James Blakeを知ってほしい

今回は珍しく1アーティストの楽曲紹介の記事にしようと思う。取り上げるのはJames Blake。私が大好きなアーティストであり、世界的にも有名なトラックメイカー、シンガーである。

彼は2010年にEP「CMYK」でその名を広め、満を持して出したデビューアルバムでありセルフタイトルの「James Blake」をリリース。私もこのころに彼に出会い、始め数か月は良さが分からず無視していたのだが、しばらくたって聞き直すと一気にドはまりし、そこからは彼を起点にポストダブステップと呼ばれるジャンルやその近縁のジャンルを片っ端からディグる日々。mount kimbieやSBTRKT、源流のBurialなど色々辿った。もちろんみなさんにも一人ずつ紹介したいが、まずは私の音楽体験、趣味嗜好を決定づけたJames Blakeについて10曲おすすめしたい。なるべくいろんな彼の姿が見られるといいなと思ってチョイスした。

①少ない音で魅せる、The Wilhelm Scream

まず彼を語るにはこのジャンルのおもしろさを知ってもらう事だろう。激しいビートやサビに向かって上がっていくサウンドはない。炎なんて一切吹きそうにもないしパーティチューンになんてなりそうもない。LDHだってこれでは踊れないだろう。ただ、そこにある引き算の美学、耳を澄まして全ての音を体全身で受け止めたくなるような趣がある。彼の代名詞でもあるこの楽曲でまずは感じてほしい。(1stアルバム「James Blake」に収録)



②声にうっとり、A Case of You

James Blakeの魅力はトラックメイカーとしてだけではない。彼自身の持つ声、それをとても気持ちよく、同時に物悲しく加工させて曲を創り上げるその才能にある。それがいかんなく発揮されているのが、ジョニミッチェルの「A Case of You」のカバー。彼らしいサウンドに仕上げ、そして彼の歌声が何とも言えない切なさを醸し出し今にも消えそうな儚さを演出している、原曲に負けない傑作になっている。(EP「Enough Thunder」に収録)




③ヒットメーカーとしての顔、King’s Dead

彼ももうただのイギリスのトラックメーカーではすまない。世界的に認められ、多くのビッグプロジェクトを手掛け、ラッパーなど他アーテイストをボーカルに招く売れっ子なのだ。あまり表だって話題になったり、注目を浴びるわけではないが(それでもフェスに出たらどの国でもビッグアーティスト扱いである)、その経歴は輝かしい。この曲は、ケンドリックラマーが映画「ブラックパンサー」のために書き下ろしたアルバムに収録されている一曲である。彼単独の楽曲ではないが、ちょっと辛気臭いなあと今のところ思っているあなたは、まずこれから聴いてみるといいかもしれない。(「Black Panther: The Album」に収録)



④世界が震撼した原点、CMYK

クラブシーンから登場したJames Blakeは、当然歌モノとして登場したわけではなかった。イングランドのクラブシーンでめきめきと頭角を現していた彼が放った2010年のEP「CMYK」世界中のクラブミュージック愛好家に好まれた。これで一気に彼の名が知れ渡ったといっても過言ではないだろう。そんなこと言っている私は当時を知らないのだが。
そんな彼の原点でもある「CMYK」はダンスミュージックに必要な素養が備わっていて、いつ聴いても楽しい。お酒がうまくなるし、暗いダンスホールでフラフラとよろめきながら音楽におぼれたい。(EP「CMYK」に収録)



⑤これぞ黄金タッグ、I Need a Forest Fire

彼の強みは、そのフィーチャリングの相手の圧倒的ぶりだ。世界一の人気を誇るラッパー、Travis Scottや各所で大絶賛されている新進気鋭の新人であるMoses SummneyやRosaliaといったチョイスはことごとく音楽マニアたちを悶絶死させる。そのなかでもやはり最も待ち望んでいて、最も美しいコラボはBon Iverとのコラボだろう。2011年に「Fall Creek Boys Choir」でコラボして、そのあまりの美しさに唖然としたのを覚えている。そのとき私はBon Iverの存在を知らなかったので、すぐに調べたくらいだ。私は個人的にこちらを推していきたい。この黄金タッグ、あと10曲くらいは聴きたい。(3rdアルバム「The Color in Anything]に収録)



⑥ピアノ×James Blake、Limit to Your Love

James Blakeといえば、ピアノ。彼の物悲しげな声と美しく響くピアノの組み合わせは破壊力抜群。Limit to Your Loveは彼の代表曲の一つでもあり、ピアノが素晴らしい働きをしている楽曲でもある。ただ、単純なピアノソロが続くのでなく、途中から重たいビートでクラブミュージックの趣も見せ、クラシカルな面とデジタルな面がハイブリッドした類い稀なる大傑作なのだ。ちなみにこの曲は彼の父親の楽曲であり、親子二代で楽曲をここまで育て上げたのだ。(1stアルバムに収録)



⑦ビヨンセとも一曲、Forward

大名盤の呼び声高いビヨンセのアルバム「Lemonade」の中の一曲に彼が作曲したものがある。「Forward」は何が凄いかって、まずJames Blakeから歌い始めるところだ。ビヨンセのアルバムに自分から歌いだせる名誉、しかもタイトルをいきなり宣言しちゃうのだ。気持ちが良すぎる。そしてビヨンセはあくまでコーラスに徹し、James Blakeの世界に華を添えている。1分強の短い楽曲だが、鮮烈な一撃を放っている。(「Lemonade」に収録)



⑧多重録音の響き、Are You Even Real?

James Blakeの特徴の一つとしても挙げられる、多重録音。彼の声がどんどん重なり、荘厳にもなりうるし、切なさを増幅もさせる。現時点で最新シングルである本楽曲はそれが堪能できる。歌モノとして機能しつつ、ダンスミュージックとしての機能も果たしている。もうすでに次のプロジェクトに動いているのだろう、と容易に想像がつく、素晴らしい楽曲である。(シングル「Are You REven Real?」に収録)



⑨サッドボーイではない、Don’t Miss It

内省的な歌詞が多く、歌い方も含め、「サッドボーイ」なんて言われがちだったJames Blakeだが、彼はそれに異を唱えた。男性だって内省的になるし、悲しいことも言うんだよ、と。その時に出したのがこの「Don’t Miss It」という楽曲。歌詞はやはり内省的だが、そこににじむ確固たる意思。まるで自分に語るかのように何度も何度も繰り替える「Don’t Miss It Like I did」は何度聞いても胸に突き刺さる。(4thアルバム「Assume Form」に収録)



⑩マイライフタイムベスト、Lindisfarne Ⅰ

私がJames Blakeで最も好きなのが、この「Lindisfarne Ⅰ」という曲。ボコーダーのみで、一切のサウンドが排除されたアカペラなのだが、この上なく気持ちがよく切ない。涙がこぼれそうなほどに美しく儚いこの楽曲が幾度となく私の心を潤してくれた。続く「Lindisfarne Ⅱ」はさらにサウンドが追加され、シームレスに続いているのだが、それも含めて本当に彼の真骨頂だと思うし、末永く愛していきたい楽曲である。ちなみにKing Gnuのベースの新井さんもこの曲をベストに挙げていたので、私は新井さんとハグしたい。(1stアルバムに収録)


まとめ

以上が私の好きなJames Blake10選である。まだまだデビューして10年程度なので、今から追いかけても十分間に合うほどの作品しかリリースしていないので、ぜひ一度時間をつくってじっくりとJames Blakeの作品と向き合ってみてほしい。