紅白のステージに立たない福山

福山雅治は現場に来ない。それがどんな大きな仕事であろうと必ず彼はどこかで単独ライブを行っているからだ。
2010年に執り行われた第六十一回NHK紅白歌合戦以来、2017年まで8年連続で福山は中継で出演している。福山は毎年年末に「福山☆冬の大感謝祭」を行っているのでどうしても会場にはいくことができないからだ。それならもう紅白にでなけりゃいいのに、というのはおそらく野暮なんだろうし、どうせNHK側が「中継でもいいんででてください!」って言ってるからこんな茶番が何年も続いているのだろう。もう紅白側に何の威厳もない。福山の意のままである。


DHC福山

福山雅治はとにかく安全だ。それなりに下ネタをたくさん言うのでなおさら安心感が増す。すべてが潔白だと過剰に持ち上げられる商品より、デメリットをきちんと伝えられる商品の方が安心できるのと同じ性質だ。だから、どんなアンケートでもとりあえず福山雅治を持ち出せば問題ない。だからあらゆるアンケートで彼の名前が散見される。いや、散見される、というレベルではない。キムタクか福山か、世の中の女性はその二択に絞られた。本当はどうだっていいし、大して意味を持たないアンケートに無難に答えるには下ネタを適度に放ちながら独身(当時)でイケメンで高収入という目立った欠点のない彼の名を挙げることはこれほどない安心感と妥当感を与える。
「落ち込んだ時そばにいてほしい癒し系有名人」
「2010年を振り返って「ありがとう!」と感謝したい有名人」
「来世男に生まれ変わるとしたら誰になりたい?」
「声にほれる❤ええ声な有名人」
「混浴したい❤男性有名人」
「この人ともう一度人生をやり直したい!有名人」
「3歩下がってついていきたい有名人(2位)」
「‘06 カッコイイ男性アーティスト」
「好きな男性俳優(2位)」
「結婚してショックだった男性有名人10」
「アラフィフと聞いて驚く男性(4位)」
「恋人にしたい男性」
「正直男が惚れる男性芸能人」
「“なりたい顔”だと思う男性有名人」
「「高い鼻」が美しい男性芸能人(2位)」
「バレンタインにお菓子を作ってあげたいと思う芸能人」
「同性に好かれる男子」
「最も美しい日本人有名人」
「なんでも相談できそうなパートナー」
「全く劣化していない! 若さを保っていると思う有名人」
「来期のドラマで見たい芸能人」
「抱き枕になってほしい芸能人は?」
「同僚にしたい男」
「憂鬱な朝に起こしてほしい男性有名人」
「飲みデートしたい男性芸能人(2位)」
「最も“生き方が格好いいと思うのは?」
「応援して欲しい人・キャラクター」
「あなたがチョコをあげたい芸能人は!?」
「自分の子供の嫁・婿にしたい有名人」
「一緒に温泉に入りたい有名人」
「イケメンだと思う男優」
「キスしたい芸能人」
「父親になってほしい俳優(2位)」
「メガネが似合う有名人」
「笑顔で写真撮影OKしてくれそうなタレント(2位)」
「逆チョコされたい芸能人(3位)」
「ラーメンを食べる姿がカッコよすぎる芸能人(2位)」
「カメラが似合う芸能人」
「クリスマスを一緒に過ごしてみたい有名人」
「結婚のお世話をしたい芸能人」
「この春、お花見に呼びたい芸能人(4位)」
「交際ゼロ日でもプロポーズされたい(5位)」
「一目惚れして欲しい男性タレント(5位)」
「注目している有名人2013(6位)」
「入れ替わりたい有名人ランキング2017(2位)」
「飲みデートに誘われたい芸能人」

 

 

 

 

ラーメンは関係ないだろ

 

 

 

 

ファンをBROSと呼び、年に何十回もライブを行い、男性も女性も大切にし続ける。そしてなにより福山はファンの求めている物をよくわかっている。
変人か?と質問されたインタビューでは

細かいとかよく言われます。自分ではベストと思ってやっているんですが
   シャワーを浴びた後にT字ワイパーでぜんぶ水滴をとってから出ます

   浴び終わった後全裸で

と答える。この行間は会話の間と考えてよいだろう。ここにきちんと付け加える彼のしたたかさに男の私もうっとりだ。
彼は自分のブランドを決して下げない。下げかねない要因はたくさんあっても、決して引き金にはならない。それは自分のハードルを最大限に下げているから。エロも言える男に自分で下げておけば多少何があっても彼の低いハードルを潜り抜けることは起きないからだ。
つまりこんなことが起きる。

【アンケート】福山雅治にならセクハラされてもOKですか?
はい=171人
いいえ=250人
(総回答数421人)
(messyより引用)

セクハラされてもOKなのはもちろん男前だからである。でもそこで思考停止してはいけない。木村拓哉ならそれで構わないが、福山には可視化されていない”低いハードル”が用意されているのだ。普段からセクハラまがいな下ネタを多発しておくと「まあこれくらいのことなら福山はしてもおかしくないだろう」という謎の妥協が設けられていることに気付く。

許される男、福山

男前だから紅白が中継でも許される福山と、男前なのにエロいからセクハラが許される福山。ブランドは下げずにハードルは下げる。しかもそれは「男なんだから多少はそうだよね」という所に落とされる。返しの弁がついているので上がることはできてもそれ以上に下げることはできない。男だからその辺はあり得る、でしかない。攻めているようでちっとも攻めていない。それは男前と福山雅治というパワーを利用した大げさなイリュージョン紛いみたいなもの。仕掛けは大きいが大した難易度ではない。人によっては高難度かもしれないが彼には返しの弁がついている。何をやったってソコを下回らない。ならあの自由な発言も「俺なら大丈夫」があるのだろう。思えば大みそかに単独ライブを開催してなお紅白歌合戦にも出るというわがままだって「俺なら大丈夫」が付きまとっている。「俺なら大丈夫」が透けて見える人間の行動は少し苦手だ。悪いことではないのは承知しているが、感触としては自信よりも驕(おご)りに近い。しかもそれは忖度される。向こうが「俺なら大丈夫」と近寄ってきたら「大丈夫と思われているから応えなければ」と積極的に出迎えようとする。




んーー苦手だ。

やっぱり紅白にはちゃんと来てほしいし、自分の利益になるイベントは行うけど紅白は手放さないというスタンスは好きじゃない。
そして「俺なら大丈夫」で軽く下ネタを発言して笑っててほしくない。汚れたふりしてその弁に驕ってほしくない。それを受け止める私もなんか嫌い。”ましゃロス”という言葉がどこからともなく聞こえてくると、いるのかいないのかわからないエピソードが一緒になってついてくる。上述のランキングと同じように、「それってほんまけ?」って思いたくなるけど「福山雅治やで、だって」って言われたらもう言い返せない。うん、難しい。

音楽に独自性が無くても、なんだかよくわからない冗長なバラードを歌っても地位はゆるがないし1位からは陥落しない。それはひとえに彼の努力のたまものであるし、それ自体を非難するつもりはない。でもそれを「俺なら大丈夫」に変換してそれなりそれとなくステージをこなして両方を手に入れようとする姿勢をありがたく頂戴するようなシステムに飲み込まれそうになってハッとなってまた福山雅治というイケメンに思い悩まされるのだ。