原題はA Star Is Born。レディーガガが主演を務め、アカデミーでも多くの賞にノミネートし、主題歌賞を獲得。2019年の大きなトピックのひとつだった。実はこの映画、三度目のリメイクで、原作は「栄光のハリウッド」という、1932年にアメリカで制作されたドラマである。これをウィリアム・A・ウェルマンが1937年に「スタア誕生」として映画化したものが大ヒット、後に何度もリメイクされることになる。調べたら過去にエスター(アリー)はジュディ・ガーランドや ジャネット・ゲイナー、バーブラ・ストライサンドなどそうそうたる面々が務めてきているのがわかり、レディガガの抜擢ぶりと、やはりそのスター性を再確認した。

結論から言うと、映画はどうにもこうにもつまらなかった。自分の肌に合わない。観たときは、これがリメイク作品で原作は70年以上前だったことなど知らなかったのだが、鑑賞後その事実を知り納得する。ずっとこの映画を「よくわからないけどおもしろさがわからなかった。眠たかった。大人な映画だった」と表現していたが、大人な映画というよりは、クラシカルなアメリカンサクセスムービーなので、文化土壌が違い歴史を知らない日本人が見てもイマイチ面白さが伝わらなかっただけなのだ。日本人がカントリーミュージックを聴かないのと同じだ。

歌の才能を見いだされた主人公がスターダムを駆け上がっていく姿を描き、1937年の「スタア誕生」を皮切りに、これまでも何度か映画化されてきた物語を、新たにブラッドリー・クーパー監督&レディー・ガガ主演で描く。音楽業界でスターになることを夢見ながらも、自分に自信がなく、周囲からは容姿も否定されるアリーは、小さなバーで細々と歌いながら日々を過ごしていた。そんな彼女はある日、世界的ロックスターのジャクソンに見いだされ、等身大の自分のままでショービジネスの世界に飛び込んでいくが……。世界的歌姫のガガが映画初主演でアリー役を熱演。もともとはクリント・イーストウッドが映画化する予定で進められていた企画で、「アメリカン・スナイパー」でイーストウッドとタッグを組んだクーパーが初監督作としてメガホンをとり、ジャクソン役でガガとともに主演も果たした。第91回アカデミー賞で作品賞を含む8部門でノミネートされ、主題歌賞を受賞した。約12分間のシーンが追加された「アンコールバージョン」も一部限定上映。

作品のクオリティ云々ではなく、単純にツボが違った。何度見てもブラッドリークーパーと思えない風貌のジャクソンはずっとモゴモゴ話していて聞き取れないし、ドラッグ漬けなのもなんだかイマイチ今っぽくない(グラミー賞のステージでぶっ倒れるシーンは単なるコメディ)。あとジャクソンは売れっ子なのかそうでないのかもよくわからない。事実ジャクソンがグラミーのステージでぶっ倒れたときも家族が真っ先に来て、マネージャーやら裏の人たちは一切手を貸さないので、浮浪者か何かかと思った。

アリーが初めてジャクソンのステージで歌った時、そして屋外のステージでソロを披露した時の楽曲と衣装と雰囲気は恐ろしいものがあり、こだわりを感じるショットだった。
それが売れていくにつれ、ダンスが追加され、化粧がケバくなり、衣装が過激になり、彼女のソウルフルな歌声はいまっぽいダンスミュージックによって台無しにされてしまう。なんともアメリカの音楽産業を端的に表したシーンで、やはりアメリカでも過度なショービジネス化はその人の個性をつぶしているんだなと再認識。日本とかわらない。正直言って、アリーのサクセスストーリであり、音楽的な質の話は触れていないが、音楽の話にクローズアップすれば、明らかに幻滅せざるを得ないレベルのクオリティに堕ちている。それはおそらく制作側とブラッドリークーパーも意図しているだろう。まったく魅力的でないし、グラミーが取れた理由もイマイチわからない。ワンコーラスしか映像ではなかったので判断はできないが、あんな音楽、2010年までで精いっぱいだと思う。まさにガガ自身がのし上がってきた時期に通用した煌びやかと軽薄さ。

ただ、何度も言うように、前半の音楽は最高で、サントラもかなり売れたはずで、知っている人も多いと思うが、まだ見ていないという人は、別に作品は観なくてもいいから音楽だけ聴いてほしいなと思う。