ムーンライトが男の愛情を描いたものならば、キャロルは女の愛をしっとりと描いた作品である。

1952年ニューヨーク、クリスマスを間近に控えて街は活気づき、誰もがクリスマスに心ときめかせている。マンハッタンにある高級百貨店フランケンバーグのおもちゃ売り場でアルバイトとして働く若きテレーズ・ベリベット(ルーニー・マーラ)。フォトグラファーに憧れてカメラを持ち歩き、恋人のリチャード(ジェイク・レイシー)から結婚を迫られてはいるが、それでも充実感を得られず何となく毎日を過ごしていた。
そんなある日、おもちゃ売り場にキャロル・エアード(ケイト・ブランシェット)が4歳の娘リンディへのクリスマスプレゼントを探しに訪れた。テレーズはエレガントで美しく魅力的なキャロルから目を離すことができなかった。キャロルもその視線に気づいた。そのままキャロルの応対をするテレーズはプレゼントを一緒に選び、イブまでに届くように手配をした。その際キャロルが手袋を忘れていってしまう。テレーズはすぐに手袋を自宅へと郵送した。するとキャロルから百貨店に電話がかかってくる。
御礼にとランチに誘われたテレーズは、翌日、キャロルに指定されたレストランで初めて話をして向きあう。愛のない打算的な結婚生活を送っていたキャロルは離婚することが決まっているという。その週末、郊外のニュージャージーにあるキャロルの屋敷に招待され楽しい時間を過ごしていると、突然別居中の夫ハージ(カイル・チャンドラー)が帰宅する。クリスマスイブにリンディを迎えに来るはずたったのが日程を早めて来たのだ。
そこで争いになる二人。無理矢理キャロルも連れていこうとするハージだが、頑なに拒絶をするキャロル。離婚の意思は変わらない。ついテレーズに八つ当たりをしてしまったキャロル。険悪な雰囲気のなか、泣きながら家に戻るテレーズ。すると、ちょうどキャロルからの電話が鳴った。謝るキャロルはテレーズのアパートを訪れる約束をして電話を切った。
翌日、弁護士に呼び出されたキャロル。離婚したくないハージは、リンディの共同親権から単独親権へと変更し申し立てをしてきた。
キャロルと親友のアビー(サラ・ポールソン)との親友以上の親密さやテレーズとの関係を理由にして、母親としての適性に欠けるという口実で、ハージの元に戻らなければ二度とリンディには会わせないと脅してきているのだ。審問まで当分の間は娘とは会うことを禁止されてしまうキャロル。その夜、クリスマスプレゼントの高価なカメラを手にテレーズのアパートを訪れた。そして魅かれあうふたりは、心に正直に生きようとして、思いつくまま西へと向かう旅に出るのだが──。

この時代性もある。世間の目もある。旦那と離婚することになり親権まで奪われそうになるキャロルと彼との心の溝を感じてしまうテレーズ。そんな二人が互いにゆっくりと距離を近づけていくその機微はまさに芸術レベル。所作も、映像も全てが綺麗で、じっくりと見入ってしまった。電話しそうでしないキャロルも、言いかけてやめるテレーズも、とても繊細で切ないレズの愛。後半の面白いところになるので詳しくは言えないが、一度離れ離れになってからの二人の葛藤は傑作。

私自身レズには興味ないのだが、この二人のベッドシーンにはドキッとした。でもエロいとかそういう類のものでもない新種の興奮。

とにかく彼女たちにはちゃんとストーリーがあってオチがある。お互い元の生活に戻りました~なんてことじゃなくて、ちゃんと前に進んでる。だからあのラストにはグッとくる。あのまなざし。あのほほえみ。確信犯的な。も二人はもちろん、この映画を撮った監督もね。あの最後は渾身のオチ。ストーリーがいいねっていう褒め言葉はこの映画にこそ使いたい。

ドラゴンタトゥーの女を演じた人とは思えないくらいガラッと変わったルーニマーラとマダムの香りムンムンのケイトブランシェットの二人は最高の抜擢。こんなきれいで切なくて愛おしい映画もあまりない。大絶賛。大好き。
ぜひ見てほしい

キャロル(字幕版)

huluなら2週間タダで見放題です。下記からどうぞ。