大阪のミナミのど真ん中に住んでおきながらこんなこと言うのは怒られるかもしれないが、なかなか目当てのアーティストが大阪でライブをしてくれない。東京でのイベント多すぎるだろ。と。まあ大阪なんで恵まれている方だ。ということでヒグチアイのライブにいってきた。
というまえに、まずちょっとどうでもいい話を。私はあまりライブに行かない。ライブに行かないのはライブに行きたいと思わせてくれるアーティストが少ないからだ。人によっては、実際に観てから判断したいという理由でとりあえず行く人も多いけど、私はしっかり好きになってからしかいかない。日本のアーティストで行きたいと思える人は本当に少ない。しかも仕事柄なかなか平日のライブにはいけないのでよりライブは慎重になる。年間通しても3回も行かない。日本人は。だからこそ今回のヒグチアイのライブは重い。大切な一回。
心斎橋まで自転車を走らせて、着いたのはClub Janus。入れば男性6割。年齢層も40代以上が多い。女性シンガーソングライターはだいたいこうなりがち、、と言ってみたけどそのうち自分もそうなるんだろうなと思うとやるせなくなる。きっと若い子たちに「きっも。あいつ若い子だから来てるだけのおっさんやんけ」という目で見られるのだろう。いやだなあ。悔しいぜ。とか思いつつ入場。いや、入場した時は「ドリンク600円ってどんな理屈やねん」だった。こちとら紙コップのコーラだぞ。600円て。
定時少し過ぎてから始まる。勢いのある新曲でどんどん熱くしていく。新しいアルバム「日々凛々」からは溢れんばかりの光と自分を徹底的に照らし出したスポットが重なって眩く光る。自分のことを歌にすることは簡単なようでそれを人に聞かせて売れるというのは難しい。センスもいるし深さも必要だし共感も必要。ヒグチアイはまさにそのどれもの絶妙な位置にいる。共感はするけど万人にするものではない。だから響くときは深く強く刻まれる。それがヒグチアイの強さ。おもしろさ。それが存分に出ていた。
過去作品からの楽曲も適度に交えたセットリストは飽きさせない。
ヒグチアイってすごく日本的だ。抱える悩みもマイノリティも日本人らしい。だから切なくなる。その弊害を受けてきた人だ。
結婚もしないで
親孝行もしないで
子供も作らないで
ただひたすらにわたしのしあわせは
だれにもさわれない
わたしのしあわせは
だれにもわたせない悲しい顔をしないで
かわいそうだと思わないで
コンビニの店員がちょっとやな感じで
その日一日ブルーになったり
そんな時に限って歯磨き粉
切れてるの忘れてたり今を生きることが
明日につながるから
なにも残せなくていい
ただ基礎は忘れるなよ
ラジオ体操みたい
きただけでもらえるハンコ
生きただけでもらえるハンコ
よく頑張りましたって押してほしいよ
独特な目線とミクロな視点がいい具合に交じってる。そして彼女は強く肯定しない。肯定しないけど諦めていない。ずっと幸せであろうとキラキラしている。端から見たらキラキラ要素はないかもしれないけど、ちゃんと聴けばキラキラしている。キラキラが目的になっているわけではなく、結果キラキラしている。どうにもならないことにも必死にもがいてあがいているので、キラキラしているように映る。だから好き。それが大事なんだ。
歳を取るとどうにも寛容的になってしまうし妥協的になってしまう。嫌なことあっても忘れてしまうし許してしまう。許してしまうから深く考えなくなるし悩まなくなる。少しずつ世の中が分かってきて自分で答えを見つけることができるようになると、誰かの力を借りずとも解決に向かうことができる。結果起きる現象は、歌詞に感動しない、という寂しい事実だ。だれのどんな発言も響かない。だから今話題の歌詞がアツいバンドやシンガーにはピンときていない。何がいいのかわからない。それはとても寂しいことだ。とはいえ、いないわけでもない。年に一度くらい歌詞にガツンとやられる時がある。まあそういうのは大抵心が弱っているときだが。それがヒグチアイだった。
どうにもこうにも行かなくなったときに、彼女の「備忘録」を聴いた。元々彼女のことは知っていたし、好きだった。歌詞も好きなタイプだった。だけれどここまで歌詞が響くことはなかった。
好きになってくれた人しか好きになれないのは
自分のこと好きになれないから
誰かと活きることを生きる意味にしてたんだ
理由つけて諦めて自分騙してたんだ
何も始めてない 何もやり遂げてないよな
1人になって気付く 孤独と夢はいつも共にあった
アツい。まっすぐすぎる。色々考えてきた四半世紀だったけど、この言葉を教えてくれたのは彼女だった。むき出しの感情とどストレートな盲点を突いてくる歌詞は衝撃的。
「天邪鬼でも高飛車でも愛してくれた人」に対して、「どうかどうか忘れないで」から「どうか元気でいてほしい」へと変わり、「どうか自分よ忘れるな」と言い聞かす。二度も。必ず最後は自分に言い聞かす。相手を想う上でそれを自分に戒める。それが当時の自分にどうしようもなく当てはまった。個人的なことなんだけれど、その時までずっと自分本位で生きてきたのに、この時になって初めて他者を想うことを覚えたときにこの歌詞だったから余計に響いた。歌詞ってそんなものだと思う。
低くて真っすぐに伸びていく声とそのマイノリティを噛み締めるように歌う歌詞がたまらなく好きだしもっと活躍してほしい。普段から洋楽ばかり聴いて(もちろん日本の音楽もたくさん聴くが)、ライブにも大して足も運ばなくて「もう心揺さぶられる人いないなあ」なんて思っていたけど、ヒグチアイは数少ない何とも言えない感情や人生観を言語化してくれる人だ。
とまあ大好きだけどあまり熱をこもって書けないのはまだ自分の中で彼女をどう表せばいいのかわかっていないから。一度聞いてみてほしいけど、この良さが伝わらなくたっていいや、とさえ思えてしまうほどに彼女への信頼感は揺るがない。でも、やっぱり売れてほしい。これ以上売れるビジョンがあまり見えないけれど、売れてほしい。みんなに話題にされてほしい。だからまず自分が話題にする。発信していく。200人程度の規模のワンマンじゃあ寂しすぎる。もっともっと売れてもっともっとみんなに大事にされるアーティストになってほしい。
とりあえず買おう。