SONIC MANIA。幕張メッセでオールナイトでおこなわれる”サマソニ前夜祭”的な位置づけのイベント。前夜祭と言っても出演アーティストはサマソニ本番と遜色のないビッグアーティストばかり。夜型室内イベントならではのDJアクトがそろい踏みで(ステージによってはずっとDJばかりというのもある)、幕張メッセは巨大クラブハウスと化し、朝まで躍らせ、そしてそのままサマソニへとバトンを繋ぐ。

私自身一度もソニマニには行ったことがなかった。それは東京(正確には千葉)と大阪という距離感、サマソニ大阪に足しげく通い続けていてスケジュール的に難しいという問題もあった。ただなぜ今年いけたかというと、サマソニ大阪をあきらめたから。8月18日金曜日から土曜の朝まで踊ることだけに集中し、今年の8月19日と20日に行われるサマソニ大阪および東京はあきらめようと。そう確信していた。

もったいぶらず結論から言えば、サマソニ大阪には行った。しかも土曜日に行った。行かないつもりだったけど、ケンドリックラマーを観ないで終わる夏というものに納得がいっていなかった。そして「土曜の朝まで踊ってそのままとんぼ返りして大阪に参加することって意外と出来んじゃね?」というマインドが生まれた。どうしてそんな馬鹿なことを思いついたのかは自分でもわからないが、思いついた。だから、今年は、初・ソニマニ&サマソニということになる。結果、最高だった。自分の体力と相談しながら、いい2日間を過ごすことができた。

SONIC MANIA

ソニマニは一番大きいマウンテンステージ、二番目のソニックステージ、そしてパシフィックステージとサカナクションがキュレーションしているNFステージの4ステージで同時にスタートしている。幕張メッセは巨大な室内イベント会場みたいなところで、建物の中でたくさんホールが区切られていて、中央の巨大なフードエリアを中心に、左右に複数のホールを使用してライブを行っていた。

まずは見たアーティストを。

どんぐりず

YonYon

Thundercat

ずっと真夜中でいいのに。

Flying Lotus

James Blake

Mura Masa

Ichiro Yamaguchi

です。iriやPUNPEE、Licaxxx、Perfumeなど観たかったアーティストは多々ありますが、この上記のアーティストを観て後悔したアーティストは一組もおらず。

まちがいなくオープニングを飾ったどんぐりずはPerfumeと迷いながらも観に行くと、途中で抜けようにも一切抜けられない、手加減なしのダンスフロアで完璧だった。おちゃめでユーモアなどんぐりずというよりも、1時間音が止まることの一切のないアクトで、ラップありダンスあり煽りありとステージを縦横無尽に駆け回るラッパー・森とDJのチョモがなにより楽しそうにしていたのが印象的。こういう他のアーティストと天秤にかけているときって、内心「途中で抜けよう」という気持ち半分と「でも楽しくて抜けられなかったってことにしよう」という気持ちが半分ずつあって、よくどこぞのライブレポとかみても「楽し過ぎて最後までいちゃった!」と賛辞を送っているのを観ても「それも織り込み済みだったんじゃないの」とよくない目線で観てしまうのだが、これだけははっきり言う。

本当にPerfume見たかった!!!

とちゅうBPMを落とした場面があって、ちょっと疲れていたのものあったから「ここ抜け時かな」とか思う自分もいた。でなきゃPerfume間に合わないわけだし。でも5~6歩下がって文字通り気づいたら足が止まっててちょっと踊ってたらまた前に戻ってて、そういう繰り返しをしていたら「どんぐりずみおわってからPerfumeいけばいいか」って思ってしまった。

結局どんぐりずは最後まで見て残り10分ほどのPerfumeに行こうと決意しステージを移動する。どんぐりずがパフォーマンスしていたパシフィックは一番左端にあり、上でも述べた通り中央のフードエリアを中心に左右に展開されているソニマニでは、パシフィックからperfumeがやってるマウンテンまではすべてのステージを横切っていく必要がある(多分)。なのでもうお分かりかと思うが、NFステージをふらーって通ってたら何やらご機嫌な音楽が流れているわけ。ビールだけここで買っていこうと立ち止まったら、ビールすら買わずにふらふらっと前方へ。もうね、ここで私のperfumeへの道は閉ざされてしまったわけ。YonYon、なんか肩から鞄提げてんじゃん。みんな楽しそうじゃん。えなに、ここ最高?みたいな感じであれよあれよと最前まで行ってスピーカー前で鼓膜ぶち破られながら昇天していた。

Thundercatが始まろうがなんだろうがYonYonから抜ける気はさらさらなく、全然思い描いていた行動とは違うなとは理解しつつも、それがフェスの醍醐味だ。この日のベストアクトはYonYonであることは自信をもって言い切ることができ、それくらいに彼女のプレイは魅力的だった。

もうひとつ、期待以上だったという点では、ずっと真夜中でいいのに。は印象的だった。「あいつら全員同窓会」と「綺羅キラー (feat. Mori Calliope)」くらいしか知らないしなんならその二曲もそんなに知らないけれど、ちょっと見てみるかーくらいの気持ちで覗いたらラスト4曲くらいしか聴けなかったけれどそれはもう度肝を抜かれた。まず演者の多さ。ホーン隊、ギター、ベース、ドラム、に加えてブラウン管をボンゴばりに叩くパーカッション的な人と、最初テルミンかと思ったらよくよくみたら映写機みたいなのをつかって何しているのかよくわからない人もいたりとかなり大所帯。誰がメンバーでだれがサポートなのかさっぱりわからないが、ボーカルのACAねが中心人物なのはわかる。そして彼女もまた扇風機を改造したギターのようなもので音を奏でていて、何この攻めた変な集団は、とあっけにとられる。こういうコンテンポラリーなことをする音楽集団ってみたことはあるし別にそこに驚きはないのだが、ずとまよって広義のボカロ(私の解釈ではネットに音源をあげて有名になった人たち)だとおもってたので、どちらかというとそういう畑出身のアーティストは「原曲と変わらない高パフォーマンス!」がウリだと勝手に思い込んでいた。なのでふたを開けたら超絶ライブバンドで、隣でThundercatが唸るベースプレイをしているというのにまるで張り合うかのようにベースソロをかまして楽曲に入ったり、ソロプレイが各々にあったりと想像以上に肉体的。一部分だけ聞いたことあったりと、ほとんど無知レベルの自分でも圧倒されながらノッていた。ずとまよ、すごかった。多分帰って聴く。

Flying LotusにしろMura masaにしろ、タイプは異なれど躍らせることに関してはなんの心配もいらないレベルで、腰が痛くて座っていようと眠たかろうと、無条件で立ち上がらせる強靭さはさすが世界のトップ。James Blakeは前列でみていたが、音響トラブルもあってなかなか大変そうではあった。2日前に大阪の単独にも行っていて、それは客が少ないこと以外最高のセトリをパフォーマンスだったので、それと比べると「Vincent」も「The case of You」もやらなかったソニマニでは「単独行ってよかったな」と心底思った。でも盛り上がりはやはりフェスの方がいいし、客層も違うので一体感が違った。

マウンテンステージのMura Masaが終わり、始発で帰ろうとする人たちもいる中で、最後の最後まで踊りたいひとたちはNFステージの山口一郎(サカナクションボーカル)のDJへ。きわめて原始的で忠実なDJプレイを披露する山口は、おおきなキメもなく淡々と躍らせ続ける。それがまた彼らしいし、こだわりなんだろうというのが伝わってくる。わかりやすさとかフックの数とかそういう物差しで測られたりもするDJプレイの手さばきは決してそれだけではなくこの絶え間ない没入感とトリップ感も一つの腕の見せ所である。

1時間みっちりと躍らせ、無事プレイを終えた後、アンコールに応え「もう一曲やる?」とサカナクションの「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」をかける。会場にどれだけサカナクションファンはいたかはわからないし、私も好きな曲は多々あれど最近はあんまり聞かなくなったなあと思っていた人間だったが、さすがにこの曲のブチアガり方はものすごいものがあった。そしてこの曲のチョイスも憎いね。大好きだ。

朝5時すぎ。明るくなった朝焼けをみながら会場を出ると、すでに今日のサマソニへの待機列が。サマソニ東京には行ったことがないので、この待機列が何を待っているのか、どういう会場への導線なのかはわからなかったが、「一足お先に楽しませてもらってまーす」の気持ちでホカホカの体で会場を後にした。

SUMMER SONIC

5時半の海浜幕張発東京行の京葉線にのり、6時半には新大阪発の新幹線には乗車。一度目を閉じて開くと不思議なことに京都駅を過ぎていた。マナーモードでアラームを設定していたバイブで目を覚まし、JRに乗り換え一度自宅まで。10時過ぎには帰宅し風呂に入り仮眠、12時に再び起きて13時半にはサマソニ大阪会場入り。この日の目当てはLiam GallagherとKendrick Lamar。むしろその二組のためにチケット代を支払っていると言っても過言ではない。正直なところケンドリックに全振りしたせいで他はかなり国内で集客が見込めるアーティストで固められている感もいなめないが、それでもケンドリックを呼べていることはとてつもないことだと思う。

あきらかに災害レベルの(事実災害と言ってもいい)暑さで、ちゃんと逃げ道を作っておかないと本当に命にかかわってくる。ゆっくりご飯を食べ、ビールを飲み、塩飴を舐め、日陰で腰掛けて休む。数年前は見たいアーティストが多くいて、かつ一人もこぼすまいと時に走りながら観ていたのだが、その甲斐あってか、年齢的な問題か、音楽への熱が少し落ち着いてきたからか、見たいアーティストをしぼれるようになってきた。inhalerをじっくり鑑賞してからOcean Stageのリアムギャラガーのもとへ。

リアムはソロキャリア含めて最も勢いも充実感もある時期が今で、それは誰もが見て明らかなことだろう。この日もソロ曲とOasis時代の曲を半々くらいで演奏していたが、ソロ曲も十分盛り上げを見せていたのは彼の調子の良さもあるだろう。最後にLive ForeverかChampagne Supernovaかを客に選ばせて「Champagne Supernova」を披露したリアムにはやり切った感が漂っていたし、観客も思い残すことのないくらいに大声で歌い、盛り上がっていた。

そのヘッドライナークラスのパフォーマンスを見せたリアムのあとに満を持して登場するのはケンドリックラマー。世界最高峰にして最強と言っても過言ではないレジェンドを生で見られる興奮もあるが、それ以上に彼が登場した時の観客の興奮っぷりのほうが異常だった。今までサマソニに参加してきて見たことがないようなもので、どよめきというか、その存在感に圧倒されている様子だった。ざわめき興奮し未だ信じられずといった様子で、その異様な雰囲気は経験したことのないものだった。

オールタイムベストのようなセットリストで沸かし続けるとそれに呼応するように観客のシンガロングも大きくなる。ケンドリックが呼びかけると大歓声が沸き、歌えというと歌いだす。2018年、サマソニにチャンスザラッパーが来て特に大阪ではその過疎ぶりが話題になったりシンガロングのできなさを指摘されたりと、日本におけるヒップホップの問題は浮き彫りとなってしまったが、この5年で景色は一変したように思う。誰もが歌い、どの曲でも大盛り上がりする。それは新鮮で、時代って動くんだなあとしみじみ感じた。

サマソニ大阪のチャンスザラッパーを見て思うこと

詳細なレポはできるほどに記憶がないが、ずっと興奮しっぱなしだったことは確かだ。最後に花火が上がりケンドリックがステージを降りるまで、あの時間は彼のもので、彼がすべてを握っていた。だけど最後まで彼は優しく温かかった。演出はミニマムで演奏陣すらバックステージに追いやった。ただケンドリックが歌いそれに観客が応える。シンプルで最小単位のコミュニケーションはヒップホップそのものの成り立ちを表しているようだった。

2011年に初めて参加してから、サマソニ大阪は常に私の夏と一体化していた。サマソニ最初期のころは知らないが、私の洋楽との接点は紛れもなくサマソニ大阪だ。

今年はソニックマニアに初参加することでサマソニにいこうかは迷っていたのだが、結果的に言ってよかったと思っている。かなりハードなスケジュールで動いてはいたが、2019年の3日間開催の時にノックアウトされてから、またコロナもあったし自分が音楽に対する接し方、フェスのめぐり方の考え方が変わってきたこともあって、うまく配分や暑さ対策をつくることができるようになってきた。そのおかげで無理なく、見たいアーティストに注力することができたので結果的に充実感は大きかった。

どうしても運営のスキルも警備もアーティストの格差もシャトルバスの問題も暑さの問題もフードの問題も全部未解決なうえに向上することもない点は目につくし、それに輪にかけて客層の質の低さは目に余る。今年はゴミも多かったし、フェスに大して思い入れがなく推しがいるから見に来ただけという人たちにとってはサマソニがどういうフェスであるかは問題ではないのだろう。今年はじめてフジロックを経験して(ライブレポはこちら)その差を肌で感じたからこそがっかりする部分にどうしてもフォーカスしてしまう。

でもサマソニにしかない魅力はあって、サマソニだからこそ感じられる喜びもある。フジロッカーはいてもサマソニッカーなんて言葉がないのは、サマソニだから行く人はいなくてサマソニにでるアーティスト目当てで行くから、とよく言われるけれど、それってフェスの醍醐味を表しているんじゃないだろうか。フジロックって古参になればなるほどフジロックらしさってものを求める人が多かったりするらしく、フジロックのラインナップはサマソニよりもトレンドよりオーセンティックさを重視していたりする。それはKPOPがいないことやアイドルが少ないこと、今年こヘッドライナーにLizzoを置いたけれど、ジェンダーバランスや女性アクトの位置づけに関しても保守的な部分は多い気がする。それに比べるとサマソニはずっと昔から意識的で、女性ヘッドライナーもあれば男女を50:50にする(賛否はあれど)年もあったりと、時代に合わせたブッキングを試みている。集客力のあるアーティストに頼らざるを得ないという視点は、捉え方を変えれば旬のアーテイストをつめこむことができるということ。個人的にはフジロックは集客の心配を(ある程度は)せずに攻めたブッキングができるところがいい。サマソニはとにかく今ここで見る価値のあるアーテイストをジャンルレスに並べてくれる。それは十分に自分にとってはサマソニでなきゃダメな理由になっている。

また来年もいかなきゃな、サマソニに。