お笑いはどう音楽と組むのか

当ブログでは度々お笑い芸人のインタビューからの引用を枕として用いることがある。お笑いと音楽は親和性が高い部分があると考えているからだ。

島谷ひとみは沁みないことに向き合う

UVERworldの男らしさと自己責任論についていけなかった

「HOME」をテーマに掲げるsumikaは誰にも真似できない

お笑い芸人は時代の空気をよく読んでいる。だから絶妙に炎上しそうでしないことを言ってのけたり、毒舌で笑いにしたり世間や権力をおもしろおかしく斬ったりする。音楽は、”おもしろおかしく”ではないかもしれないが、こちらもまた、世間や権力を斬っていく。それだけが音楽の魅力じゃないのはお笑いも同じで、直接的に揶揄するだけじゃなくて、その空気感全てが反権力だったり窮鼠猫を噛むような急襲だったりする。具体名でいえば、忌野清志郎は露骨に政府を皮肉った歌を歌っているし、ウーマンラッシュアワーはネタに社会問題をあからさまに取り入れているが、それだけが反体制、反権力、社会問題への切り込み方ではない。千鳥が最近の流行のものにチクリとバカにするのも、マツコ・デラックスが新しいクリエイターと語る度に本質的な話になるのも、フワちゃんの存在も、アンミカの「白は200種類ある」というネットミームすらも、どこからしらで世間と接続されている。そこを見出すのが楽しいし、そこから新たな発見があればいいなと思って日々ブログをつづっている。

吉本興業が「DAIENKAI」と称したフェスを開催することを発表した。私が今この記事を書いている段階では第一弾アーティストしか発表されていないが、面子は、アーティストがKEYTALK、キュウソネコカミ、クリープハイプ、四星球、TOTALFAT、BLUE ENCOUNT、ヤバイTシャツ屋さん。芸人からは千鳥、おいでやすこが、和牛、マヂカルラブリー、チョコレートプラネット、見取り図、金属バット、ロングコートダディ、ニューヨーク、オズワルド、カベポスター、男性ブランコ、空気階段、ミキ、ニッポンの社長、マユリカ、ヨネダ2000が発表されている。吉本主催なので非常に大きなイベントになるであろうということで集客と客層も加味した組み合わせなのだが、少し音楽が笑いに偏り過ぎている気もしなくはない。無理にお笑いやっている音楽を合わせなくてもいいのに、と個人的には思う。「FNSラフ&ミュージック~歌と笑い祭典~」という特番が地上波で放送されていたが、そこではかなり音楽は音楽として(当然若年層向けの番組なのでボーカルグループやアイドル、若手などが多く出演しているが)独立して真面目に披露していたイメージがある(とはいえ歌唱後にひな壇に座りHEY!HEY!HEY!よろしく軽快にトークをしなければならないのだが)。

今カッコ書きでも述べたが、かつて放送されていたHEY!HEY!HEY!やうたばんはかなりお笑いと音楽の融合、というより音楽にお笑いの要素を足した番組だった。アーティストもタレント性(ひいてはトーク力)が必要になったのはこの時期からで、テレビ的にはどうしても音楽がお笑いに接近せざるを得ない。芸人が歌うということをその逆として捉えるのならお笑いが音楽に接近していることは日常茶飯事だからという見方もできる。

ただ、もっと深い文化的な部分で、主催者側がなにを意図してそこ二つを結び付けたのか、観客自身で感じ取る必要がある融合イベントは、最近見かけるようになった。単純に仲がいいからなのか、同じバイブスを感じているからなのか、それは行ってみないとわからないのだが、その代表的な例をいくつか挙げてみる。

ゲスの極み乙女 × さらば青春の光

GORILLA HALL OSAKAの新イベント「ROCK or LIVE!-ロックお笑い部-」の第一弾として選ばれたのがこの二組。ゲスの極み乙女のフロントパーソンである川谷はジェニーハイというバンドで故藪一豊とくっきーをメンバーとして取り入れたり、ラランドのサーヤをボーカルに据えた礼賛を稼働させたりとそもそも芸人と非常に近い位置にいる人物である。そんな彼が対バン相手に選んだのはさらば青春の光だった。

本公演は、ロックバンドとお笑い芸人の2組による2マン企画ライブ。ロックとユーモアは近い距離にありながらも、ロックバンドとお笑い芸人が一緒にライブイベントに登場するシーンはそこまで多くなく、両方を一度に楽しめるイベントがあればという思いから本企画が立ち上がった。記念すべき第1回目に出演するのは、ゲスの極み乙女とさらば青春の光。ゲスの極み乙女・川谷絵音がさらば青春の光の単独ライブのテーマソングを制作したり、さらば青春の光・森田哲矢が川谷主宰のプロジェクトに出演するなど、かねてから交流のある2組による特別な一夜となる。

ゲスの極み乙女&さらば青春の光による特別な夜『ROCK or LIVE!-ロックお笑い部-』開催決定

クリープハイプ × ニューヨーク

個人的にこの二組は非常に空気感が近いんじゃないかと思っている。異質とは思感じない。2010年代の「エモい」に加担し滑車を回し続けたクリープハイプと、世の中の「ダサい」を徹底的に笑いに昇華させていつまでもどこか東京の夜の裏道を歩くようなシャープさのあるニューヨークは、受容側からしても同じ世代、同じ価値観の人たちが交わるんじゃないかと感じている。そういえば、エモいが振り切れてただけの「ちょっと思い出しただけ」では、その”東京エモ”の片棒を完全に担ぐ形となってニューヨークの屋敷が登場するが、その薄っぺらさ(役柄として)がニューヨークのMVに出てきそうなそれだったのを思い出した。ちなみにニューヨークの嶋佐はoasisのリアムギャラガーを完璧に歌いこなしたりRed Hot Chili Peppersのアンソニーを完コピしたりなど度々音楽への愛をほとばしらせている芸人でもある。空気階段ではなくニューヨークってところがいいね。

04 Limited Sazabys × 四千頭身

上記二つにしてみるとフォーリミと四千頭身の組み合わせは意外に感じるかもしれない。四千頭身の都築はそのファッションセンスからアイコンとして確立するほどに”オシャレ”で通用しているまさにサブカル的な立ち回りをする人だが、残りの二人からはあまりその香りは感じない。こちらも「ROCK or LIVE!- ロックお笑い部」のイベントの一つ。フォーリミはメンバーのノリからも察するように多分非常にお笑いに対して好意的だと思うし、なんならコントに参加してきそうな勢い。

THEラブ人間 × マユリカ

もともとマユリカの阪本のバンド「ジュースごくごく倶楽部」とツーマンの経験があるTHEラブ人間が、マユリカともツーマンを組む。

PK shampoo × Wienners × 金属バット

たまたま検索していたらでてきたのがこの座組。金属バット以外全く情報がなく二組のバンドは名前くらいしか知らなかったのだが、結構意外な、オーソドックスではあるけどシンプルに面白そうな組み合わせに感じた。金属バットの立ち位置として、これくらいしっかりしたバンドが前(あるいは後)にいるのはなかなかハードル高そう(かといって絶妙なパスも金属バット相手に出しにくいだろう)だ。

突然少年×ミルクボーイ

2020年に「スタンディングスティックス 異種格闘編~突然少年×ミルクボーイ、せっかくなのでヤリましょう。~」が下北沢で開催。たまたま交流があった二組がツーマンをセッティング。

a flood of circle、金属バット&四星球

「KINZOKU Bat NIGHT」という名前で開催。a flood of circleが先に演奏を終えると、そのあとをうけて金属バットが漫才を行う。四星球、金属バットを再び挟み、a flood of circleが締める。ちょうどa flood of circleのロックな部分と四星球のコミカルさに融合が金属バットみたいなもので、バランスの良い組み合わせだと思う。

東京03 × Creepy Nuts

単独公演のチケットは常に即完売、名実ともに日本を代表するコントグループ、東京03と作家のオークラが、“芸人” “役者” “ミュージシャン” “アイドル”など、様々なカルチャーシーンで活躍する人たち共に“もっと自由に”“もっとふざけて”というコンセプトで始めたエンターテイメントショー「東京03 FROLIC A HOLIC」(読み:フロリックアホリック)(=意味「はしゃぎ中毒」)。今回、東京03が一緒に“悪ふざけ”をする相手は…様々な分野で活躍する人気ラップユニット、Creepy Nuts。さらに公演場所は、エンタメの聖地、日本武道館!
さらにジャンルを超えたゲストたち集結する!単なるコントライブともいえない、演劇ともいえない、音楽ライブともいえない…
『なんと括っていいか、まだ分からない』だけど超絶楽しい!
そんなスペシャルな公演をお届けします。

公式HPより

お笑い界でも、もっとも劇場を沸かせライブで右に出るものなしの実力と人気を誇る東京03がCreepy Nutsを招聘するのはある意味で納得がいく。

Aマッソ × KID FRESINO

「QO」はKID FRESINOがかねてより大ファンだったAマッソの村上にNHK特番「シブヤノオト Presents KID FRESINO one-off」のナレーションを依頼したことをきっかけに企画された、音楽とお笑いがコラボレーションしたライブイベント。ライブ演出を映画監督の長久允が担当し、KID FRESINOによるバンドセットでのライブと、Aマッソがこのツアーのために準備したコントが交互に繰り広げられた。東京公演にはゲストとして鎮座DOPENESSと佐瀬悠輔も登場した。

KID FRESINO×Aマッソの異色ツーマンライブがアナログ化、アマプラでの配信もスタート

AマッソとKID FRESINOの両者ともどこか近しいエッジ感とストリート感は理解できる。お笑いがヒップホップと融合するとき、そこにはストリートの要素、あるいは弱者の反撃的な要素はシンクロするに値するものがあり、FRESINOのキャラクターはヒップホップを溶かし、Aマッソのスタイルはお笑いを鋭利にさせている。

まとめ

ここまでさまざまな芸人とミュージシャンのコラボイベントを見てきたが、個人的なつながりからイベントに派生したものもあれば、おそらくどこか通ずるところがあってコラボしたものもあっただろう。そのどちらが正しいというわけではないが、少なくともそれぞれが交互に披露しあうのが今のところ最も両者をリスペクトした形として収まっているのだろう。決してフリートークやコントでミュージシャンを参加させたりしない。本気と本気がぶつかり合っている。

でも、もしかしたらもっといい方法があるかもしれない。交互に披露しあうだけでなく、もっと両文化が迂回ところでつながりあう方法を編み出せば、こういったコラボイベントはさらに先に進んでいくはずだ。