公開初日からツイッターで大ひんしゅくを買い、ボロカスに叩かれていた本映画。トレンドに上っているのは知っていたが、翌日観に行くことが決まっていたので、ネタバレを避けるためにその内容を見ずに映画館へ向かった。鑑賞後、そのトレンドが阿鼻叫喚のワードが並んでいたことに気づき、自分はとんでもない作品を見たことに気づいた。

ドラマ「時効警察」シリーズの三木聡監督が「Hey! Say! JUMP」の山田涼介を主演に迎え、巨大怪獣の死体処理を題材に描いた空想特撮エンタテインメント。人類を恐怖に陥れた巨大怪獣が、ある日突然死んだ。国民が歓喜に沸く一方で、残された死体は徐々に腐敗・膨張が進んでいく。このままでは爆発し、一大事を招いてしまう。そんな状況下で死体処理を任されたのは、軍でも警察でもなく、3年前に姿を消した特務隊員・帯刀アラタだった。アラタとはかつて特務隊で同僚だった環境大臣秘書・雨音ユキノを土屋太鳳、ユキノの夫で総理秘書官の正彦を濱田岳、爆破処理のプロ・ブルースをオダギリジョー、未曾有の事態に翻弄される総理大臣・西大立目完を西田敏行が演じる。「平成ゴジラ」シリーズや「ウルトラマン」シリーズの若狭新一が怪獣造形を担当。

映画.comより

監督の三木聡は「時効警察」とか「インスタント沼」とか、個人的には大好きな作品を多く手掛けている人。これは私のミスだが、この作品を手掛けているのが彼だと知らずに見に行った。もし事前に三木聡の作品だと知っていたらもう少し、いや大幅にこの映画の評価は変わっていただろう。

以降、大きなネタバレはないもの、映画の概要や方向性などが語られています。

冒頭、あの忌々しい緊急警報音がけたたましくスクリーンから流れ、非常に不安な気持ち(と同時に胸が苦しくなるような、かなりキツイ気持ち)になりながら始まる本作。予告編を見て期待していたのは「鋭い切り口」「政治のドタバタ劇」といったシンゴジラっぽい作品だった。予告編で責任を擦り付けあう政治家たちを見て、やはりこういうSFを現実にあてはめた疑似リアリティは柳田理科雄の「空想科学読本」を愛読していた私にとってワクワクせざるを得ないものだった。

しかしふたを開けてみれば「鼻毛」だの「セックス」だの「うんことゲロ」だの「キノコかちんこか」をじっとりとやりとりしつづける奇々怪々な作品だった。それもそう、三木聡の作品はそのマイペースさがおもしろいからだ。三谷幸喜や宮藤官九郎のようなアップテンポな爆速コメディも大変おもしろいが、「時効警察」にみられるような、日本語の響きを最大限に生かし、たっぷり間を取って最後までしっかりしゃべらせてから「・・・え?」みたいな突っ込みを入れる。そして理解ができないよといった顔したキャラクターがそれをしばらく考え込んだり復唱したり顔芸をしたりとその後もじっくり後までひっぱるのが三木聡流の笑いだ。例えば「時効警察」の6話で吉高由里子が「うすうすですよね」といい、麻生久美子と「うすうす」の言葉のやり取りをおこなう。こうした、何気ない日本語を”じっくり聞いてみたらなんかおもしろいね”という視点が「時効警察」のおもしろさである。また、1話でも主人公であるオダギリジョーが「日曜日に眼鏡をかけるなんて、イギリス人じゃないんだから」という謎のたとえが出てきて、それに困惑する一応常識人の麻生久美子が描かれるが、「大怪獣のあとしまつ」でもそういった謎のたとえが出てきて、「どういうこと?」困惑するシーンが多々登場する。というかずっとその調子である。

つまりは求めているあの疑似リアリティのポリティカルな映画は一切なく、三木聡の深夜ドラマのノリが延々と続く。そりゃもうひどいと思ってしまうのを責められるほうが気の毒だ。下ネタを繰り返すのも悪くはないが、2000円弱支払って2時間も拘束させられているのにまったりと(しかも全く賢くなさそうなセリフを)だらだらと会話しているのを聞かされるのははっきり言って地獄だ。「時効警察」は深夜にぼーっとみるから面白かった、あるいは当時自分は15,6歳だったからおもしろかった。ちょっとさすがに全身キノコまみれの人間の唯一露出したちんこを見て西田敏行が「このきのこだけ種類が違うのなんで?」と聞いちゃうのはキツイ。あんなに落ち武者が面白かった西田敏行もさすがにキツイ。

まじめな土屋太鳳と山田涼介が救いの映画だが、無防備で怪獣に近づき体をつついて体液を浴びるというリスクヘッジもくそったれもないど素人みたいな致命的なミスを犯すシーンは失笑。つい最近ドラマの「DCU」で中村アンが公務員とは思えない国家間問題にも発展しかねない暴走ぶりで見事犯人の船に無防備で上陸し刺殺されてしまうおバカっぷりを見たところだったので、それを思い出してしまう。撮りたい画があるのは理解できるが、そのために強引に無茶苦茶な設定やキャラクターの行動を作ってしまうのは、演劇に携わる人間として致命的なミスではないだろうか。。。。

ほかにも、というかたくさんダメポイントがありすぎて困る。特に特撮映画が好きというわけでもない私なので(過去のレビューなどみていただければわかる通り、基本ヒューマンドラマが好きだ)、特撮好きとして許せない点があるとかそういった内容ではない。むしろCG自体は全く違和感がなかったしよく描けていた。ただもうキャストとCG以外が見るに堪えなかったということだ。

まず山田涼介の相棒的な存在のスナイパーにSUMIREが抜擢されていた。これがまた輪をかけて、というか、素晴らしい役者そろい踏みの中で群を抜いてひどかった。まるで専門大学生の自主製作映画にノーギャラで呼ばれた女子大生みたいな言動で、すべての作画を崩壊させていく。山田涼介が渾身の演技をしても、彼女が大怪獣より質の悪い立ち振る舞いで破壊する。

次に菊地凛子がパシフィックリムさながらでシンゴジラの作戦を決行しようとするやべえ奴として登場するが、秒で消える。この映画はそそういった作品もいじってやろうというつもりだったのだが、はっきり言って人様の映画をいじれるほどの立派な映画じゃない。

オダギリジョーは土屋太鳳の兄として登場するが、それが兄弟である合理的な理由も、死んだ母親の存在も意味不明で、いったい何が言いたかったのかわからず。こういった類にありがちな、主人公の身内で国動かしすぎ問題はここでも露呈している(サマーウォーズなどがいい例だろう)。

ラストはまあもう早く終わってくれと祈っていたのでどうでもよくて、ただ確実に言えるのは、あのラストは三木聡からの挑発だということ。「はいおまえらの1時間55分は意味ありませんでしたー--!!!」と言われているような、夢オチに匹敵する悪質なエンディング。これがピュアでバカな素人監督なら「それやっちゃだめって気づかなかったのか!」と叱責もできようが、三木聡大先生が無自覚にあのラストを描くはずがない。確実に嫌がらせだ。私のように祈りながら早く終われと願った人間を最後の最後におちょくっているのだ。「どうせこの映画悪く言うんだろ!だったら最後にこちらから仕返しだ!!」と言わんばかりの。とにかく頭を抱える。

長いロングコート(だったか)をビラビラさせながらバイクにまたがる土屋太鳳に「ああ!!からまる!!!!」と無用な危機感を抱かせ、ミサイルをSUMIREが遠距離から撃ち落とすおったまげシーンに顎が外れ、韓国をバカにしているようでハングルでも韓国語でもないなにかを話させて韓国であることをはぐらかすチキンっぷりに「それは揶揄になってないよ」とがっくりした。

大体あの薄暗いエヴァンゲリオンみたいな部屋で行われる閣議はなんなんだという疑問と、特務隊の層の薄さ、土屋太鳳と濱田岳の夫婦間の溝の放置とオチなき不倫、ガバガバ科学、いらん五秒カーチェイス、各キャラの行動原理の意味不明さ、未確認の菌糸を示す資料のペラペラぷり、政治家が誰一人としてまともな話し方もせず高学歴の片りんも見せない中学生みたいな語彙力の応酬、そしてつば付きの帽子をかぶった笹野高史の顔面に付着するものすごい角度からやってくる鳥の糞(見間違いだったらアレだけど)。どれをとっても頭を抱えずにはいられない。あとオダギリジョーが重体で入院した病院が、第一次世界大戦下の野戦病院かと見間違うくらいにぼろぼろの木造建築の蛍光灯一つない建造物で、いったいこの国はいつの間にほろんだのかとびっくりしてしまった。あれが最もひどいシーンだった。

3.11の原発事故をほうふつとさせる描写も、コロナによる緊急事態宣言や「新しい日常」に対する違和感を表明するシーンも挟み、社会風刺も盛り込まれているがそれはほんのごくわずかで、結局なにも語られないし、なににも糾弾できていない。コメディは人を笑わせるだけでなく、権力に痛烈なビンタを食らわせることのできる表現者の最大の武器だ。三木聡がそのような作家性を持っていないことは理解しても、じゃあちょこっとだけかいつままれるのは消化不良を起こすだけなのでゼロか百かで決めてほしかった。

ただ、いつも存在が薄い環境省があっと言わせてやろうと自分たちで安全宣言を進んで立証しようとしたり、あとしまつの方法を練りだし実行しようとする様はたしかに面白い。そういった省同士のいがみあいやくだらないプライドの争いはもっともっと描けてもよかったし、背負い投げをしてかたを付けるみたいな視覚的な表現ではなく、もっと内面的なやりかたですかっとさせてほしかった部分はある。

以上が私の感想だ。これはだれかが「つまらない」といったから「令和のデビルマン」と茶化したから乗っかって書いているわけではない。純然たる感想文。何度も言うが、期待したジャンルが違ったのだ。そして1900円という価値を間違えたのだ。これが平日の深夜の地上波だったらきっと笑っていた。でもこれは貴重な休日の2時間を1900円で売り飛ばした見返りなのだ。去年「亜人」を見たときよりも酷い悪酔いを覚えながら、座席を立った時に床にまき散らしたポップコーンの数がその情緒の起伏を物語っていた。