芥川賞作家・平野啓一郎の同名ベストセラーを「蜜蜂と遠雷」「愚行録」の石川慶監督が映画化し、妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝が共演したヒューマンミステリー。

弁護士の城戸は、かつての依頼者・里枝から、亡くなった夫・大祐の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。里枝は離婚を経験後に子どもを連れて故郷へ帰り、やがて出会った大祐と再婚、新たに生まれた子どもと4人で幸せな家庭を築いていたが、大祐は不慮の事故で帰らぬ人となった。ところが、長年疎遠になっていた大祐の兄が、遺影に写っているのは大祐ではないと話したことから、愛したはずの夫が全くの別人だったことが判明したのだ。城戸は男の正体を追う中で様々な人物と出会い、驚くべき真実に近づいていく。

弁護士・城戸を妻夫木、依頼者・里枝を安藤、里枝の亡き夫・大祐を窪田が演じた。第46回日本アカデミー賞では最優秀作品賞を含む同年度最多の8部門(ほか最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞、最優秀助演女優賞、最優秀録音賞、最優秀編集賞)を受賞した。

映画.comより

なんだか今年見た「怪物」を彷彿とさせるようなミステリーさ、構成。もちろんこっちの方が公開が先だし真似しているとかそういうことが言いたいわけではない(し、そもそも別に似ているわけではない)。

安藤サクラが母親役でこの映画のミステリーのトリガーになっているという点が類似しているだけかもしれないが、真相を追い求める弁護士の妻夫木聡は言うまでもなく最高。そして過剰なまでに役柄が乗っかってる柄本明。ちょっとふざけてるのかってくらいに、まるでジョーカーさながらの。もはや日本のホアキンフェニックスじゃん!

結構問題は根深くて、差別やヘイトクライムという社会問題を分かりやすく挿入してくる。まあそこまで真剣にその問題について考えている感じもなくて、なんか結局窪田正孝ヒストリーに涙ポロリって感じで、社会派なイメージは受けなかった。社会派って名乗ってないんだけれど。あそこまでわざとらしく入れてきたらね、もうちょっと期待した。

妻の真木よう子が絶妙に鈍感な悪妻と夫想いの優しい人とを行き来していて評価に困るところはよかったし、監督の石川慶のアート性が高い映像描写は最近邦画で見てなかったなあと思った。この方の作品は愚行録以来で、こんなにアート色強かったっけ?と思い出だそうとしたくらい。べっとりついた手あか、真っ暗なテレビ画面に映る顔。最初と最後に映る絵画。他にも一切飼っている魚の名前を覚えられない妻夫木とかきっといろんなところにちりばめられたものがあるんだろうなあと。

息子の葛藤もしっかり描かれている中で、親子できちんと対話がされているのは非常に良かった。

ただ、これをいったら身もふたもないんだけど、窪田正孝は絶対にセラピストに診てもらった方がいい。PTSD抱えているし、完全に心が壊れている。アメリカはすぐにカウンセリングという手段があるから大抵トラウマを抱えているキャラクターはセラピストにかかっている(まあ映画の展開上そのセラピーはあまり意味をなさないことが多いんだけれど)。日本の映画でトラウマを抱えているキャラクターは本当にたくさんいるけどみんな自分で抱えている。こういうところから日本のセラピー文化の希薄さ、医者にかかることは恥ずかしい、弱い、負け、という負のイメージが強い根性論文化ならではだなあと思う。