燃え殻さんが書いた原作を意気揚々と書店で買って一気に読了した作品が映画化された。正直話の内容もあまり覚えてなかったし「おもしろかった」くらいのイメージしかなかったので、もう一度初見から物語を追いかける気分で楽しめたのもよかった。

作家の燃え殻が2016年に発表したデビュー作「ボクたちはみんな大人になれなかった」を映画化。1995年、ボクは彼女と出会い、生まれて初めて頑張りたいと思った。彼女の言葉に支えられ、がむしゃらに働くボクだったが、1999年、彼女はさよならも言わずに去ってしまう。ボクは志していた小説家にはなれず、ズルズルとテレビ業界の片隅で働き続ける。2020年、社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳のボクは、いくつかの再会をきっかけに“あの頃”を思い出す。主人公を森山未來、ヒロインを伊藤沙莉が演じ、大島優子、東出昌大が共演。数々のMVやCMを手がけてきた映像作家・森義仁が長編初メガホンをとり、「そこのみにて光輝く」の高田亮が脚本を担当。2021年11月5日からNetflixで配信され、同日から劇場公開。

映画.comより

たしか数年前に読んだ本なので原作には2020年のオリンピックなんて描写なかった気がするし、ましてやコロナ禍でマスクをした演者が登場するとも当時は考えもしなかったはずだ。

物語は現在を起点とし、どんどん時代を遡っていく構成。そして「かおり」との出会いが少しずつ明らかになって、「僕たちはみんな大人になれなかった」というタイトルの意味に少しずつ近づいていく。

邦画にしてはめずらしく実在する登場人物が頻出される。これは2015年を描いた「花束みたいな恋をした」の1995年版のようで、なにやらこの2015年と1995年は時代を切り取るには面白い年なのかもしれない。比較してみると、面白い点もたくさん見つかる。

基本的には小沢健二を中心に二人が接近し物語の核になっていくのだが、小沢健二に全く興味のない私でもエモーショナルになれるような作りになっているので安心してほしい。知らない単語も出るし、95年が自分にとってあまりに幼過ぎるため記憶がなくても「こんな感じだったんだろうなあ」という想像を掻き立ててくれるので、ちゃんと物語にのめりこめる。

なにより森山未來と伊藤沙莉が素晴らしい演技をしている。森山未來の7変化が楽しくて仕方がない。彼ってサブカルなんてくそだーー!と童貞丸出しのフジロッカーを「モテキ」で演じたかと思えばサブカル丸出しの90年代の青年も演じ、そして2020年にはある程度の地位を確立した年季の入ったおじさんにもなれる。そして別職は前衛アーティストという、おもしろすぎる人だ。

伊藤沙莉の90年代ファッションの似合い方はその顔の造詣からか、どことなくアナログフィルムの似合いそうな面持ちは、抜群のキャスティングだと思う。

そしてこの映画のハイライトシーンでもある「天使たちのシーン」は私が小沢健二で「ラブリー」と「今夜はブギーバック」以外で知っている唯一と言って差し支えのない曲だ。そしてこの曲はとにかく長くて単調だが、同時にこの曲に惹かれる人が多い理由も分かるし、私もその一人である。とにかく一度、映画をみたら絶対フルで聴きたくなるので、この曲と併せて映画を振りえってみてほしい。