おもしろいという評判を聞きつけて、でもなんとなくフライヤーを見る限り大したものでもないように思えて、期待半分、がっかりもしないように保険もかけながら劇場で観賞してきた。
元「乃木坂46」の伊藤万理華が主演を務め、時代劇オタクの女子高生が映画制作に挑む姿を、SF要素を織り交ぜながら描いた青春ストーリー。同じく伊藤主演のテレビドラマ「ガールはフレンド」を手がけた松本壮史監督が伊藤と再タッグを組み、長編映画初メガホンをとった。高校3年生ハダシは時代劇映画が大好きだが、所属する映画部で作るのはキラキラとした青春映画ばかり。自分の撮りたい時代劇がなかなか作れずくすぶっていたハダシの前に、武士役にぴったりの理想的な男子、凛太郎が現れる。彼との出会いに運命を感じたハダシは、幼なじみのビート板とブルーハワイを巻き込み、個性豊かなスタッフを集めて映画制作に乗り出す。文化祭での上映を目指して順調に制作を進めていくハダシたちだったが、実は凛太郎の正体は未来からタイムトラベルしてきた未来人で……。主人公ハダシを伊藤が演じるほか、凛太郎に金子大地、ビート板に河合優実、ブルーハワイに祷キララとフレッシュなキャストがそろった。
映画.comより
早い話、今年個人的にみた邦画の中で一番面白かった。
主演の伊藤万理華の役者としての開花ぶりもよかったし、わきを固める布陣もフレッシュでよかった。よくある青春ムービー、といえばそうなんだけど、そこにきちんと誰にでも理解できる(おいてけぼりにしない)メッセージと飽きさせないファンタジーが詰め込まれている。
また劇場公開されている…かな、ぎりぎりの時期にこの記事を公開するのですべてを公にすることは控えるが、語れる範囲で感想を語りたい。
まずはメインの三人組、良いバランスの三人であると同時に、セリフの言葉遣いからもしっかり役作りが作りこまれていることがわかる。「だぜ」「だよな」というのは、時代劇が大好きで甘いメロドラマをよく思っていない彼女たちにはふさわしい言葉遣いのように感じた。
オタク、といえばやっぱり男子の特権にも思えるが(圧倒的に描かれるのは男性だ)、そこにどこにでもいる女子高生がああでもないこうでもないと語り合うシーンは新鮮だし、うれしかった。
この映画は単なる青春ムービーではないというのは、ひとつの大きな展開にファンタジーが埋め込まれていて、それを軸に話は進む。しかしそこに対する細かな矛盾や強引さはなく、あっさりと不必要な微調整は気にしないで他に時間を割いているのも楽しめた理由だし、だからといって無茶苦茶するわけでもなく、脚本もすごく親切だった。
映画というものの答えについて考える映画。オチは。ライバルとは。別れとは。10代の感性でそれについて悩み、主人公は映画を作り直そうとする。でもそれは同時にこの映画を監督した松本壮史の悩みでもあるように感じた。長編作品初となる今作で、その問いに対する答えを作中で出したのではないだろうか。そんな考えがよぎるほどに熱量がすさまじく、作りがいのある映画だと感じた。
ただひとつ期待していたのとちがったのは、主人公たちが資金集めのために引っ越しのバイトをはじめるのだが、板橋駿谷がその際にあのサカイのCMのパロディをしなかった(できなかった)ことだ。あそこまで壮絶に振って、そして今回の板橋駿谷ももちろんあの熱い男と同様の熱さを持った男子高校生役を演じているのだから、てっきりなにかしらやるために引っ越しのシーンを盛り込んだのだと思っていたが、結局特に何もなかった。ちょっと勝手すぎるなと自分で反省する。
話は戻って、映画の主題歌はCody・Lee(李)。昨年のアルバム「生活のニュース」で彼らを知り、フジファブリックのような、くるりのような、そんな日本語の心地よさを系譜するとても美しいバンドが現れたなと注目していたが、今回の「異星人と熱帯夜」はあまりに作風とフィットしていた。美しく、切なく、ダンサブル。MVでの伊藤万理華の躍動感も素敵で、今年の映画主題歌ナンバーワンは決まったかな、と思うほど。是非そこにも注目してほしい。
わかりやすいストーリー展開、丁寧な伏線、きれいなオチ。だれもが気軽に楽しめる映画です。