい学校のリーダーズ – 一時帰国

家入レオ – Naked

幾田りら – Sketch

牛尾憲輔 – Chainsaw Man Original Soundtrack EP Vol.3 (Episode 8-12)

ウルフルズ – 楽しいお仕事愛好会

大塚愛 – marble

奥田民生 – ドーロムービー”トツゲキ!オートモビレ”

小曽根真 – PARK STREET KIDS

岡野昭仁 – Walkin’ with a song

加藤ミリヤ – BLONDE16

カネヨリマサル – わたしのノクターン

カメレオン・ライム・ウーピーパイ – Orange

氣志團 – THE YⒶNK ROCK HERØES

喜多ゆみ – シャレード 木村カエラ – MAGNETIC

清 竜人 – FEMALE

工藤将也 – 硝子戸の中 クラムボン – 添春編

くるり – 愛の太陽 EP

ゲスの極み乙女 – Gesu Sped Up

結束バンド – 結束バンド

後藤真希 – Songs of You and Me !

サカナクション – 月の現 ~ Rearrange works ~

佐藤千亜妃 – BUTTERFLY EFFECT

サニーデイ・サービス – DOKI DOKI

椎名林檎 – 百薬の長

ジェニーハイ – ジェニークラシック

清水 翔太 – Insomnia

女王蜂 – 十二次元

少年ナイフ – OUR BEST PLACE

新亜並行空間 – 心の理論

水曜日のカンパネラ – RABBIT STAR ★ – EP

ズーカラデル – ACTA

ずっと真夜中でいいのに。 – 沈香学

スピッツ – ひみつスタジオ

ちゃんみな – Naked

田我流 – OLD ROOKIES -EP

東儀秀樹 – NEO TOGISM

東京スカパラダイスオーケストラ – JUNK or GEM

徳永ゆうき – 徳永がくる

なきごと – NAKIGOTO,

なんちゃらアイドル – Life Goes On

錦戸 亮 – Nocturnal

日食なつこ – はなよど

ハク。 – 僕らじゃなきゃダメになって

蓮沼執太 – unpeople

パスピエ – ukabuabaku

畠山美由紀 & 藤本一馬 – 夜の庭

ビューティフルハミングバード – Sincere

浮 – あかるいくらい

フレデリック – 優游涵泳回遊録

星野源 – LIGHTHOUSE – EP

マカロニえんぴつ – 大人の涙

ミノタウロス – 評論家が作る音楽 – EP

向井太一 – THE LAST

八代亜紀 – 想い出通り -EP

ヤバイTシャツ屋さん – Tank-top Flower for Friends

山下智久 – Sweet Vision

山中千尋 – Today Is Another Day

緑黄色社会 – pink blue

松下洸平 – POINT TO POINT

礼賛 – WHOOPEE

凛として時雨 – last aurorally

50位~21位

ではベスト50の発表です!まずは21位まで!

50位 LiSA – LANDER

49位 moumoon – FELT SENSE

48位 藤原さくら – AIRPORT

47位 YUKI – パレードが続くなら

46位 The BONEZ – Yours

45位 Shin Sakiura – Inner Division

44位 SawanoHiroyuki[nZk] – V

43位 NORIKIYO – 犯行声明

42位 milet – 5am

41位 MON/KU – MOMOKO blooms in 1.26D

40位 AI – RESPECT ALL

39位 CHAI – CHAI

38位 chilldspot – ポートレイト

37位 TAMIW – Fight for Innocence

36位 空間現代 – Tracks

35位 GENERATIONS from EXILE TRIBE – X

34位 ELLEGARDEN – The End of Yesterday

33位 ROTH BART BARON – HOWL

32位 スガ シカオ – イノセント

31位 春野 – The Lover

30位 OKAMOTO’S – Flowers

29位 GEZAN & Million Wish Collective – あのち

28位 大比良 瑞希 – HOWLING LOVE

27位 BONNIE PINK – Infinity

26位 一青窈 – 一青尽図

25位 くるり – 感覚は道標

24位 Awich – THE UNION

23位 安田レイ – Circle

22位 ジョナゴールド – WEEKEND

21位 LAGHEADS – Where is “LAGHEADS”?

 

20位~11位

ベスト20の発表です!!!

20位 揺らぎ – Here I Stand

19位 KANDYTOWN – LAST ALBUM

18位 cero – e o

17位 蓮沼執太フィル – symphil

16位 Original Love – MUSIC, DANCE & LOVE

15位 maco marets – Unready

14位 Mr.Children – miss you

13位 JJJ – MAKTUB

12位 XinU – XinU

11位 君島大空 – no public sounds

10位~1位

ではラスト、ベスト10です。少しずつですがコメントもつけてますのでお時間あるときにちらっと読んでみてください!

10位 君島大空 – 映帶する煙

彼の音楽を聴いたとき、すごく文学的な歌詞を書きそうだなと想像するかもしれない。事実、抽象的な表現も多いが、”装置”を見てみると「この夕暮れを私の目の前へ滑り降りてきて!」と書いている。感嘆符を使うようなアーティストだと思っていなかったので意外性に驚き、でもそれがなんとなく納得がいくのが不思議だ。たしかに感嘆符がつく。”回転扉の内側は春?”なんかタイトルに疑問符がついている。当然歌詞にもたくさんついている。ただ、全体的に不明瞭で抽象的だ。彼が伝えようとすることも半分も理解できない。それでもいいんだと思えるほどに音楽がいい。フジロックでみた君島大空合奏形態(西田修大、石若駿、新井和輝[King Gnu])はある時は非常にベタなクラシカルロックンロールを奏でたと思うと、アンビエントに転換したりノイズミュージックに移ってみたり、非常に美しい賛美歌のような曲も演奏していた。多様な楽器、ジャンルを内包したライブはまさにこのアルバムから作り上げられている。

9位 ROTH BART BARON – 8

前作”HOWL”から期間を開けることなくリリースされたアルバム”8″。三船はいつも社会や人に対して自覚的に関わろうとし、その事柄を自分の言葉で再解釈しようとする。東洋のエッセンスと賛美歌のような美しい歌声で摩訶不思議な世界へと誘う。非常にハイコンテクストで抽象的かつ示唆的な言葉の数々に他のポップアーティストにある親しみやとっつきやすさは若干薄いものの、それを補って余りある芸術性と焦点のあった強いまなざしの歌詞たちはところどころで私たちをハッとさせるしそのうえですべてを浄化してくれる作用もある。ギターなどの弦楽器とドラムの打楽器のバランスもボーカルの反響も全てが完全に調律されていて本当に美しさだけでは図抜けて素晴らしい作品。静かな気持ちで聴きたい一作。

8位 カネコアヤノ – タオルケットは穏やかな

いつもはかなげで憂愁が漂うカネコアヤノだが、音楽性は対照的だ。もちろん哀愁のあるサウンドのある楽曲も多数あるが、それよりも強い意志を感じるからだ。それゆえに、すごく聴きたいときとそうでもない時が個人的にはっきり分かれる。それは昔からそうだった。嫌いではないしむしろ大好きなんだけれど、この圧に負けそうな時がある。そしてなんだか何もわかることができていない、これからもできないような気分になる。わかるなんておこがましい気持ちは持つべきではないという言葉も聞こえてくるが、やっぱりそれなりにアーティストの意図はある程度は汲み取っていたいと思う。だけれどそれはいまいちわからない。多分カネコアヤノがどこにでもいる女性に感じられないことも一因にあると思う。そのへんにいる人がギターをもって歌ってみたら売れちゃった、ではなく、いい意味で明らかに一線を画すような価値観や考え方、感受性を持っている人がやっている音楽だ。だからわからないくらいでいいのかもしれない。ビリビリと耳に到達するまっすぐな歌声は一聴してだれかを言い当てられるほどだがその個性に甘んじないあふれ出るエネルギーとアイデアで満たされているアルバムだ。

7位 indigo la End – 哀愁演劇

年々彼らが好きになっていく。それは彼らが成長しているからではなく私の聴き方が変わったからだ。彼らは昔から一貫してクオリティの高い楽曲を作り続けている。そこにようやく私が気づき始めただけだ。一音一音が心地よ過ぎるドラム、さまざまな変化を見せるギターなど、演奏陣の安定度はピカイチで、さらにボーカルの川谷の声色もより柔らかさを増したような、丸みがある。一曲ずつがキラーチューンで、メロディの立ちがすごいのにうっとおしくならない。ジャンルもさまざまだが全く苦にすることなくアレンジが施されており、バンド全体の器用さも十分この作品だけで伝わる。”暗愚”の長い間奏のギタープレイはしびれるものがあるし、スマッシュヒットした”名前は片想い”はもちろん、”ラブ (feat. pH-1)”など既発曲も要所で挟み込まれアルバムを加速させている。オルタナティブなバンドとしてのポップスとの両立を試みた意欲作に感じた。

6位 テークエム – Communication

その土地に行くときはその土地のことを歌った歌を歌う、という個人的なこだわりがあるが、京都に行くなら在日ファンクの”京都”を歌うのが慣例になっている自分にとって、テークエムの”Communication”に収録されている”たまに思い馳せるよ尼崎”はあらたな尼崎の歌となった。尼崎に用があるかはべつとして。梅田サイファーのメンバーとして活躍ののち、”THE TAKES”につづく2枚目のフルアルバム。ラッパーとしての特徴的なリズムやトーンに加え、歌い手としての才覚もしっかり示している今作は、カオティックな一面より、さらに整理されたグッドクオリティな楽曲が多い印象を受けた。踊Foot WorksのPecori、フレンズのおかもとえみなど、ラッパー以外の客演がいることも、このアルバムが聴かせるための作品であることはあきらかだ。このアルバムには強い攻撃性は薄く、セルフボースティングがそれほど多く登場しない。もちろんその他の多くのラッパーのように自分の苦労話や遅咲きであること、自分でいるということを誇示するものもあるが、どこか後ろ向きでたゆたう姿がイメージできる。彼のライブスタイル、特徴的な見た目に相反してどこか自信がなさげだ。そこに最後を締めくくる”Enemies (feat. 鋼田テフロン)”が差し込まれ、分断を煽る社会に警鐘を鳴らす。常に目線は高く、自分だけでない世界を見つめている。そこにテークエムの魅力が詰まっている。

5位 tricot – 不出来

「上出来」の次は「不出来」。作品自体は当然だが不出来ではなく、いつになくアグレッシブでキャッチーだ。メロウなミディアムテンポな楽曲よりも奇天烈ながら非常に整った楽曲が耳を惹く。それは決して単純とか安易ということを表すのではなく、シュールが王道になった瞬間を目の当たりにしたような気分だ。遊び心の塊なのにどこかシニカルで”#アチョイ”のような毒っ気がやみつきになる。UKのオルタナロックをしっかりと受け継ぐようなギターサウンドと地に足のついたベース、中嶋イッキュウのボーカルはいい意味で変わらない。全体的にアートの要素がちりばめられていて、ポップスとのバランスは少々悪い。でもtricotにはそのバランスの悪さ、大衆受け要素を少しだけ減らしてしまうところが最高にかっこいい。音楽のあれこれをしらなくても冒頭で「なんだこれ」と思わせる攻めの姿勢もあれば、”crumb”のようにじっくり聞かせても「?」が浮かぶtricotらしい楽曲もある。「特別でいたいならほんの少しくらいはいつも損しなければいけないよ」「皆五日デ忘レル 血走ッテ居タ過去ヲ」など一言で本質を言い当てる鋭さは健在で、アバンギャルドなサウンドの根幹を担うリリックは今作でも楽しめる。そもそも自分たちのアルバムに不出来ってつける勇気に感心する。それは同時に「いやあ不出来って自称しているけどめちゃくちゃ最高じゃん」という反応を待っているようにも見えるし、かといって実際ダメダメだったら「まあこれ不出来なものを寄せ集めただけですから」っていう言い訳を用意しているようにも映るから、どっちに転ぼうが批判的にとらえることができてしまうので、割と余計な事を言っている気もする。でも結果的にその不安は杞憂に終わるのは、このポップスのバランスの悪さこそだと思う。置きに行った作風ならより一層サブく感じる”不出来”が、開き直りの言葉に聞こえてクールさすらまといだすのだからすごいとしか言いようがない。

4位 Galileo Galilei – Bee and The Whales

復活ののろしを上げるようにドラムのタノの音で始まるとスピーカーを通したような音のボーカルが入ってくる。「なあそろそろ外に出る頃だと」と言って盛り上がりをぐっと挙げたと思ったら、テンポは逆に落ちてコームな時間が続く。これがGalileo Galileiだ。UKのロックシーンをなめるようにシンセを使いまわし、ボーカルディレクションをいじる。”死んでくれ”も”色彩”もThe1975を想起させるのは容易で、ある種の爽やかさや青春が彼らの初期からのイメージだったはずだし、熱心のファンではない事実そういう捉え方をしていた私も、このアルバムを聴いていい意味で影を落とすようなUKサウンドには驚いた。もちろん、活動休止後のwarbearもBBHFも聴いていたので彼らの進歩と海外のロックシーンやロックに限らないポップスの素養をどんどん吸収しているのは知っていたし、その時点でもう有象無象の日本のロックバンドとは異なりシーンから一つはみ出た域にいることも知っていた。ただ、それを経てGalileo Galileiをやりたいっていうのは、つまりそういうことなのかと思っていた。THE FIRST TAKEで懐かしのヒット曲を歌ってみたり、Youtubeに敬愛するBUMP OF CHICKENの初期の曲をカバーした音源をあげてみたりと、邦ロックとしての原点に戻るかのような動きを見せていた彼らだったが、リリースされた作品はまったくその素振りすら見せていない。ただ、あれは自分たち=Galileo Galileiがどんなバンドだったのかを思い出すために過去の道を確かめるように歩いていたのかもしれない。非常に興味深いのは”ファーザー”。父を描くってあまり多くない気がするのだが(大抵は母親について歌う)、ある点では非常に古風な父親像を劇画っぽく書き、一方でちょっと皮肉っぽく「んー真っ当な人生だよ」「滑稽な動作を繰り返し 俺の愛を描いてる」と締めくくる。父性とは何か、それを考える視点は10代の頃と30歳を過ぎた段階ではまた異なるに違いない。というのも筆者とボーカルの尾崎とは年齢がほとんど同じだからだ。どの曲もドラムが非常に印象的でそれがタイトでスタイリッシュなイメージを増幅させている。大好きなくるりをリスペクトした”愛なき世界”は電車をテーマに書いた曲だが、そこに挟まれるのは構内アナウンスや踏切の音といった機械音で、そこにも彼ららしさがでている(多くはもっと田園風景というか、生身の電車のイメージを想起させるような音を使っているきがするが、あえてノスタルジーとは逆の方向だったのは意外だった)。アルバムタイトルにもなった”Bee and The Whales”はネオソウル、R&Bのようなエレクトーンとボーカルの一対一のコーラスで、事実フランクオーシャンのような曲を作りたかったとインタビューでも語っているように本アルバムでも異質を放った作品になっている。私が彼らに抱いていた純朴さのようなものはすっかり薄れ、音楽に対して真摯で自由だ。音楽を海とたとえ、自分たちをクジラと称する。一度陸にあがりまた海に戻ったクジラのように、彼らもまた大きなシーンへと物怖じすることなく堂々と帰還したのだ。

3位 iri – PRIVATE

ファーストアルバムがリリースされて以来、アルバムが出る度にどんどん好きになっていき、どんどんiriしか聴けない時期がやってくる。そんなアーティストはめったに出会えるものでもなく、大抵はどこかで違和感を抱いたり好みでない作品が出てきたりするものだ。今作””PRIVATE“はやはりいままでのどんな作品よりも素晴らしく、過去を更新するものだった。PRIVATEと銘打つあたり、非常に内省的なものになっていると感じた。もともと自分の内側を言葉にするのに長けたアーティストではいたが、今作の冒頭の”Season”からやはりそれらは秀逸だった。前半のノリの良いリズムとビートとは対照的に後半は聴かせる曲が差し込まれていく。ポップミュージックはいい意味ではジャンルレスであったりテンポやリズムも楽器も自由である反面、節操がなく感じられたりすべてが中途半端に思えてしまうものも多い。その点、iriは唯一無二のボーカルセンスと声の持ち主なので、iri色を失うこともないし、正しくiriであることを逸脱しない。きちんとルールとマナーを守りつついろんなことに挑戦している。付け焼刃なことはしないし、自分の長所も短所もよく理解している。だからこそのバランス力だと思う。

2位 さらさ – Inner Ocean

一声聞けばさらさだとわかる声、アコースティックギターに合わせて始まる”朝”からこのアルバムはスタートするが、このチルな音楽と哀愁あふれるサウンドとさらさの刹那的なボーカルは私を虜にするのに十分すぎる条件が整っていた。シンプルな構成にシンプルな演奏陣。ごちゃごちゃとした装飾がないのも素晴らしいし、それでいて”火をつけて”のようなバンドとの相性も抜群。「慣れてはいけない気持ちに目を向ける」と歌う”火をつけて”は最も印象的でメッセージ性が強く感じられた。シャープな楽曲に温かいさらさのマッチはバンドサウンドでも打ち込みでもかわらない。一番のお気に入りは”Virgo”。もっともっと曲をたくさんリリースしてほしいしまず映像をたくさん観たいのでライブ映像とMVの大量生産を求めます。

1位 Homecomings – New Neighbors

日常を彩り、豊かに表現できることが彼らの強みであり、世間のイメージだったかもしれない。しかしそれはあくまで彼らの一面的な姿でしかない。作詞も担当するギターの福富は前作”MOVING DAYS”から社会的なメッセージを多分に含むように意識したという。社会がよくなるためには何が必要か、そにから導きされた答えは「優しさ」と「緩やかなつながり」だった。なにも突飛な回答ではないが、彼らなりにその答えへの導き方をひとつずつ丁寧に解きほぐしてくれる。”タンタンの冒険”から”最高に素晴らしいこと”まで様々な社会問題や差別問題を取り扱ったカルチャー文学からどん欲に考えを取り入れホムカミなりの言葉でアウトプットしてくれる。それは今作”New Neighbors”でも全く変わっていない。インタビューで「寂しさを手放さず、やさしさで戦う」と語っている。例えば”I care”のMVの概要欄では、ケアについての歌。ひとりを選んだとしても孤独であり続けることではなく、ばらばらなまま誰かと手を取り合うことができるやさしさの関係性をうたっていると書かれている。「相互に行き来し、ときに柔らかにかたちや距離を変えるケア。それは一つの連帯」と言い表すように、「なにを選んでもいいからね」「あらゆる色に花束を」「優しくひとりきりを知る」「あいまいさを撫でる光」「名前もない気持ち 恋と呼ばないね」と歌詞のあらゆるところにその気持ちが込められている。そこには否定や拒絶はなく、断定や分断といったものもない。クィアな視点は”US / アス”の「Neither alone nor just the two of us / We will continue to be allies / It doesn’t matter if it’s a small light for you / We, will continue to be allies」という語りが入るのでも明らかであり、そこがなにより彼らを信頼できる点だ。彼らの歌には星や窓、光、灯台といった言葉が何度も登場する。まるでそれは光そのものをあらわすというよりはより抽象的な意味の光、つまり希望に近いものを感じる。アライでいることは一つの連帯の形でもあるが当事者性は自身にはない。その暗く影を落とした部分はどうしても見えづらく、スルーしてしまうことも多々あるだろうが、だからこそHomecomingsは光があることを強調する。光になろうとはしておらず、そこの光に気づき共に目指そうとする。「分け断つ線なら超えていくから / 闇をまた照らして花束、未来まで」とうたうのは”Shadow Boxer”だが、それと同時に「ふと見上げた西日の向こう / テレビのなかの街がこわれている」(Elephant)と厳しい現実を直視するのも彼らなりの誠実さである。「正しくいたいとそう思うことは大切なことにちがいなくて」(euphoria / ユーフォリア)は彼らなりの信念に聞こえる。きのこ帝国を思い起こさせるようなヘビーな音楽性と唸るギター、リズム隊の跳ねる演奏は以前にもまして強くなっていて、バンドとしての強いこだわりと一つの到達点が感じられる大傑作。

 

まとめ

ということで全ての作品が出そろいました。いかがでしたでしょうか。今年で無事9回目の年間ベスト発表を(もうすぐ)無事に終えることができそうです。去年は個別のレビューが一切ないという個人的にふがいない年間ベストだったので、今年は稚拙ながら書けて良かった。いやほんとに。来年は10周年なのでなにか自分で自分を褒めたいですね、来年もやってたらですが!!ではよいお年を~。

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