2010年代後半、川上洋平率いる[Alexandros](当時[Champagne])と名乗るバンドが、ロックシーンに颯爽と誕生した。彼らはUKロックを下敷きとしたスタイリッシュでモダンな音楽でシーンの最前線に躍り出た。彼らの音楽性はもちろんのことそのルックやファッションも後々の邦ロックシーンに大きな影響を与えたことは説明するまでもないだろう。

彼らの特徴として衣装はすべて自前であるということは有名な話である。毎回テレビに出演する際、ファッショナブルで個性的な衣装を身にまとっている。特に元ドラマーの”サトヤス”こと庄村聡泰は個性的な衣装でファンを魅了している。おもえば当時、そこまでファッションが個性的な(衣装的な意味合いではなく)ロックバンドはあまりいなかったようにも思う。ロックといえばTシャツと黒のパンツというイメージが強かったし、事実それが多かったが、彼らはそうではなかった。ジャケットを羽織りアクセサリーをつけ音楽性だけでなくヴィジュアルとしての完成度も他の同世代のバンドを圧倒していた。

昔のバンドマンたちが決してダサかった、オシャレには気を遣っていなかったわけではない。ただメディア出演する際の当時のロックバンドは無難でマス向けの最適化された衣装を自発的か強制的か、着用していた。ロックの定義や解釈自体も当時と今では異なっているだろうし、一概に昔がダサいとか今がかっこいいとかは言えないが、シンプルかつカジュアルが00年代のロックバンドの価値観だとしたら、10年代はもっとゴージャスでバラエティ豊かな衣装を身にまとっているといえる。そして[Alexandoros]がこの流れを生んだ一組だと思っている。

時は流れ2010年代後半、縦ノリ文化は終焉し、シティポップを筆頭した横ノリ文化が定着し始めるとバンドマンのファッションの方向性にも変化が見え始める。2015年以降の横ノリ・シティポップブームにはsuchmosの存在がある。彼らはまるで東京の古着屋から出てきたような佇まいでハイセンスかつファッショナブルなスタイルで紅白にまで出場した。また常田大希を筆頭とするKing Gnuやmillennium paradeも非常に個性的な存在である。

そうした彼らの登場は必然的に[Alexandros]のファッション性を良い意味で薄めることとなった気がする。10年代前半では特異点だった彼らのファッションも、今では当たり前のこととなりつつある。星野源もしかりあいみょんもファッションアイコンとしての機能を果たす。バンドに限らずメディア出演するミュージシャンが軒並み自分を表現するための表現としてファッションが選ばれている。無難でプロが選んだしっかりとした正装ではなく、その人の個性がきちんと映し出された「おしゃれ」である。

個性的なファッションといえばRADWIMPSの野田洋次郎もその一人だといえるだろう。彼が与えた若者へのファッションへの影響は大きい。かれのファッションセンスはフォロワーを多く生み、彼の格好をまねする若者も続出した。シンプルなコーデが多かった邦ロックに彼はスカートやハイカットブーツなどジェンダーレスな装いで個性を強調した。かれらはまた[Alexandros]とは違ったルートでロックとファッションの関係を変化させていった。

いまやファッションは自分を表すひとつのツールとして定着し、着させられたものより、着たいものを着る人が多くなった。イケメンの俳優が優しい色のカーディガンを着るのではなく、ときにはジャージで、ときにはヴィンテージのジャケットで登場し、長髪でも坊主でも、変化自在に個性を楽しむ芸能人が増えている傾向はすごく観ていて楽しいものだ。例えばどうしてもキャラ付の要素が多く自由な服装がすくなかった女性芸人の中でも、3時のヒロインの福田麻貴やヒコロヒーなどは決して表層的な女性芸人を演じず、いつも自分が輝く衣装やメイクでテレビで活躍している。

音楽界にしろ、芸能界にしろ、そういった自由な服装の風潮は、なかなか世の中がマイノリティやジェンダーに鈍い動きの中で、うれしい動向だと思っている。