1980年代のイギリスを舞台に、パキスタン移民の少年がブルース・スプリングスティーンの音楽に影響を受けながら成長していく姿を描いた青春音楽ドラマ。87年、イギリスの田舎町ルートン。音楽好きなパキスタン系の高校生ジャベドは、閉鎖的な町の中で受ける人種差別や、保守的な親から価値観を押し付けられることに鬱屈とした思いを抱えていた。しかしある日、ブルース・スプリングスティーンの音楽を知ったことをきっかけに、彼の人生は変わり始める。出演は「キャプテン・アメリカ」シリーズのヘイリー・アトウェル、「1917 命をかけた伝令」のディーン=チャールズ・チャップマン。監督は「ベッカムに恋して」のグリンダ・チャーダ。
映画.comより
ブルース・スプリングスティーンは知らなくても、彼がどういうメッセージを誰に向けて発していたのかうかがい知ることのできる、ブルース布教ムービー。
パキスタンの人種がゆえにひどい差別を受け、父親自身も自分の人種に固執し、イングランド人にはなれないと悟る。不況に煽られ解雇され無職となった父親と息子(主人公)の溝は深まるばかり。「この街を飛び出したい」「詩人になりたい」そう思うのとは裏腹に、パキスタン人がイングランドで待ち受ける厳しい現実を知るからこそ父親は反対する。主人公ジャベドを演じるビベイク・カルラの気弱そうで優しそうな、でも強い信念と情熱のある役をうまく演じていて、ブルースの音楽とともにその情熱が開花していく変化はこの映画の見どころ。特にブルースとの最初の出会いとなるシーンはミュージカルさながらの演出で、ハイライトでもある。
時代上、カセットテープがブルースの出会いとなるが、今カセットテープブームが静かな再ブームを迎えているとかいないとか、そんな話は数年前からちらほら出ている。まあかなり特殊な、ハイセンスなブームで、東京の下北沢ならともかく、地方都市のイオンでそんなことが起きているはずもなく、やはり多くの若者にとってカセットテープは新鮮に映るに違いない。私は幼少期はカセットを使っていた最後の世代なので(小学生高学年くらいになるとMDに切り替わった気がする)、カセットの質感とかはよくわかる。さすがにカセットテーププレーヤーを肩にかけて持ち歩いたことはないが。
この映画の救いは、友人のマット(ディーン=チャールズ・チャップマン)とその父(ロブ・ブライドン)、恋人のイライザ(ネル・ウィリアムズ)、隣人の紳士やいろいろと背中を押してくれた教師らメインキャラクターがジャベドらパキスタン移民にたいして一切人種差別的思想を持っていなかったことだ。当然、それ以外はひどい差別っぷりで、80年代イギリスの時代の雰囲気がわかる。
音楽は当然ブルースの楽曲がふんだんに使われているので、オリジナルサウンドトラックのリンクを貼っておくが、なかでも「Dancing In the Dark」はとても印象的だった。
Bruce Springsteen – Dancing In the Dark