いとこの子供に勉強を教えていたときのこと。中学三年のその子は性懲りも無く「勉強なんてやって何の意味になるん!」「これいつ使うん!」「大人になっても役立たんやん!」と喚くばかり。大人の皆さんならわかってくれるだろうが、ある程度必要な事だったと感じる部分もあるものだ。全部とは言わなくても、勉強にはいろんな意味がある。環境づくりとか集中力とかそう言った副次的な意味合いもある。

でもそれは子供には理解できないものだ。

私はこの質問をされた時によくする返し方がある。それは、日本の白地図を渡すのだ。そして、全都道府県埋めて。と言う。それだけ。

「どう?これなら将来に役立つよ」と言うと「別に覚えてなくてもググるし。行きたいところさえわかれば別にいいし」とゴネる。ゴネるから続けて「そりゃググれば出てくるけどググらないと出てこない大人がどんな目で見られるか想像できる?」と伝える。「ロクに都道府県言えない若者がテレビで晒されてモニター越しに芸能人に笑われるくらいの感じではあるよ?これ覚えるだけで直接役立つ。なんて素晴らしい勉強だね。これが君の望んでた勉強だよね。」と意地悪に言う。

まぁ本気でそこまで全部知ってないと大恥かくって訳でもないけど、私が伝えたかったのは、

自分が勉強したくないだけなのを世の中の仕組みのせいにしたり社会のせいにするのは良くないよ

ということ。

自分に不都合な出来事があった時に、勝手に社会にすり替えて話を進める事ってみんなやりがちだし、自分も油断するとしてしまう。

でもそれは自分の成長の妨げにもなるし、時には社会にとって良くない方向へ進む手助けになってしまうこともある。




自分の話をする。

去年からapple musicを使い始め、定額サービスの充実度に満足している。だがその一方で、まだ配信をしていないアーティストも多い。星野源やBUMP OF CHICKENや米津玄師やaikoやB’zといった面々だ。もちろんこれらのアーティストも好きなので、なるべく聴きたい。早く配信してほしい。これは私の願望。1000円払ってるのに聴けないアーティストがいるなんて、と思う。

となると不満の矛先は音楽業界になる。「2020年代に突入しようかという時代にいまだにサブスク解禁してないとか時代遅れすぎる!音楽業界の停滞を生んでいる!機会損失に気づくべき。前時代的!」と批判が始まる。「だからmusic fmなんかが蔓延るんだ!」と違法アプリへの苦言にも利用する。

でも待てよ、と。たしかに彼らが配信しないことの機会損失は間違いなくあるし、music fmのような違法無料アプリ蔓延の一因を担ってるかもしれない。でもそれはあくまで”かも”の話であり限定的な話である。

要するに私は今、「自分が聴きたいアーティストが聴けない不満を、社会のシステムの問題にすり替えている」可能性があるのだ。これでは私のいとこの子供とやっている事は変わらない。そんな事にふと気付く。

それに気付くと、世の中それで溢れている事も分かってくる。

素直に自分が嫌だ、嫌いだ、面倒だ、不愉快だ、と言えばいいのに、それが傲慢さやわがままに捉えられるのが嫌で、一見すごく正当に思える世の中の仕組みの問題点として指摘を始める。そこはすごく注意しないと、同じ悩みや不満を持つものはついつい同意してしまいがちだ。



2019年にピエール瀧がコカイン使用の容疑で逮捕、起訴された。その時に彼の所属するユニット、電気グルーヴのCDが回収され、楽曲の配信も停止された。そういったレコード会社の対応が多くの波紋を呼んだ。「作品に罪はない」というもので、その騒動の是非は各々で考えてもらえたらよいが、この考えは多くのミュージシャンや学者たちから支持を得た。


この一連の騒動は私個人の意見としても、そしてある程度は社会的な、文化的な正義としても認められる異議なのではないかと思うが、これが正しいかどうかはさておき、”文化的な意味合いからではなくて、単なる不都合からくる抗議ではない”と、はっきりと言えるかが自分に問いただしたいことである。
私は幸いにも(?)電気グルーヴのファンではなく、もちろん聴いてはいたが、聴けなくなったとしてもそれほどダメージは大きくない。なくてもまあ仕方がない、と言える程度に我慢できる。ただ、これが自分がファンのミュージシャンだったら。「これは私が好きだから気にくわないんじゃなくて、文化遺産としてよくないことだから!」と相手にちゃんと伝えることができるのだろうか。そんな不安がよぎる。「他の興味ないミュージシャンや俳優での事件でもちゃんと抗議するのか?」と問われてなんて返すのか。
その反論が正しさの問題ではなく、マインドの問題だ。自分としてはやっぱり身の潔白を証明してから適切に指摘したい。それがワガママの化身であってはならないと強く感じる。



Youtubeを見ていると、ワンコーラスしか流さないミュージシャンがいる。この時代にそんな前時代的なことをしている人がいるのかと驚く。もうなにもしなくてもちゃんとファンがついている一流ミュージシャンならともかく、大して知名度を獲得していなかったり、すこし人気に陰りが見えている人たちがそんなことしていると萎えてしまう。
でもこれも、タダで全部聴けないことへの不満を「ビジネス展開の失敗だ」と相手の過失に持っていくのは果たして正しいのだろうかと考えたりする。




そんなことばかりを考えてしまうと、何も言えなくなってしまうリスクはある。ワガママだって立派な世論だし、そうやって世の中は変わってきたのだからなんらおかしな事はない、という気持ちもある。
だけれど、いとこの子供にそう言ってしまった以上、自分も見直さないといけないなあと思う。

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